5-3 爺よサイズ教えてくれないか
町の外れにある馬小屋の前でガットを見送る一同。
馬の両サイドには荷物袋が下がり数日間の食料や馬の餌が入っている。
ガットも荷物をバッグに入れ背負っている。
馬の乗り方をトニエにレクチャーするガット。
「え、横乗りするんじゃないのですか……」
「あれは絵本の中だけの話しだ、ついてくるならサッサと乗る」
ガットはトニエを馬の背中に押し上げる。
「ちょ、お尻触らないで」、赤面しながらもじもじと体をよじる。
「一人で登ったら日が暮れるぞ、早く上がれ」
なんとか背中に乗せると、ガットがトニエの後ろに颯爽と跨る。
「え、え、後ろに乗るのですか? 私が後ろで……腰に手をまわして……」
「初心者は前だ、後ろに乗ったら落ちるが、それでもいいか?」
慌てて首を振るトニエ。
「では行きます」、ガットがエダフに挨拶を済ませ出発する。
「頼みましたよ」
―・―・―・―・―・―・―・―・―・―
町を出てすぐ見渡せる麦畑には、豚人が踏み倒して進んだ跡が何本も残っている。
ガットはその跡を辿り駈歩で馬を走らせた。
麦畑が切れたあとは草の踏みつけられた跡や地面に残る足跡を手がかりに半日馬を飛ばす。
追跡途中に川を発見、馬を休憩させるため一旦停止した。
荷物から干草を出し馬に与えるガット。
「痛い……、お股が凄く痛い……」、ガニ股で歩くトニエが弱音を吐いていた。
「だろうな、なれない馬の遠乗りは初心者には厳しい」
「うぅ、夢にまで見た二人乗りが、まさかこんなに痛いなんて」
「なあトニエ、宝石人は秘境に住んでいるんだろ?」
「はい、その場所は殺されても言いません」、目をキリッとさせ覚悟のある表情をする。
「場所に興味は無いんだ。……俺は君が秘境を出てきた理由が知りたい」
トニエは近くにあった岩に腰を下ろしゆっくりと語り始める。
「そうですね……。私は自他共に認める好奇心の化け物なのです。何でも知りたい、世界の全てを知り尽くしたい。この世界の秘密を解き明かしたい、そんな欲望が小さな頃から私の胸に渦巻いていたの」
「知識欲ってやつか」
「はい。……村を出ると決めたとき両親には止められました。自ら殺されに行くようなものだと、でも欲求には勝てなかったの……。私は黙って村を出ました」
「その欲求は自分の命より大事なのか?」
「何も知らないまま生きるのって死んでいるのと同じだと思ったの。それなら外の世界で思う存分知識を得てから死んだほうがいいって考えたの」
「死んでるのと同じか……、そうだな、それは何となくわかるよ……」
「ガットさんは――」
「ガットでいい」
「ガットは私と同じ境遇って話してくれましたよね。私はそれを命が狙われているって解釈しました。そしてあなたは私を守ると言ってくれた。なら私はあなたを守りたい。傷の舐めあいじゃなくてお互いの背中を守れるなら二人の生存確率は上がるかもって……」
「それが今回ついてきた理由か?」
「そうです」、微笑みながらガットを見つめるトニエ。
「俺の敵は手強いぞ」
「なんの! 私の敵は全世界の人間です!」
「ぷっ、ハッハッハッハ! 確かにそうだな、よし君は俺の同盟者だお互いを守ろう」
いつも無表情のガットが笑うのは凄く珍しい。
ガットが手を差し出すとトニエも続いて手を出し、二人は硬く握手をした。
「ガットよ、秘密はお互い持ってこその同盟じゃ。オマエは彼女が宝石人であるという秘密を手にしている、しかし彼女はオマエのことは何も知らん、それは対等じゃないぞ」
「なっ、爺! なにを言い出す」
普段は王子と呼ぶ爺だがトニエの前だからだろう、ガットと呼んでいた。
「え? 誰かいるの?」
トニエはキョロキョロとしながら声の出所を探るが見つけられない。
「トニエさんや初めまして。ワシはガットの持つ剣じゃ。こらガット、ワシを彼女に渡せ」
ガットは渋々爺を抜くとクルリと回転させ柄を前にしてトニエに手渡す。
「彼の持つ秘密、ワシが知性を持つ剣であること。これは誰にも秘密だ。これでおぬしらは対等じゃ」
