5-4 山の向こうにもう一つ山があった
ガットが豚人の避難所に出かけている間、ターバンズ組は作戦会議を行っていた。
酒場のテーブルで昼食を取る一同。
食事しながらエダフが話しを切り出す。
「さて、私たちは巨鰐攻略の作戦を考えますか」
「確か大きくて、山ぐらいまで育つって言ってたわ……」
ハスエルは目の前にある鳥の丸焼きをつっつきながらガットから聞いた情報を伝える。
ルーベルガが腕を組みながら、
「そんなにデカイのか、まいったな」と、困惑した表情を浮かべる。
「私たちに戦闘の知識はありませんから、ルーベルガさんが頼りです」と、エダフが言う。
「そうだなあ、近寄るのは危険だろうな、まずは遠距離攻撃を考えるか」
「となると弓矢ですね」
「ああそうだな、矢を大量に用意させよう。他には投げ槍がある」
「毒は通用しますかね?」
「やってみるしかないだろうな、槍の先端に毒が塗れるよう手配しよう」
「あとは攻城兵器はどうですかね、バリスタがあれば巨大な敵でも……」
バリスタとは、丸太ほどの矢を飛ばす据え置き型の巨大な弓である。
「俺らは傭兵だ攻城兵器ほどの大物は持ってねえなあ。確認したが、この町には戦闘に使えそうな物は何もなかった。それにバリスタはデカイから山移動には向かないだろう」
この世界では、まだ火薬は発明されていない。よって大砲や鉄砲などの火器は存在しない。
「魔法はどうだ? 傭兵の中には魔法使いはいないが……。おじょうちゃん治療意外は?」
「私は治療だけです、先生はどうですか」
「私はランプに火が灯せるぐらいの火力ならありますが、生き物を殺傷するのは無理でしょうね」
「ソフィーが象人から俺たちを助けた時、あいつの足を止めてたよな」
ケインが過去の冒険で見た魔法を思い出し、ソフィーに聞いてみると、
「そうね、足止めぐらいならできるわ」
「そりゃいい、動き回らなければ接近戦もできるな」、少し嬉しそうなルーベルガ。
「かなり堅いって言ってたよな、たしか亀の甲羅とか」、とケインが言う。
「そうなると、武器は剣より鈍器系か……鍛冶屋に作らせよう」
「お金はあるんですか?」
傭兵団が貧乏そうに見えたのかハスエルが心配する。
「安心しろ、出資者は町長だ。請求書は向こうに届く、ガッハッハッハ」
ハスエルが困った顔をしている。どうやら町長の財布を心配しているようだ。
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ガットが豚人の避難所からターバンズに戻ると出発の準備は完了していた。
「にいちゃんどうだった?」
出迎えたルーベルガにガットが、
「ああ、豚人から地図をもらってきた。奴らが嘘を伝えたのでなければ巨鰐の居場所は問題ない」
「よっし、これで問題はクリアーだな」
「これは出発の準備か?」
「ああ、矢と投げ槍は大量に用意し二台の荷車に乗せてある。俺の傭兵団が三十四名、そちらが六名の計四十名だな。人数分の食料は馬車二台に積み込んだ、二週間は食いつなげる予定だ」
馬車も荷車も傭兵団の持ち物だ。
「言われたとおり行動食は各自が持ってるわ」、ハスエルがケインのバッグを叩く。
行動食とは簡単に食べられる食料で、ソーセージや干し肉、果物などが主流だ。
「準備はいいか? ――おい! オマエら行くぞ」
「ういーっす」
一行はターバンズを後にする。
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少し厚い雲が空を覆っている。
長距離の徒歩になる一行にとっては暑くなく丁度良い天気と言えよう。
トニエとソフィーはガットを挟むように歩き、その前をケインとハスエルが並んで歩いていた。
老人というわけではないがエダフは馬車に乗っている。
「山かあー」
ソフィーの呟きにガットが反応した。
「どうした?」
「エルフは森の民だけど平地の森なのよ。山林は苦手なの」
「どんな違いがあるんだ?」
「どちらも土の精霊の加護なんだけど、山にいるのは土の派生種で山の精霊なの」
エルフの珍しい話しにトニエが目を輝かせて聞いている。
「仲は良いはずなんだけど、直接山の精霊とは話したことがないのよ……」
「魔法が使えないってことか?」
「使えるとは思うけど、力は弱まると思うわ」
「まあ、まずは巨鰐を見ないと魔法が必要になるかわからないしな」
「そうね……、危なくなったら逃げるからね」
「それでいい」
「私は――」
「トニエは出来る範囲でいい、強い魔法を使って自らの身を明かすような、そんな危険はおかす必要はない」
「わかりました。――そ、それで、ソフィーさん! 精霊の派生種って他にもいるんですか!」
ぐいぐいと食いつくトニエ、いつの間にか立ち位置がガットと入れ替わっていた。
「え、なに急に」
「ああ、知りたがりなんだとさ」
「そう……、まあ教えないでもないわよ」
「お願いします!」
