3-5 婚活パーティーの会場はどこですか?
エルフの案内で少し先の開けた場所に移動し、今夜の野営地を確保した。
四人はハスエルの作った夕食を食べている。
「私の名前は、ソフィーロニア・ラ・イザノア、みんなソフィーって呼ぶわ、近くに住むエルフよ」
彼女に続き三人も簡単に自己紹介した。
「私、エルフを初めて見たわ」、ハスエルがまじまじと彼女を眺めていた。
「この森には私たちの集落しかないし、付近にもエルフの村はないもの」
「姿を見せて良かったの?」
「そこの人が私を発見したのよ」、ガットを指指しながら、
「普通の人なら気配を悟られることはないのに」
「未熟」
ハスエルの作った野菜のスープを飲みながら、ぼそっと攻撃するガット。
「あなたが変なのよ!」
ちなみにスープに入っている野菜はソフィーが近くから取ってきた草だ。
「助けてくれて、ありがとね」
「いいえ、森を守るのは私たちの役目みたいなものだし」
「象人なんて、噂話でしか聞いたことのない存在だ」
ケインもスープを飲みながら襲ってきた魔獣について話す。
「そうね、私も初めて見たわ。ここ最近、森の様子がおかしいの。この前も大猪が暴れてたけど、どこかに行ったわ」
ケインが心配そうにソフィーに尋ねる、
「森で何か異常が発生してるのか?」
「森というより、さらに北の平地から流れ込んで来るの、噂では魔王軍が南下しているから、それの影響だろうって」
「魔王軍……」、顔に影を落とすガット。
「あの一角獣は何? 伝説上の生き物よね!」、興味津々のハスエル。
「数え切れないほどの精霊が集まり、長い年月を経ると聖獣になると言われてるわ。四属性を司る聖獣を四聖獣とも言うわね」
「へぇー」
「火の不死鳥、水の九頭竜、土の一角獣、風の羽飛蛇ってね」
知らない世界の話しに目を輝かせるハスエル。
そんな彼女が見たいとか言い出さないか心配なケイン。
王室で習ったと言いたげなガット。
「一角獣は森の守り神、森を荒らす奴が現れると天誅を下すわ。姿を見た物は生きて帰れないから噂にもならないのよ」
「私たちはなぜ無事だったの?」
「象人と敵対していたし、エルフでしかも処女の私が近くにいたからね」、てへっと舌を少し出し照れるソフィー。
本題に入れとばかりに話しに割って入るガット、
「なぁ杖の件、聞いてみたらどうだ」
「そうね。――ねぇソフィー、私ね魔法の杖が欲しいの、このあたりでご神木と言われるような古い木ってない?」
「魔法の杖……、人間はそんな物がいるのね。いいわ、案内したげる」
「ありがとー」
ヤレヤレと言いたげなガット。
帰れるめどが立ち喜ぶケイン。
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森に入り五日目、いつもの隊列にソフィーが加わった。
最後尾を歩くソフィーは前にいるガットを眺めていた。
――よく見るとカワイイじゃないの。仮面のセンスはイマイチだけど。
「ンフフー」、にやにや笑うソフィー。
「気持ちが悪いな」、背後から漂う不穏な空気を警戒するガット。
「気にしない、気にしな――キャッ」
木の枝から蛇がどさりと落ちてくる。
それに驚くソフィーを見て、
「おい、森の民が蛇に驚くってどうかしてるぞ」
「へ、蛇だけは駄目なの……」
ソフィーは彼に抱きついていた。
ただし、頭一つ分の身長差である、ソフィーが腕を前にまわすと彼を目隠しする体勢になる。
「前が見えねえ、それに後頭部に洗濯板を押しつけるな」
「なによ洗濯板って」
エルフはなぜか貧乳が多い。世界の摂理に従い彼女の里も貧乳ばかりだ。
よって彼女は胸に対してコンプレックスはなく、彼が何を言っているのか理解できないでいた。
嫌味を言えば離れると思っていた彼の予想は外れた。
