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5-7 8本……9本……1本足りない

豚人《オーク》に道案内されガットは小川に来ていた。

体中に付着した巨鰐《タラスク》の血を洗い流すが、頑固にこびり付きなかなか取れない。


「鼻がバカになって感じないが、そんなに臭いか?」


「ひどい、臭い、早くしろ」


流した血で川が真っ赤に染まっていた。


「オマエ、名前、何だ」


「俺か? ガットだ、豚人《オーク》にも名前があるのか?」


「ある、俺は『じぁえあゃたぉさ』だ」


「すまない、俺に豚人《オーク》語は理解できないようだ」


「オマエ、決めろ、俺、話せる」


「決めろってなあ、まあ確かに呼びづらいし。――ダルケはどうだ?」


彼は平均的な豚人《オーク》だ。背格好は人間と大差ない、少々小太りだが。

身長はガットより拳一つほど大きい。

人間からは豚人《オーク》の年齢は判断できない、たぶん二十歳ぐらいだろう。


「それでいい。……ガット、俺、連れて行け」


「連れてけ? どこにだよ」


「町に」


「人間の町にか、酷い目にあうぞ?」


「いい」


「何が目的だ、巨鰐《タラスク》は退治したんだ、もう人間と接触する必要はないだろ」


「俺、謝る、戦争始めた」


「ああ町を襲ったことか……。今さら謝っても何も良いことはないが。豚人《オーク》の長《おさ》からの指示か?」


「俺だ」


「なんだ個人的か、それならもっと止めたほうがいい。町へ入ったらオマエ殺されるぞ」


「ガット、言った、西の人間、悪い、東の人間、悪くない。でも俺、戦争始めた」


「……言い方が悪かったな。東にも悪い人間はいる。場所じゃないんだ、一人一人を見て欲しかったんだ」


「わからない」


「まあいい、オマエの命だ好きにすればいい」


―・―・―・―・―・―・―・―・―・―


傭兵達一行がターバンズに到着した。


長い旅を終え一息つこうと考えていた矢先、

「おい! 豚人《オーク》が町に入って来てるぞ」、町の人が大声で叫んだ。


その声を聞き集まる人々。

ガットはルーベルガに話を通し、ダルケを同行させる承諾を得ていた。


「この豚人《オーク》は謝りに――」


ガットが説明しようと話し始めると、それを遮るように中年男性が叫び始める。


「おいあんたら雇われた傭兵だろ、そいつ倒してくれよ」

中年男性がルーベルガに依頼する。


「そこのオッサン人の話聞け、この豚人《オーク》は謝りに――」


ガットの話しを無視し、大声で怒鳴り散らす中年男性。

「何してるんだ、さっさとやらないか!」


「おいオマエ……こいつに恨みでもあるのか?」、声のトーンが下がる。


「子供がなに言ってる、そいつは豚人《オーク》だ! この町を襲ったんだぞ」


「俺たちと協力して巨鰐《タラスク》を退治したのもこいつだ」


「そんなの知るか! 豚人《オーク》に変わりないだろ、早くしろよ!」


「へえーそうかよ。コイツは俺の友達だ、それをオマエは殺せと言うんだな」


「当たり前だ豚人《オーク》だぞ!」


「なら今からオマエは俺の敵だ」


戦いに慣れた者ならわかっただろう、彼から本物の殺意が溢れていることを。


「ガキがふざけたことを言うな」


爺を抜き体勢を低くし、すぐ飛びかかれる状態になるガット。


「そしてオマエはターバンズの人間だ、ならターバンズ全員が俺の敵だ……。一人残らず消し去ってやる」


金属がぶつかる甲高い音が町の通りに響く。


「ひぃ」、中年男性が腰を抜かす。


ガットが飛びかかり中年男性を刺そうとした攻撃を、間一髪でルーベルガの戦斧《せんぷ》が遮った。


「オイオイオイ、にいちゃん待ってくれ。俺はこの町を守るために雇われた、にいちゃんがこの町を襲うってんなら、今から敵だぞ?」


「仕方ないさ、そいつが俺の敵になったんだ。この町は潰す」


ガットの連続攻撃をルーベルガは戦斧《せんぷ》の面部分を使い受け流していた。

短剣と斧の勝負、パワーでは斧が有利だがガットの連続攻撃を受け流すので精一杯のようだ。


「なあにいちゃん、どうしてそんなに怒ってる? ちょっと過敏じゃないか」


「俺は理不尽な殺意が大嫌いなんだよ。あいつらが個人的に因縁があるなら殺し合えばいい、だがダルケには殺される理由がない」


じりじりと押すガットの攻撃に防戦一方のルーベルガ。

ガットは狙いを分散させ、受け止め辛い攻撃に切り替える。

金属音だけだったのが、時折肉の裂ける音も混じり始めた。


ポトリと中年男性の足下にルーベルガの人差し指が転がり落ちる。


「ひっ」


さらに中年男性の足下にルーベルガの中指が転がり落ちる。


「な、なあ待ってくれ二人とも、あんたらはこの町を守った人たちだろ? なんで争ってるんだよ」


事が大きくなり動揺する中年男性。


「仲間を殺せって言われたんだぜ、抵抗して当たり前だろ。俺だって傭兵団の団長じゃなけりゃオマエなんて守らねえよ」


「あーあんたらいかれてるよ、もういい好きにしろ」


中年男性が捨て台詞を吐きその場から逃走する。

町の人も興味が失せたのか潮が引くようにいなくなった。


殺す相手がいなくなり、戦う理由がなくなったガットが手を止める。


「ハスエル、済まないルーベルガさんの手当てを頼む」、息を切らしながら言うガット。


ハスエルの治療により、元通りに指がつく。


深くお辞儀するガット、

「ルーベルガさん、場を収めるため手加減したろ……。怪我までさせてご免なさい」


ゴキゴキと繋がった指を伸縮させて具合を確かめるルーベルガ。


「なんだよバレてたか。――にいちゃんの言いたい事はわかる。だがこの町を襲うのはやりすぎだ。それじゃいつまでたっても争いは減らないぜ?」


「……そうだな」


つい先ほどまで殺し合っていたのを忘れたかのように、明るい声を出すルーベルガ。

「よーし、野郎ども! 無事に帰った祝いだ派手に飲むぞ!」


「ういーっす」


「そして、俺に傷を負わせた埋め合わせだ、今晩はにいちゃんのおごりだぜ! おい、酒場は貸し切りだ、ダルケ来いよ、一緒に飲もうぜ」


「ひゃっほー」、騒ぐ団員たち。


「ガット、いいのか?」、青い顔をするガットにダルケが聞いた。


「金足りるかな……」

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