目的地へ到着するまで、延々とソフィー教授の講義が行われた。
雑談ではないためかガットも嫌がらすに聞いていた。
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ターバンズを出発してから数日が経過していた。
少し山道を登ってきたが、それほど急な坂道ではない。
馬車、傭兵共にそれほど疲れは見受けられない。
「そろそろ豚人が教えてくれたポイントだ」
地図を確認していたガットがルーベルガに連絡する。
「見たところ異常は感じないがなー」
「あそこに小高い丘がある、登って周囲を確認してくる」
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数百メートル先の丘へ走るガット。
その先は広い盆地になっており、木はまばらに生え地面には少し雑草が茂った程度の荒れ地だ。
「いた……巨鰐だ」
「これは……、想定よりでかいぞ」、爺が呟いた。
「どうだ爺、倒せると思うか」
「無理じゃな、全滅は免れまいて……」
爺に目があるわけではない、精霊の集合体とも言える爺は持ち主の目を借り周囲を見ることが出来る。
「最悪、王子だけでも逃げるのじゃぞ」
「珍しいな爺がそんなことを言うのは」
「勝てぬ相手に戦を仕掛けるなんぞ、もっての外じゃ」
「傭兵団を説得できる材料があればいいが、無理だと言ってもな……」
ガットは手を振り傭兵を手招きする。
エダフとルーベルガが様子を見に丘へ登ってきた。
「これは……」
「ちょっと想像以上だな……、あーどうすっかなあー」
彼らの位置よりもまだ距離はある、気づかれる心配はないだろう。
奴の周囲に生える木から、おおよその大きさがわかる。
外見はワニと亀の混合体だ。
現代の路線バスで例えると、頭はバス一台分、体が二台分、尻尾が二台分の長さ。
甲羅には大きな棘が生えており、極太のヘアブラシを裏返したようだ。
その口には鋭い牙が生えており、人間など軽々と噛み砕いてしまえるだろう。
ガットのいる位置より奥から来たのだろう、巨鰐が這った跡が残っている。
「どうします?」
ガットがエダフに聞いてみた。
「帰りましょうか……」
「…………。こりゃまいったな。とりあえず皆の所へ戻ろう」
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三人が戻ると傭兵団が集合した。
「団長、どうでした?」、青ズボンが問う。
「ありゃダメだ確実に死人が出る」
「何言ってるんですか俺たち傭兵ですぜ、いつ死んでもいいように心構えはできてますよ!」
そーだそーだと傭兵たちが沸き上がる。
「オマエらの心意気は良くわかってるつもりだ、だがあれが化け物だ」
「団長より化け物がいるなら見てみたい、皆もそう思うよなあ」
ふたたびそーだのコール。
「よし、まずは見てもらうか。お嬢ちゃん二人とエダフさん、ここに残って荷物の番をしてくれ、エルフのねえちゃんは来てくれ。――オマエら装備を準備して行くぞ」
「ういーっす」
手荷物を置き荷車から矢の束と投げ槍を持つ傭兵たち。
「よし準備できたな、まずは丘の上まで行き様子を見る」
団長の後に続き勇ましく歩く傭兵の一行、戦いが近いからか彼らの体温が上昇している。
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「…………」、エモノを前に押し黙る傭兵たち。
「俺と奴、どっちが化け物だ?」
「なるほどー、あっちだわー」
「エルフの嬢ちゃん、あれの足止めできるか?」
「無理ね大きすぎるわ、良くて数秒よ」
「……わかった。――オマエらこの戦いは行きたい奴だけで行く。辞退したい奴は馬車まで戻れ罰則はない。そんときゃ仕事の報酬は今まで通り無しだ、ガッハッハッハ」
団長の話を聞き丘を下る奴はいない。
「この仕事、受ける前なら断っていた。しかしここまで来たからにはヤル、後には引けねえ。オマエらわかってるのか? 死ぬぞ?」
「団長、作戦はどうします?」、真剣な表情の傭兵達。
「オマエらバカだな。――接近戦は無しだ遠距離だけで行く、重くなるから鈍器は置いていけ。矢がなくなるまで弓で攻撃、槍が届く範囲まで敵が近づいたら投擲だ。毒殺が狙いだ何本か槍が刺さったら逃げるぞ」
ルーベルガはソフィーに顔をむけ、若干申し訳なさそうにお願いする。
「エルフのお嬢ちゃん、魔法が届くギリギリの位置にいてくれ。俺たちが撤退を開始したら奴を足止めして逃げる時間を作ってくれるか」
「了解よ」
今度はケインを見ながら、
「【先読み】の兄ちゃんは攻撃に加わらなくていい、離れた場所にいてくれ。そして危険だと判断したら撤退の合図をくれ。なんでもいいから叫けべばいい」
「お、おう……」
再び傭兵達に顔を向け、
「甲羅に攻撃は効かないだろう。二手に分かれ頭と尻尾を狙う。オマエら撤退の合図を聞き逃すなよ」
「ういーっす」