しかたなく首を振り、ヘッドロックを外す。
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暫く歩く一行。
ソフィーは風を切る音と木に何か刺さる音を聞いた。
音の鳴ったほうを観察すると、投擲杭に頭を打ち抜かれた蛇が枝に固定されていた。
「ンーー」、満面の笑みのソフィー。
前を歩くガットの頭に自分の顎を乗せ、腕を彼の胸元にかるく回しべったりと張り付きながら歩く。
何を言っても無駄だと悟った彼はされるがままとなっていた。
そんな二人を前を歩くハスエルが振り向いて見る。
にやーっと笑うと前を歩くケインを呼び、
「後ろ見て、兄弟みたい」
「ああ、なんかいいな」
クスクスと笑う二人。
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半日ほど歩くと、すこし開けた場所に出た。
「ここよ」、案内してきたソフィーが前を進む。
中央に太い幹の木が鎮座している。
それほど高くはないが横の広がりが見事だった。
まるで大地を守る傘のように広がる枝は、その下にいる生き物を優しく包むようだ。
何もしていないのにハスエルに治癒魔法をかけられているような、そんな感覚。
「ハスエル、こっちへ」、ソフィーが手招きする、
「精霊よ、この子が魔法の杖を作りたいそうなの、枝を少し分けてもらえないかしら」
目を閉じ木に願い事をするソフィー、ハスエルも続く。
「お願いします、皆の役にたちたいの。今の私じゃ力不足なの。どうか……お願い……」
不思議な光景だった。
数十秒、彼女たちが祈りを捧げると、空から杖が降ってきた。
枝ではない、どう見ても杖だ。
ハスエルが今使っている杖とほぼ同じ長さで、木を削り出したのではなく、最初から杖になるべく育ったような枝。
誰かを殴っても折れるとは思えないほどのしっかりした杖である。
その杖を両腕でかかえると、何度も木にお礼を伝えるハスエルだった。
「ねえ、ここの水、汲んで行きなさいよ」
ケインは水筒を取り出し、わき水で満杯にした。
後日談だが、ソフィーから聞いた話しでは、この水は霊水らしい。
確かに帰り道、水筒が空になることはなかったし、いつ飲んでも新鮮で清らかな水だった。
「ねぇ……」、ソフィーが何やらもじもじしながら話す、
「私、あなたたちについて行っちゃ駄目かな?」
荷物を整理していたケインが、
「引き続き、森を案内してくれるってことかな?」
「ううん、あなたたちの世界に行きたいの」
「俺たちの村ってこと?」
「そう……。エルフの村にね、結婚相手がいないの」
「は?」、予想外の話しに、三人が声を合わせて驚く。
「エルフが長寿なのは知ってるでしょ、だから子供をあまり作らないのね……。だから私と釣り合う男性は百歳以上離れてるの、それが私嫌なのよ」
「えっと……、婚活って意味?」
「そうなるかなー」、真っ赤な顔をするソフィー、
「あなたたち、これからも出かけるでしょ? そのための杖なんだし。そしたら私と釣り合うエルフの男性に巡り会えるかもしれないじゃない」
「そ、そうかもなー。どうする?」、ケインがハスエルを見る。
「どうって」、ハスエルがガットを見る。
「駄目だ」、バッサリ。
「なんでよっ!」
「おまえは目立ちすぎる。それに女は苦手だ」
「なによ……いいじゃない……」、目に涙をためるソフィー。
「それだ! 涙を武器にするな。美人は泣けばいいと思って……」
「私、美人?」、もう泣いていない。
「あー、もういい、二人で決めてくれ」
ケインがニヤニヤしながら、
「ここは多数決だな、ソフィーと旅がしたい人」
ケイン、ハスエル、ソフィーが手を上げる。
ヤレヤレという仕草をしつつ、先が思いやられるガットだった。




