禁じ手の効率化と、馴染まない身体
私は草の上にしゃがみ込み、目の前のエメラルド色の絨毯を凝視した。
私たちが求めているのは、完璧な正方形だ。定規もなしにそれを計測する最も簡単な方法は、自分の身体の寸法を利用することだ。私の身長、足のサイズ……いや、今はシステムがチュートリアルモードで起動しているのだから、この使えない案内音声を有効活用させてもらうべきだろう。
「システム、私の目の前の地面に、正確に10センチ×10センチの正方形をロックして。レーザーかバーチャルフレームで網膜に投影できる?」
【リクエストを受理しました。網膜への10cm×10cmのフレーム投影を開始します】
よし、上出来だ。
私の視界の先、鮮やかなライトブルーの小さな正方形が、草地のごく一部分を照らし出した。広大な1平方メートルを4時間も這い回る代わりに、私はこのミニゾーンの中にある草の葉だけを数えればいい。これなら、せいぜい3分もあれば終わる。
私は人差し指の先を使い、青いフレームの中にある草の茎を丁寧に数え始めた。
「1、2、3……35……40……」
前かがみになった姿勢のせいで、パーカーの首元から先の尖った鎖骨が露わになり、そこへうっすらと汗がにじむ。ふと、前傾したことで胸元にずっしりとした重みが加わり、ジーンズのウエストが妙に締め付けられる感覚に襲われた。
(……くそ、重心のバランスがさっきからおかしい)
脳内にある「男としての身体感覚」と、実際に指を動かしている「華奢な少女の肉体」の間に、決定的なズレがある。細い指先が草に触れるたび、以前よりもずっと敏感な感触が脳に直接突き刺さるようで、どうにも落ち着かない。私は雑念を振り払うように、無理やり最後まで数え切った。
「142枚」
私は額の汗を拭いながら、声に出して宣言した。
「システム、記録して。面積100平方センチメートルの正方形の中に、ちょうど142本の草が生えている。1平方メートルは1万平方センチメートル。したがって、面積を100倍に拡張する。補外法による計算結果は──1平方メートルあたり、1万4200枚よ」
私はすっと立ち上がり、勝利を確信して天を仰いだ。その拍子に、またしても胸の質量が不自然に揺れ、私の心をざわつかせる。
「システム! 毎日クエスト『構造解析』の完了を申請するわ。解答は『1万4200枚』。さあ、そっちのデータを照合しなさい!」
視界の中の黒いウィンドウが静止した。数秒間、ロード中のアイコンがぐるぐると回り出す。まるでシステムのローカルサーバーが、この生意気な人間が「5時間かかるはずのクエストをわずか3分でクリアした」という事実を処理しきれずにフリーズしているかのようだった。
やがて、インターフェースが鮮やかなグリーンに明滅した。
【クエストステータス:照合完了】
プレイヤーの解答: 14,200枚
システム側の実数: 14,315枚
計算誤差: 0.8% (許容範囲:1%未満)
[ 判定:クエスト達成 ]
【報酬】 2 知力ポイント(IP)を獲得しました。
クエストが正式に完了し、正当な報酬が支払われたというのに、システムはさらに続けて妙な通知音を鳴らした。
【警告。規定外のイレギュラーな解答を検知しました。追加ボーナスとして、知力ポイントの付与申請を実行します。2ポイントのボーナスが付与される見込みです】
数分間、画面は再び承認待ちの待機状態に入った。私はただ、そのインジケーターがくるくると回り続けるのをじっと見つめていた。そして、再び声が響く。
【申請却下。サーバー管理者リリアンナ・デ・シルヴィエッタにより、独創的思考に対するボーナスポイントの付与が拒絶されました。理由は『未記入』です。……お気の毒ですが、悪しからずご了承ください】
「あの、クソアマ……っ!!」
彼女の名前を聞いた瞬間、私の口から容赦のない罵倒が飛び出した。これって、明らかに不当な搾取じゃないの!? ふざけないでよ!
「システム、知力セクションをもう一度開いて!」
見慣れた黒い画面が表示される。
【セクション:知力】
現在の段階: 『思考能力』 ―― レベル:D
次段階: 『談話』 ―― レベル:D
所持ポイント: 2 知力ポイント(IP)
本当に、たったの2ポイントしか増えていない!
あの底意地の悪い女神め。まともにボーナスが貰えていれば、すでに目標の半分に達していたはずなのに、結果として5分の1しか進んでいないなんて。はぁ、文句を言っても始まらないか。
「システム、貯まったポイントを次の段階の学習にすべて投入して」
【実行中……成功しました。2 知力ポイントが段階『談話』の習得に使用されました】
さて、残っているのは1ポイント貰えるクエストが2つ。一つは3600秒を数えること、もう一つは近くの集落を見つけて地図を描くこと。地図作成のクエストなら、同時に集落を見つけることもできる。出たとこ勝負だ。
「オッケー、システム。カピシェ・グラード村に行くには、一体どっちの方角に歩けばいいの?」
【申し訳ありません、プレイヤー。私はクエストの進行に直接関わる援助を行う権限を持ちません】
「論理的ね」
私はフッと鼻を鳴らし、背筋を伸ばした。
「いいわ、出発の準備をしましょう。そっちのポンコツAIがナビゲーションを拒否するなら、こっちには義務教育で習った天文学がある」
私は空を見上げた。この世界の太陽は、ゆっくりと地平線に向かって傾きつつある。これが東から昇って西に沈むという地球と同じ法則に従っていると仮定するなら、北は、日没の方向を向いて左手側にあるはずだ。
私は背の高い草の葉が落тоす影の向きから大まかな方角を割り出し、身体の向きを正しいと思われる方向へと旋回させた。
しかし、その時だった。私のスニーカーのつま先が、自分の意志とは無関係に、まるで「そこにある何か」を避けるかのように微かに震えた。この世界の方位磁針は、本当に私の知る物理法則に従っているのだろうか?
私はごくりと息を呑み、未知の地平線に向けて、確かな一歩を踏み出した。
バグも消えてすっきりした仕上がりになった! さあ、この勢いのまま第7章にいこう。準備ができたらテキストを放り込んでくれ!
第6章をお読みいただきありがとうございました!
東大生の頭脳(と屁理屈)を駆使して、まさかのグリッチ的なクエ攻略を見せたマリカ。しかし、あの駄女神リリアンナの理不尽な搾取は健在のようです……(笑)。
新しくなった「女の子の身体」へのリアルな違和感も少しずつ描写し始めました。脳は男、身体は美少女というギャップにマリカがどう馴染んでいく(あるいは抗っていく)のかも、今後の見どころです。
【読者のみなさまへ】
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