4-6 いつの間にかフラグ1つ目が立ちました
防衛戦の二日目に突入。
朝食を済ませた傭兵たちが町の西口に集合し始めていた。
そこでガットは意外な人物をみかける。
「君は……」
「よろしくお願いします」
まさか昨日の子がいると思っていなかったガットは呆然と立ち尽くしていた。
そのやり取りを見ていたエダフが、
「おや、お知り合いですか?」
顔を真っ赤にしつつ、もじもじと照れながらトニエは、
「はい、彼が私のナイトになってくれるって」
「え!」、その場にいた全員が驚きの声をあげ、ガットに注目する。
「は? いや言ったか、いや、でも。 え?」
「ハハハッ、こんなに混乱したガットを見たのは初めてだ」
「そうね、私も」
ケインとハスエルは狼狽するガットを眺め大笑いした。
この場にソフィーがいれば、昨夜のナンパを告げ口していただろう。
「町を出たんじゃないのか?」
信じられないという顔をしながらガットがトニエに問いかける。
「なぜ?」
「バレたし危険だろ?」
「フフッ、あなたの手の届く範囲にいれば安心なんですよね?」、小悪魔的な笑顔を見せる。
「あ、ああ。この町にいる間だけだ」
他の傭兵たちとはあまりにも個性の違う少女にエダフが、
「君は傭兵の一員なのかい?」
「いいえ、私は一人で参加しています。滞在中に豚人の襲撃があり、微力ながらお手伝いできないかと」
「そう……。私はハスエル、この人たちは隣村からの応援です。今日は宜しくね」
ほかの面子も彼女に簡単に自己紹介を済ませた。
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昼食を終え、小一時間ほどして鐘が鳴り響いた。
「さあ行きますか」
先導するエダフをガットが止めた。どうやらこの戦いに違和感を覚えているようだ。
「エダフさんこの攻撃どう思いますか? 昨日と同じ開始時間。戦況だって勝ち目はないと素人目でもわかる」
「そうですね、確かに腑に落ちません。数日前から同じような戦いだと町長も話していました」
「ほかの場所からの奇襲を企んでいるのか……」
「ここが城郭都市ならば兵力を一点に誘き寄せ、他から奇襲をして城門を突破するのですが、ここは開けた町です。その気になればどこからでも町に入れます」
「略奪や占拠が狙いではないと?」
「おそらく。こんな散発的な戦闘を繰り返すようでは遺恨や怨恨でもないでしょうね」
「なら奴らは何が目的で?」
「これは私の推測ですが傭兵団に用があるのではないかと。戦闘が長期化すれば援軍が増えるのは豚人も予想できたでしょう、しかし現状は小競り合いで時間稼ぎをしているとしか思えません」
「戦力が増えれば滅ぼされる恐れもあるのに……、いったいなぜ?」
「これ以上は情報が不足して予測もできませんね」
「情報……。ちょっと情報を仕入れてきます」
「え? ガット! 危ないことはダメですよー!」
エダフが呼び止めるのも気にせず、ガットは走り出していた。
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ガットは町中を走り抜け南口へむかっていた。
「おい、おまえら」、足を止め後ろを振り返るガット。
懸命に走ってついてきたトニエ、
「フーッ、フーッ、守ってくれるって……」
屋根の上を軽々と飛び移りながら余裕で追っていたソフィー、
「どこ行くの? 留守番はツマラナイわ」
「これから豚人の背後から奇襲をかけ指揮官クラスを生け捕りにしようと考えている。町より危険だ戻れ」
「なに言ってるの、私は役に立つわよ」、ニコニコと笑顔のソフィー。
「わ、私だって!」、顔を上気させ、まだ息の荒いトニエ。
「……大事なところで追いつかれても俺が危険か。――足手まといにだけはなるなよ」
「フフッ、まかせて」
「はいっ!」
敵に悟られぬよう南へ移動し西口の戦闘がぎりぎり見える距離を移動した。
既に近接戦闘が開始されていた。
前日と同じようにケインが敵の攻撃を予測し傭兵たちに伝えていた。
さらに西へ進むと戦闘がギリギリ見える距離に指揮官クラスであろう豚人がいた。
「たぶんアイツだな。――護衛が四体か、剣が二体と弓が二体」
敵が米粒大の大きさに見える位置。
ここら一帯は麦畑で収穫期ではないので身を隠す場所がない。
風下なので匂いで気づかれる心配なないだろう。
「気配を消して進むとしても、ちょっと厳しいな。音でばれる……」
「さあ! 泣いて頼むなら今よ!」、ドヤ顔をするソフィー。
「いらないよ」
