4-2 立ち上がれケイン! 邪魔だから
村の集会場に子供を省く村人が集められた。
冠婚葬祭に利用される木造の集会場で村人全員が入れる余裕がある。
細長い絨毯が縞模様に敷かれ村人が座れる場所を作っていた。
前には椅子が一つ置かれ村長が座っている。
「隣町のターバンズから使いの者が来た。連日、豚人の襲撃にあい困窮しているそうじゃ」
村長が話し始めると村人は静かに聴いていたが、内容が物騒だったためざわざわと騒ぎ始めた。
「皆も知ってのとおり、ターバンズとここトラスダンはどの国にも属さない中立地域。軍隊も無い町じゃ。皆で助け合い生きてきた。もし、ターバンズが占拠されれば次はここが狙われるじゃろう。そこで、わしはターバンズに応援を出そうと思う。――どうだろう、皆の意見を聞かせてはくれないか」
村長に命令権はないが村人からの信頼は厚い。
彼の依頼なら誰も断らないのに、あえて意見を聞いてきたのには理由がありそうだと村人は考えていた。
「村長」、手を上げエダフが意見を述べはじめる、
「私は応援に賛成です。ターバンズはここへ運ばれる物資の通過点でもあり農作物の卸先でもあります。荷馬車が襲われると死活問題です」
エダフの解説に村人も納得し、首をたてにふり同意していた。
「ふむ。――どうじゃ、他の者は意見ないかな。反対意見でもかまわないよ」
「村長」、ケインがぼそぼそと話し始める、
「もし応援となれば何名かは戦地へ赴くのですよね。それって危険じゃ?」
「そうじゃな。皆もよく考えて欲しい。豚人は人族じゃ、知性があり文明を持つ。いざ戦いとなれば無傷では済まないじゃろう」
この世界の生き物は三種に大別されていた、それは人族、獣人、獣族である。
人族と獣人は文明(言葉による情報の伝達、蓄積、継承)を持ち集団で生活を営んでいる。
獣族はそれ以外の家畜、魔獣たちである。
人族と獣人の違いは、異種間交配が可能かどうかである。
人族である人間、エルフ、豚人、魔人は相互交配が可能で生まれてくる子はハーフになる。
対して獣人は交配可能な種もあるが、生まれてくる子は必ず獣人になる。
「今回、応援に行く人は自由意志としたい。無理強いはできぬのでな。――どうじゃ、行ってくれる者はおるか?」
「はい」、ハスエルが真剣な顔で一番先に手を上げる。
「また……。ハスエルは無謀だよ」、愚痴をこぼしつつも手を上げるガット。
「もちろんついて行くわ」、ニコニコしながら手を上げるソフィー。
「大事な教え子を放ってはおけませんね」、エダフも手を上げる。
他にも体格の良い大人の男性二人が手を上げた。
「ありがとう。きっとターバンズも救われるじゃろう」
「おらっ」、鍛冶屋のオヤジが立ち上がりケインの尻を蹴った、
「今から鎧を持って来い、徹夜で直してやる。他の奴も今晩中に持って来い、俺にできるのはそれぐらいだ」
「俺は……」、蹴られた尻をなでながらケインが呟いている。
今回はハスエルを助ける大人が何名も来る、いつものように彼女を餌にはできない。
良い案が浮かばなかったガットはあきらめて、
「いいんだケイン、誰にでも向き不向きはある。この村を守っていてくれ」
「皆、今夜はよく集まってくれた。これにて解散じゃ」
集会場から村人が全員出たあと、ケインが一人だけ残っていた。
その夜、遅くまで鍛冶屋から槌で鉄を叩く音が聞こえていた、まるで旅立つ者の無事を祈る鐘の音のように。
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集会の翌日、広場には馬車が一台停車し応援に行く人が荷物を運び入れていた。
「今回は野宿しなくていいから荷物少ないね」
旅行バッグ一つの身軽なハスエル、今回は森歩きではないのでスカートのままだった。
バッグすら持っていないガット、前の冒険と同じ姿だ。着替えない気らしい。
「そうだな、必要な物はターバンズで買えばいいし」
ちなみにガットは小金持ちである。
森で捕らえた獣の毛皮などをなめし、町で売ってもらい稼いでいた。
「私、大きな町へ行くの初めて」
ソフィーの荷物はハスエルのバッグに入れてもらっている。
「オマエ、町へ行って大丈夫なのか?」
「わからないわ。行ったこと無いもの……」
「あのなあ……」
「キミがなんとかしてくれるし」
いつものように背後からガットに覆いかぶさり、腕を彼の前で軽く組んでいた。
「おねえちゃん、行っちゃうの?」
村の子供達がソフィーの前に集まり心配そうな顔をしている。、
「ぱっと行って、ぱっと帰ってくるわ。そしたら遊びましょ!」
輝く笑顔に不安の要素はない、それを見て安心する子供たち。
旅支度を終えた一行が馬車へ乗り込む。
「村長」、ケインが鎧を着て立っている。
「ケイン……、無理はしなくていい、村に残っても誰も責めたりはせぬ。きみが優しいことは村人みんなが知っているよ」
「俺は優しいんじゃない、臆病なんです」
「臆病は大切だよ。身を守るためには必要な感情じゃ」
「俺……、俺は…………」
鎧は修理済みだ、荷物も持っている。
今までだって嫌々ながら敵の前に立ってきた。決して二人を置いて逃げたりはしなかった。
臆病なんかではない、勇気はある。
ただ、あと一歩、ほんの少しだけ誰かが背中を押せば歩き出す。
「どうしたケイン早く乗れよ」、ガットが手を差し出している、
「隣町まで美味いもの食いに行こうぜ!」
「美味しいものあるの?」
なぜかソフィーが食いついた。
そんな陽気な彼女の声を聴いてケインの表情から暗い影が薄らいでいった。
争いのことなど微塵も感じていない二人、まるで旅行を楽しみにしている子供のような雰囲気を目の当たりにし、怯えていた自分が馬鹿らしくなるケイン。
「ハハッ、そうだな。考えすぎかもな。――うん、おれも美味いもの食いたい」
手を握り合うケインとガット。
総勢七名となった応援団はターバンズへ向け出発したのだった。




