4-3 親切にピアスの穴を空けてあげました
トラスダンを明け方に出発し途中何度か休憩を挟み、ここターバンズに到着したのは夕方になっていた。
城郭都市ではないので高い壁が町を囲んでいるわけではない。
町の境には簡易的な木の柵が造ってあるだけで、いままで平和だったことが見て取れる。
立ち並ぶ家々の壁はレンガで組み上げられ漆喰で塗り固められており、綺麗な白い道を作っていた。
家々の窓は開かれており明かりが道を照らしている、まだ眠らない町なのだと思わせる。
「お腹が空いたな」、消費カロリーの多いケインの腹が鳴り始めた。
周囲になにか良い店がないか探したハスエルは、
「そうね、――あそこ酒場みたいだし行ってみようか」
「私は町長さんのところへ挨拶に行ってくる、先に注文しておいてくれるか」
「はい先生。いこっ」
酒場に入ると酒と男たちの汗の匂いで、女子供を寄せ付けない独特の雰囲気を漂わせていた。
六人がけのテーブルが8席ある結構な広さの酒場だ。
隅の一席が開いている、彼らはそこへ移動を開始する。
「ヒュー、これは珍しいエルフがいるぜ」、酔っぱらいの男がソフィーを見てからかってくる、
「よーよー姉ちゃん、そんなガキ共じゃ物足りないだろ、こっち来いよ可愛がってやるぜ」
「なによ、気持ち悪い」、嫌悪感がソフィーの小さな胸から溢れていた。
「ほっとけ」、早速の厄介事だと言いたげなガット。
「なんだよ、そんなチビがいいのかよー、俺のほうが凄いぜー」
酔っぱらいの後ろのほうでカカッと何かが壁に突き刺さる音がする。
そして、小指の太さの穴が彼の両耳に開いていた。
「おいおまえ、耳から血が出てるぞ」
彼の友人らしき男が教えてやるが、耳に穴の開いた男は酔っているので反応が鈍い。
「なに言ってんだ……、む? なんだこれ。痛てぇー」
男が騒ぎ始めたのでエルフに注目する人はいなくなった。
「ンフフー」、いつものようにガットにまとわりつくソフィー。
「なんだよ」
「ありがとねっ」
ソフィーはガットのベルトから投擲杭が二本減っているのを見つけていた。
メニューを見ながらソフィーがあれこれハスエルに質問し、あーだこーだ言いながら何とか人数分の注文を終わらせた。
「凄いね、知らない食べ物がいっぱい!」、わくわくが止まらないといった感じのソフィー。
「今まで何食べてたんだよ」
「木の実、キノコ、草花、穀物に果物かな、お肉は殆ど食べないし火も少ししか使わないわ」
エルフの生態は人間にあまり伝わっていない。
彼女の珍しい話に耳を傾ける一同だった。
「エルフはもともと少食なの。精霊から気を分けてもらえば基本的には食べなくていいし。でも、このあたりは精霊が少ないからね、なんでも食べるわよ」
注文した食事が運ばれてきた。大皿に盛ってあり各人が取り皿に移す方式だ。
肉料理、魚料理、野菜のスープ、色鮮やかな皿たちは、空腹の彼らを刺激するに十分な香りを漂わせている。
目を輝かせるソフィーは今にも手を出しそうだ。
エダフが入り口から現れるのを見つけたハスエルは、
「先生、ここです。おかみさん、取り皿もう一つお願いします」、と言い椅子を一客隣から移動させてきた。
「やあ、丁度良いね」
エダフがテーブルに着くと、トラスダンから来た七名が食事を開始した。
「村長から色々聞いてきましたよ」、ぶどう酒でのどを潤したエダフが説明を始める、
「豚人は西の山脈に昔から住み着いているそうです、乱暴者が多い種ですがこちらから手出しをしない限り襲っては来なかったそうです。しかし、ここ最近町に現れ人間を襲っているそうです」
「なにか事情がありそうですね」、若干深刻そうな声のケイン。
「今のところ事情は判明してない様子です。町の四方に見張り台が設けられ町の男たちが交代で番をしているそうです。何かあれば鐘が鳴るようです」
特に感情を表に出していないガットが肉を囓りながら、
「俺たちはどうすればいい?」
「町の人がお金を出しあい傭兵を雇ったそうです。この酒場にいるガラの悪い連中がそうでしょう。依頼は彼らと協力し豚人を撃退して欲しいそうです。町の出口近くに待機用の小屋を用意しているらしいので、明日からそこで待機になります」
「食事が終わったら宿探しだね」、美味しいものを食べて陽気なハスエル。
「町長が手配してくれました、あとから呼びに来るそうです」
トラスダンから同行してきた男性が、
「しかし、撃退と言ってもどこまでやるんだい?」
「それなのですが、町と豚人の双方に結構な負傷者が出ている、それなのに奴らは引かないそうなんです。町長も根絶やしにする気は毛頭ないし、来なくなればそれで良いと考えているそうです」
負傷者と聞き顔を曇らせるハスエルは、
「じゃあ、敵が引くまで持久戦ってことですか?」
「そうなるね。長期戦になるかもしれない……」
「面倒だな、忍び込んで指揮官を消してこようか」、
長期戦が気に入らないのか、ガットが過激な発言をする。
「まあまあ、そんな物騒なことは言わないで。私たちは傭兵の皆さんの後ろで町に豚人が入らないようにしていれば良いですよ」
お肉にかぶりついているソフィーが、
「ふぅーん。頑張ってね」、と素っ気ない反応をする。
「やけに他人事だな」、若干切れ気味のガット。
「エルフと豚人には長年の因縁があるらしいのよ、もし私が奴らに危害を加えると種族間の戦争になるわ」
「オマエは何しに来たんだ?」
「婚活……」、ガットが肉を取り上げる、
「ちょ、返してよ!」
「肉は働いた者だけが食える料理なんだ、知らなかったのか?」
「初耳よ! ……まあ、敵から見えない位置で狙撃してあげるわよ」
「最初からそう言えばいいんだ」、奪った肉を食うガット。
「返せー!」




