4-1 魔砲は撃てない魔法の杖
魔法の杖を探す旅から戻った翌日、ハスエルは恩師であるエダフの家を訪ねた。
膝丈のテーブルにはエダフの入れた温かい飲み物が用意されている。
ソファーに腰を下ろし語らう二人。
「それが新しい杖ですか」
「はい! エルフの女性に手伝ってもらいました」
瑞々《みずみず》しい顔で笑うハスエルに、ついつられて笑ってしまうエダフだった。
「そうですか、杖だけでなく新しい友達との出会いもあったのですね」
「はい。――先生、お借りしていた杖をお返しします」
彼女は一旦立ち上がり両手で杖を持つと礼をしながらエダフに返還した。
「お帰り、エリザベス」
「え、えり?」
「ハハハ……、この杖の名前ですよ。物にも精霊が宿るのはお話しましたね」、
受け取った杖を優しくなでながら語る、
「迷信といわれる伝承の類いですが、名前を付けた道具には魂が宿ると言われているのです」
「魂……ですか」
「そうです、魂の宿った道具には知性と人格が生まれ、人と会話するとされています」
「杖とお話ができるのですね!」、目を輝かせている。
「そうです。例えば聖剣や魔剣と言われる類いがそれにあたります。使う者により聖邪どちらへ成長するかも決まるようですね」
「魔杖になったら、私が原因なのか……」
「ハッハッハッ、ですから迷信の類いですよ。知性が生まれるまでに千年ほどかかると言いますしね、ようするにおとぎ話なのですよ」
「そっかあ、話せたら楽しそうなのになー」、少し残念そうに新しい杖を眺めている。
「杖、見せてもらっていいですか。」、彼女から杖を受け取り、
「ふむ、これは凄い。濃密な精霊の加護を感じます、これ程とは……」
エダフはまじまじと杖を鑑賞し、気が済むとハスエルに杖を返した、
「千年必要ないかも知れませんね。名前を付けて大事に育ててあげてください」
「はい! 名前かー。んー。そうだ! コダマにしよう、木の霊だもんね」
「いいですね、かわいらしい名前です」
「これから宜しくねコダマちゃん」、杖を抱きしめ頬ずりするハスエル。
名付け親の贔屓だろうか、杖がそこはかとなく喜んでいると感じる彼女だった。
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暖かな日差しの中、トラスダン村の広場で子供と鬼ごっこを楽しむエルフの姿があった。
「まてー」
「おねえちゃん、こっちー」
「私を呼んだのは、きみかー」
小走りで子供に駆け寄り、抱きしめては頬をすりあわせ感触を楽しみ、ふたたび開放する。
何度もキャッチ&リリースを繰り返すソフィーは満面の笑み。
日光に照らされキラキラと輝くエルフの姿は、誰が見ても精霊とすごすに相応しい種族だと思わずにはいられない。
農村の女性は仕事を手伝うため体格がしっかりしている。太っているのではなく骨太で筋肉質なのだ。
村の男性も仕事のパートナーとして生活するため、基本的に逞しく健康的な女性を好む傾向にある。
やせているのは病人か城のお姫様ぐらいだった。
そんな環境に健康的で見た目は若々しいエルフの女性が来たものだから、子供たちは大喜びである。
好奇心旺盛な子供たちは積極的にソフィーと接触していた。
そんな様子を少し離れたところから眺めているガット。
「なあ爺、ソフィーの言っていた魔王軍の進行についてどう思う」
「どうもなにも王城を出る前から王は大陸覇権を狙っていたではないか。今さらじゃ」
「そうではない、俺を狙っての進軍かどうかだ」
「王子はどれだけ自己中心的なんじゃ? そんなに注目される奴だとでも言いたいのか?」
「ぅ……」
「今のおぬしは村人Aじゃ、それ以上でも以下でもない。長生きしたければ妙な気を起こすでないぞ」
「俺が村人Aならこの仮面外してもいいだろ」
「ああ好きにするがいい、王子にその勇気があれば、な……」
息を弾ませ駆け寄ってくるソフィー、
「ハァハァ、子供ってカワイイねー」
「そうか? うるさいし、遠慮はないし、わがままだし」
「エルフなんて成人するまであっという間よ。その点、人間の子供ってあの姿で何年も過ごすんでしょ、いいなあー」
人間とエルフでは成長のスピードが異なっていた。
エルフは十五・六歳までは急激に成長し、そこから三十歳ぐらいまで殆ど成長しない。
寿命は不明、怪我や病気で寿命が尽きる前に死んでしまうのだ。
「そんなに子供が好きなら、オマエが沢山産めばいいじゃないか」
「エルフって淡泊なのよ。種としてダメかもしれないわね」
「そうだな、人間より長命なのに人数少ないからな、終わってるぞエルフ」
「アナタに言われると腹が立つわ!」、ガットの脇の肉をつねるソフィー、
「それにしてもこの村いいわね。暖かい」
ガットたちがソフィーを連れて村へ戻った日、村人は珍しさに驚いていたが拒絶する者はいなかった。
人間とエルフが争った話を聞かないのも大きな理由でもある。
ただし、不用意に森へ入り追い返されたり、木々を伐採して争いに発展したりする例は何件もある。だいたい人間が悪いのだが。
「そうだな。俺も流れ者だけど、受け入れてくれている」
「そうなの?」
「ああ、ここに来たのは三年前だ、それからずっと村長宅でお世話になっている」
「そうなんだ……」
ソフィーはハスエルのお宅に居候していた。
「ここに来る前……は、聞かないほうがイイヨネ」、
少し目を細め、触れていい話題か否かガットの顔を眺めて様子を伺う。
「聞くと夜トイレに行けなくなるぞ」
「言っときますけどね、私はアナタより年上なんですからねっ」
「何歳なんだよ?」
「これだから子供って。女性に年齢を聞くのは失礼なのよ」
「そっちから話しを振ってきたんだろ!」
「それでも気を使うのが紳士なのよ!」
「ケンカはダメだよー」
自分らより子供に諭される二人だった。
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ケインは自宅横の納屋で作業をしていた。
「これが、目につく、ところに、あるのが、いけないんだ」、
息を切らしながら、傷だらけの防具を道具箱にしまい、誰にも見つからないよう隠してしまった。
「よしっ、これで勝手に修理に出される心配はないぞ」、
大きな伸びをして彼は心の開放感を楽しむ。
「最近、異常過ぎるんだ。大猪に続いて象人なんて考えられないよ……」
彼は自宅に帰った後も、戦いの記憶で何日も眠れない夜を過ごしていた。
大猪の大きな牙が目の前に突進してくる映像、象人の巨体がゆっくり近づいてくる迫力。
そんな夢を見る彼は、汗だくになり何度も飛び起きていた。
「もう俺の出番はない! そうだ! そうに決まっている!」
そう自分に言い聞かせて平常心を保とうとする彼に、
「ケインー。今晩集会場で村長から話があるってー」、と言いながら通り過ぎるハスエル。
地面に手をつき四つん這いの体勢のケイン。