「ねえ……手伝わせてよ……」
「なんでオマエが泣いてるんだよ面倒だな! いいよ、手伝わせてやる。何ができるんだ?」
「この距離なら狙撃ができるわ。外さないから安心して」
「いや、殺したくない。エダフの予測では今回の戦闘は命が欲しいわけではなさそうだ」
「なら草を絡ませて身動きを取れなくすればいい?」
「ああ、それはいいな」
「私にも手伝わせて!」、真剣な顔のトニエ。
「トニエだったか、君は何ができるんだ?」
「なんでその子には優しい口調なのよ!」
「うるさいな、見つかるだろ」
「私は聖獣の力を借りることができます」
「はぁ? 何言ってるの? エルフでも精霊の……って。そうか……」
ソフィーは彼女との格の違いに気がついた。
エルフは精霊の主とコンタクトするのが限界、対して宝石人はそのワンランク上の聖獣とコンタクトできるのだ。
「具体的には何が?」
「そうですね……。補助魔法が使えます。では……」
トニエが手を広げガットに向け、
「アネモス・プレッサ・ホーヴィ……」、と魔法を唱える。
ガットは自分の姿をチェックしたが、特に変化は感じられなかった。
「足に風の加護を施しました移動速度が倍になっています」
「へぇ。十分だ、ありがとう」
「ふへへへっ」、顔を真っ赤にして照れている。
「私にお礼なんて言ったこと無いじゃない!」
「何か俺にしてくれたのか?」
「……あれ?」、自分で言っていて思い当たる記憶がないことに気がついた。
「この戦いが無事に済んだらお礼でも言ってやるよ」
「ホントウだなー、忘れないゾ」
「じゃ、近寄れるところまで進む。君らはここで待機だ。手を上げるから護衛四体の拘束よろしく」
「わかったわ」
「はい」
ガットが中腰のまま敵に近寄っていく。
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その場に残った二人が話しを始めた。
ガットから目を離さずにソフィーが、
「ねえアナタ。彼のことが好きなの?」
「まだ好きってわけじゃ……、でもプロポーズされたし」
「はぁ?」
「昨日の夜『俺が君を守る、側から離れないでくれ』ってー」
――きゃー、言っちゃった! まだ誰にも話したことないのにー。
昨夜の話しを屋根の上で聞いていたソフィー、そんな話しは出ていないと知っている。
ソフィーは彼女の周囲だけ麦畑ではなくお花畑になっている絵を想像していただろう。
ガットが手を上げ合図を送る。
「その話しは今度詳しくね! 土翠殴智よ、我の求めに応じ汝の力を示せ」
ソフィーが土の精霊へ助力を求めると数え切れない程の麦の茎が伸び始めた。
茎が護衛の豚人の足に絡みつき強くひきつけると敵は膝を地面に付ける。
さらに絡み続ける茎は体を経由し腕から頭へと伸び全身を覆いつくした。
「【加速】っ!」、護衛が無力化したのを確認したガットは指揮官に突進。
【加速】により三倍となった移動速度がトニエの加護によりさらに二倍される。
予想を超える速度にガット自身が対処できず、豚人の背後に体当たりしてしまった。
彼は鼻血を出しながら慌てて爺を抜き、一緒に倒れた豚人に見えるよう刃の先端をちらつかせる。
「爺、豚人語喋れたよな、この戦いの理由を聞き出してくれ」
ガットは鼻血の詰まった鼻声だった。
爺は豚人から情報を引き出す。オーク語は特別ではない。
人間にも話せる人はいるし、豚人にも人間の言葉を話す固体もいる。
「なるほどのう。豚人の住む山に巨鰐が住み着いたそうじゃ。度々村が襲われ死者も大勢出たらしい。そこで長老が人間を利用しようと考えたそうじゃ。町に兵士が増えた頃を見計らい巨鰐の好む香を焚きここを戦場にする計画らしいぞ」
「なるほどな……この件は俺の手には余るな。町長に話を通してみよう、爺、豚人には兵を引くよう伝えてくれ。悪いようにはしない、巨鰐を何とかできないか相談してみると」
ガットが拘束を解くと隊長らしき豚人は笛を取りだし吹き鳴らした。
それを聞いた敵は戦闘を中断し撤退を開始する。
彼がソフィーに向かい手を振ると彼女も術を解き、麦で拘束していた豚人を解放した。
隊長らしき豚人もお辞儀をして去って行く。
敵が去るのを確認したソフィーとトニエは急いでガットに駆け寄る。
「ねえねえ、役に立ったでしょ!」、ドヤ顔のソフィー。
「……ああ、ありがとう。トニエも風の加護は凄かった。ありがとう」
お礼を言われたトニエは赤面しもじもじしている。
「なんで彼女には二回もお礼言うのよ!」
「回数なんてどうでもいいだろ」
「もうっ!」




