5-1 誰が主人公なんだ?
ガットが豚人を説得し撤収させてから二日が経過していた。
昼を過ぎても敵が襲ってくる様子はない。
ターバンズの西口に臨時に建てられた小屋で、待機をしているケインたちが雑談を始める。
「昨日は襲ってこなかったんだし、もうトラスダンに帰ってもいいんじゃないか?」
一日鎧を着続けるのも嫌になっているのだろう、椅子に座り剣で床に落書きをしながら愚痴をこぼすケイン。
「それはどうかしら。たまたま休みだったのかもしれないし、油断させてるのかもよ」
彼の隣に座り足をぶらぶらと揺らしながら返事をするハスエル。
「そういえば、エダフさんはどこに行ったんだ?」
「今後の対策を検討しに町長の所へ行ってるわよ」
「今後って、まだこの小屋で待機を続ける気なのかな?」
「どうなんだろうね。豚人の話が本当ならもう襲っては来ないだろうし、そうなると巨鰐がこの町を襲う可能性もあるわけで……」
ハスエルの隣に座っていたトニエが目を輝かせながら質問をする、
「あの……、巨鰐っていったい何なんですか?」
「私も詳しくは知らないわ、ケインどう?」
「俺も知らない、ガットなら詳しく知っているんじゃないか?」
窓際に立ったまま、彼らに目線を泳がすことなく、つまらなさそうに外を眺めるガットが淡々と説明する。
「ああ、簡単に言うと大きなワニだ。ワニほど口は長くない半分くらい、体は亀の甲羅で覆われ何本もの棘が生えている。足は六本足、それと長い尻尾が生えている」
「へえー」、たいして驚かないハスエル。
「普段は水辺に生息しているが、たまに上陸して町や村を襲い家畜などを食らう」
「なんか厄介な奴だな」、ちょっと笑いながら話すケイン。
「ああ厄介だ。凄く硬くて、それにデカイ」
「どれくらいだ?」
「馬車ぐらいから、大きいのだと山ぐらいだな」
「え? 山?」
せいぜい牛ぐらいだろうと思っていたケインは、以外な答えに驚きガットを見る。
「俺も聞いた話だから、実際に山ほど大きい巨鰐が生息しているかは不明だ」
「まさか、それと戦うなんて流れにならないよな……」
「さあな。俺たちだけでどうにかできるとは思えない。エダフさんも無理は言わないだろう」
「だ、だよな。あー早くトラスダンに帰ってのんびりしたいよ……」
他愛も無い会話が続き時間だけが過ぎていく、数刻過ぎると小屋に夕日が差し込んできた。
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ケインたちが小屋で待機をしているあいだ、ソフィーは町で一番高いところにある鐘楼に登り、広場で遊ぶ子供を眺めていた。
「はぁー、子供かわいい……」
鐘楼の屋根の上で膝を抱えながら、その上に自分のあごを乗せてまどろむソフィー。
「あっ」、広場で遊んでいた子供が転んだのを見て思わず声が出る
「フフッ元気ねー」、なにごとも無く走り出す子供を見て微笑む。
「いいなあー、でも人間の子供なんだよね……。もし人間との間に生まれたらハーフエルフか……」
人間とエルフが子をもうけると必ずハーフエルフになる。
その場合、配合率はまちまちで人間寄りだと短命、エルフ寄りだと長命になる。
長命とはいえ二百歳までは生きられず、成長も人間に近く老化が早い。
「私が今の姿なのに自分の子供は年老いて先に死んでしまう、私はそんなの耐えられるかしら……」
目を細め子供をみつめる、その瞳には悲しみと寂しさが溢れていた。
「長老の言ってた意味、今なら少しわかるわ。人間とは接触するなって、アレは自分が悲しむからなんだわ……」
膝の中に顔をうずめ下を向いてしまう。
「でも……、もしかしてエルフの血が濃く出れば少しは長く生きられるかも。いやダメねエルフから見たらそれでも一瞬だわ……」
自問自答を繰り返しても答えは出ない。
夕刻を告げる鐘が鳴る。
ソフィーは驚き鐘楼から滑り落ちそうになった。
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酒場にはトラスダンから来た七名にトニエが加わり夕食を楽しんでいた。
「町長と話をしてきました。豚人はもう襲ってこないと判断するそうです」、
食事を済ませ一息ついたエダフは集まった人に対策結果を話し始めた。
「ほっ……、ならトラスダンに帰るんですね」、嬉しそうな顔のケイン。
「それがですね、巨鰐の脅威は去っていないというのが結論でして……、結果として巨鰐を撃退もしくは退治することになりました」
「そっそんな……」、心底嫌そうな顔をするケイン。
「ケインそんなに落ち込まないで。依頼を受けたのは傭兵団です、私たちは戻る予定ですよ」
「そ、そうですか、良かったー。行くと言い出さないかとヒヤヒヤしてたんです」
話を聞いている間、ハスエルはじっと考え込んでいた、そしてエダフを見つめ告げる。
「私は傭兵団の皆さんに付いて行こうと思います」
「な! 何を言い出すんだハスエル!」、慌てて止めようとするケイン。
「そうです私たちが行く必要はないのですよ?」
「でも……」
テーブルに残る食事をつまみながら、真面目な顔をしてガットが語り始める。
「なあハスエル、君は杖を取りに行くとき皆の助けになりたいって言ったよね、それって誰のためだ? 俺とケインのためか、村長や村人のためか」
「もちろん、全員よ……」
「その全員の中にはターバンズに住む町の人や世界中の人が含まれているんじゃないのか? 君は英雄にでもなるつもりなのか?」
「わ、私は!」
「ハスエル、それは偽善じゃないのか」
「えっ、偽善?」
「もし君が行くとなるとケインは放っては置けないだろう、もちろんエダフさんもだ。君が善をなすために少なくとも二人は犠牲になる。彼らが傷つくのは気にしないのに誰かを助けたい、君のやろうとしている救いの手はそれでいいのか?」
場の空気が凍りつき、誰も口を開かなくなった。
「まあまあガット、そのくらいで。ハスエルも落ち着いて、ね。皆さん一晩考えてください、この町のために力を貸すか、それとも村へ戻るのか。明日またお聞きします」
これ以上は話が進まないと感じたエダフは早々にその場を解散させ、各自は宿へと足を運んだ。