「はい! 誰にも言いません! はぁー喋る剣、実在したんだあー……凄い」
うっとりと剣を眺めるトニエ。
「爺、なんで話した」
「彼女の話を聞いてお主も何か感じたのであろう? そろそろ成長する時だ、一方通行の支配は益を産まんぞ」
「一方通行などした覚えは……」
爺はたぶん淫魔の事を言っている。
「命珠を取ったであろう。覚えておけ奴は必ずお主に牙を向けるぞ」
「…………」、ガットはいつになく真剣な表情になり考え込んでいる。
「命珠って?」
「ホッホッホ、それは秘密じゃ。トニエの秘密をもう一つ教えてくれたら話そうかのう」
「じゃあスリーサイズを!」
「そんなの見たらわかるわい、だてに歳を取っておらぬぞ」
「ぐぬぬ」
「さあ、そろそろ出発せい」
「そうだな、トニエは馬に乗って上から周囲を警戒してくれ、俺は地面から豚人の痕跡を見つける」
「わかりました」
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休憩後、小一時間ほど林の中を進む二人。
豚人の痕跡が見つけにくくなっていた。
ガットは徒歩で移動し注意深く周囲を観察している。
「いました、豚人です」
馬上で索敵をしていたトニエが休憩しているらしい豚人の集団を発見した。
「トニエはここで待機、行って話しをつけてくる。もし俺がつかまったらそのまま町へ戻って応援を呼んでくれ」
ガットは両手を上げゆっくりと豚人に近づいた。
一体の豚人が気がつき隊長らしき豚人に報告する。
それはガットが押さえつけ話しをした奴だった。
隊長らしき豚人はどよめく仲間を沈め彼に近寄ってくる。
「爺たのむ」
ガットは町が討伐隊を組むこと、そして巨鰐の居場所が知りたい事を爺に通訳してもらった。
「巨鰐に襲われた村の一般人がこの先に避難しておるそうじゃ、そこまで来てくれと。彼らの村長に話しを付けるらしい」
「わかった、同行者も連れて後を追うと伝えてくれ」
豚人の集団から離れ、トニエのもとへ戻るガット。
「どうでした?」
「ああ、この先に豚人が集まっているらしい、そこまで行く。隊長自ら出向いた、恐らく戦いにはならないだろう」
豚人の後に続き移動する。
数刻後、彼らの避難所に到着した。
避難所と言ってもしっかりとした作りだ、林の木を切り倒し居住スーペースが作られており、その木材で家屋が何棟も建っていた。
「俺が戻らなかったり、豚人の行動が怪しかったら町へ戻るんだ」
トニエを村の外に待機させ、ガットは豚人の集落へと入っていく。
生活風景は人間と殆ど変わりはない、子供の豚人が興味深くガットを観察していた。
隊長らしき豚人に先導され村長の前に案内される。
年老いた豚人が茣蓙にあぐらをかいて座っている。
ガットも同じように村長の前の茣蓙に座る。
村長が話し始めると、その隣に座るもう一人の豚人が人間の言葉で話しを始めた、彼は通訳らしい。
「何のようだ、人間、ここはおまえら、来るところ、違う」
片言の人間語だが意味は通じた。
「オマエらは巨鰐に困っているのだろう?」
通訳の豚人は村長に豚人語で話しかけ通訳を続けた。
「困っている、それがどうした、人間、関係ない」
「巨鰐を人間の町におびき寄せ襲わせる気なんだろ」
「それが、なぜ悪い、目的のため、良い案」
「目的は巨鰐の退治だろう、それを人間がやってやるから場所を教えろ」
「人間が、我らのために、動くのか?」
「違う俺のためだオマエらの生死など知ったことか」
「オマエ、正直だな、場所教える」
小間使いの豚人が地図を持ってきた。
抽象的な地図だが理解はできる。
通訳の豚人が地図の一点を指し巨鰐の居場所を伝えた。
「ここにいる、もう用はない、早く行け」
「ああ、地図ありがとう」
集落の出口まで隊長らしき豚人に先導され無事に敵地から出ることが出来た。
「どうでした?」
「山の地図と巨鰐の居場所を教えてもらった。さあ町へ戻ろう」
ガットは馬に乗ると早足でその場を後にした。




