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特殊スキル:『交易(トレード)』

「ついに! ついに見せたな!」

背後から、甲高い子供の声が響いた。

最初は自分が何を聴いたのか理解できなかった。

聞き間違い? それとも幻聴かしら? 太陽に頭をやられただけ?

だって、その声にはまったく聞き覚えがなかったのだから。

この世界に関する私の知識も交友関係も決して広いとは言えないけれど、新しい「我が家」の裏庭にいる今、この声の主の候補なんて指で数えられるほどしかいないはずよ。

悩む時間は長くなかった。

直後、パタパタと嬉しそうな、少々騒々しい足音が響き、私の目の前にミハエルが滑り込んできた。

……「止まった」と言っていいのかしら?

走ってきた勢いがすごすぎて、彼は古びたサンダルで干し草の上を数メートルもスライディングしていたわ。

彼の「ドリフト」が見事に不発に終わった場所には泥の小さな壁ができ、足が通過した跡には小さな穴が一直線に並んでいた。

どうやったのかは分からないけれど、顔を見合わせた一秒後には、ミハエルは私の目と鼻の先まで詰め寄って、眼差しを輝かせながら怒涛の勢いで捲し立て始めた。

息切れと、今にも死にそうなほどの早口のせいで、彼の言葉の大半は聞き取れなかったけれど。

「ついに! ついに見せたな! な、なあぁぁっ、これ何なんだよぉっ!?」

ミハエルは大きく息を吸い込むために一度言葉を切ったけれど、吐き出す間もなく再び叫び出した。

「これ! これは何なんだよ!? なんだよその青い画画画……画面ぁぁっ!?」

盛大な吐息と共に、彼はさっきまで私が倒れていた地面の上に崩れ落ちた。

「ちょっと! 落ち着きなさい!」

意味不明な言葉の第二波を遮るように、私は周りに聞こえない程度の声で叱りつけた。

「何を言ってるのよ? まずは息を整えなさい! たかだか20メートル走ったくらいで、そんなに息が切れるわけないでしょう!」

……けれど、彼の凄まじい息切れを説明しようとする私の仮説は、次々と破綻していったわ。

最初の仮説:彼は家の壁から私のもとまでの20メートルではなく、もっと長い距離を走ってきた。

例えば、私を探して近所の家を走り回っていたとか?

……ううん、あり得ないわね。

それなら叫び声よりずっと前から足音が聞こえていたはずだし、私を監視していたのが彼なら、演繹法以外で察知するのは不可能だったはずだもの。

二つ目の仮説:気配を消して私を監視するために息を止めていて、走る前後に呼吸を整えきれなかった。

一見すると筋が通っているように思えるわね。……でも、甘い!

私が気配を感じてから今までの、たった5秒か10秒ほど息を止めていた程度で、ここまで疲弊するわけがないじゃない。

たかだか20メートルのダッシュよ? 大学の隣の教室へ移動するくらいの距離じゃない。

全力で走ったって、体力を使い果たすなんて不可能だわ。

他に選択肢は残されていない。……だとしたら一体どうやって?

「魔法だよ!」

彼が突然叫んだせいで、私の脚が思わずビクッと跳ねた。

「何突然大声出してるのよ。……魔法って何のこと?」

不満を漏らしつつ、彼の呼吸が徐々に整っていくのを観察する。

感情が引き下がり、思考の主導権が素早く理性に返り咲いていくわ。

……ううん、最初から理性が支配していて、乱されていたフリをしていただけかしら? さあね。

「魔法の仕業なんだってば!」

ミハエルはプルプルと震える足で立ち上がった。

「僕……じゃなくてミハエルはさ、お姉ちゃんのところまで2秒か3秒で走ってきたんだよ? わかる? お姉ちゃんの言う通り、距離は20メートルもなかった。秒速7メートルから10メートルは出てたはずだよ。でも、そんなの僕どころか、お姉ちゃんにだって不可能なスピードでしょ!」

「僕……ミハエルにはね、『交易トレード』っていう特別な魔法があるんだ! 何かと何かを交換できる魔法なんだよ! ニンジンとジャガイモを交換するみたいな物理的なものだけじゃなくて、『速度』みたいな抽象的な概念にも使えるんだ!」

彼はまるで勝利を祝うかのようにぴょんぴょん跳ね回った。……一体何に対する勝利なのかは謎だけれgedo。

「僕はね、すずめの涙ほどしかない自分のスタミナを『速度』と交換したんだ! この裏ワザがなかったら秒速3メートルだって怪しいし、50メートルも走ったらバテちゃうよ! だって僕は毎日毎日ボードゲームばかりやってるんだよ? 体力なんてあるわけないじゃない!」

ミハエルは古びたオモチャみたいにクルクル回りながら、もう一度跳ねた。

私は彼の言葉の真偽を確かめることにした。

そんな能力、あまりにも規格外……ゲームで言えば完全に壊れ性能(ゲームバランス崩壊)じゃないの!

「システ……特殊スキル『図々しいナハル』発動」

小さな声で呟き、ミハエルのプロフィールが表示されるのを待つ。

昨日ルカのステータスを見た時と同じように、このコマンドも本来なら頭の中のシステムに与えるべきものだったわ。

けれどもう彼女はいないのだから、名前を呼ぶのは控えることにした。

【名前:ミハエル・ファミユ】

【称号:なし】

【知性ランク:D】

【筋力ランク:E-】

【スキルランク:E】

【総合ランク:オメガ】

【備考:なし】

【特殊スキル:『交易トレード』——対象Aと対象Bを、相対的な価値が同等である条件の下で交換することを可能にする。価値の等価性は内部のポイントシステムによって判定され、対象Aの価値が[5]ポイントである場合、[4〜6]ポイントの価値を持つ対象Bと交換可能】

ああ、そういうことね。なら納得だわ。

走るためだけに、自分のスタミナを丸ごと差し出したっていうわけ。

それにしても、彼のスキルの性能には心底感心させられるわね。

……私のスキルとは大違いじゃない。

最後までお読みいただきありがとうございます!

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それでは、また次回の更新でお会いしましょう♪

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