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『リバース』

私は決意を込めて『ケン』を引っ張り出し、かつて『ウマ』を配置していたのと同じラインに据えた。タイマーが『07:50』で止まり、手番がミハエルへと移る。

そのガキは迷うことなく、『マモル』をさらに一マス前進させ、ツンドラの奥深くへと踏み込ませた。時間表示は『07:50』のまま変わらない——ノータイムでの着手だ。私の嫌な予感が裏付けられた格好だった。

……でも待って? あいつ、自ら行き止まりに突っ込んでない!? このまま直進することはできない——その先には平原があるからだ。右フランクに折れれば、森に潜む私の『ウマ』と戦闘になる。左へ行けば、ただ無駄に持ち時間を失うだけ。一連のマニューバで彼はすでに4ポイントを費やし、残りは96ポイント。左に逃げれば、テンポとイニシアチブを完全に喪失することになる。ミハエルは間違いなく、私の予想を超えた『何か』を仕掛けてくるはずだ。私が見落としている何かが……!

時計は『07:30』。私は『ケン』を前進させた。次の手で、黒の『マモル』は強制的に戦闘に引きずり込まれるか、さもなければミハエルがアドバンテージを完全に手放すことになる。

『07:29』。あいつは私の『ケン』に攻撃を仕掛けてきた。

やっぱり! 罠にハマったわね! この戦闘に応じるしか選択肢がなかったんだ! ステータスの基本値を見れば、私が勝つのは確実。私の『ケン』の攻撃力は10、対するあいつの『マモル』はたったの5。

表示は『07:27』。数秒間フリーズしてダメージ計算をし、すぐさま反撃を見舞う。元々50あった彼の『盾』のHPは40に減った。私の『ケン』の初期HPは30で、今は25、次で20になる計算だ。泥沼にはなるけれど、競り勝つのは私!

ミハエルは顎を少し掻いた。長考しているわけじゃない——そもそも奴にそんな必要はなく、数分前に全てを決め終えているのだから。ただ単に痒かったのだろう。ねっとりと、メランコリックに擦り続けている。まあ、本当に痒かったのか、それともポーズか……。

『07:08』——あいつが再び私の駒へ攻撃。ケンのHPが20に落ちる。

『07:07』——私も完全に同調して反撃を返す。他の戦術を模索する余裕もなく、局面はただの淡々とした殴り合いに突入していた。『マモル』のHPは30まで削れる。

Wait、そして『07:05』を指したその時、ミハエルはおもむろに『マホウ(魔法使い)』を盤上へ投入した。

……は? なんで!? 『マホウ』の射程は前方わずか2マス、広大な盤面を飛び越えて攻撃なんてできないはず! 全く筋が通らないじゃない!

まあ、私には関係ないわ。『マホウ』が『マモル』の救援に到着する前に、私が先に削りきればいいだけなんだから。なんだ、ミハエルも大したことないんじゃない?

ケンでマモルを叩く。あいつのHPは残り20。一見すれば、圧倒的な勝利はもう私の手の中にあった。ほんの1秒前のことだ。

私は自分のことを頭がいいなんて思ったことは一度もない。天才、神童、ギフテッド……そんな大層な言葉は、私とは完全に無縁だった。だが、その全ての言葉を一人で体現している存在が、目の前にいた。無造作に癖毛を弄りながら、だるそうに座っているその少年。英才教育を受けている? ええ。頭が良い? とんでもない——ただの化け物よ。そして、その決定的な証拠が今、私の惨めな勝利の幻想を木っ端微塵に打ち砕いた。

「……リバース」

ミハエルが、今にも眠りそうな低音で呟いた。

次の瞬間、私が瀕死まで追い詰めたはずの黒の『盾』が、目の前で優美な『杖』へと変貌を遂げた。「テレポート」と聞いていたから、てっきり駒を指でマス移動させるだけのものと思い込んでいた。だが私は完全に失念していたのだ——ここが魔法に満ち溢れた異世界だということを。その杖の姿は言葉を失うほどだった。優美で、威厳に満ち、揺るぎなく、そして何より——絶対的な勝利を象徴していた。

周囲の誰も驚いていなかった。ギャラリーは全員、この化け物の真価を知り尽くしていたのだ。初手で彼がたった一つの駒を出したその瞬間から、この対局の結末がどうなるのかを全員が理解していた。

頭上のシステムタイマーが、ぴったり『07:00』で停止する。

敵『マホウ』のHPは20。対する私の『ケン』のHPも現在20。だが『マホウ』の攻撃力は絶望的な20で、私の『ケン』の攻撃力は惨めな10。完璧な線対称でありながら、私にとっては致命的な数値の並び。……詰みだ。終わりだった。

最後までお読みいただきありがとうございます!

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それでは、また次回の更新でお会いしましょう♪

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