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『戦場(センジョウ)』

さて、問題のゲームについてよ。

私の目の前には、広大なマップが広がっていた。これがこの異世界の全体マップなのか、単に精密に描かれた架空の戦場マップなのかは分からないけれど、今の私にとってそんな情報は不要だった。重要なのは、その作り込みの凄まじさよ。

マップ上には地形概念が存在していた。雪深きツンドラ、乾燥した砂漠、険しい山脈、見通しの良い平原、そして鬱蒼とした森林。それぞれのエリアの隅には、「マイナス」の記号がついた謎のシンボルが刻まれている。おそらく地形デバフ(補正)ね。エリアは全部で7つ。平原と森林が2つずつ、残りが1つずつ配置されていた。

私がマップの分析を終えると、モニカが手際よくコマを並べ始めた。

最初に置かれたのは、全く同じ形状をした10個の駒。

底面が丸く重厚で、倒れにくい構造になっている。全体的には細長い柱のような形状で、地球の概念で例えるならミニチュアの「記念碑」ね。

……だが最大の衝撃は、その駒の頭頂部に刻まれた文字だった。

漢字で、【剣】。

ちょっと待ちなさいよ。なんで異世界に「漢字」が存在してんのよ!?

私の東大脳(Todai Brain)が一瞬でフリーズした。

続いて両脇に2個ずつ配置された駒。そこにはリアルな馬の造形が施され、背中にはハッキリと【馬】の漢字。計4個のナイト役ね。

……ねえ、なんで全部日本語表記なの? 私がこの世界の言語を必死に理解しようとしていた苦労は何だったの!? 暇つぶしのボドゲで普通に漢字が使われてるじゃないのよ!

次に置かれたのは、装飾されたスタッフの駒が5個。先端の水晶部分には【魔】の文字。

続いて、大きな盾の駒が10個。表面には【守】の文字。

そして最後に――中央に君臨する巨大な城の駒。屋上には精巧な小さなフィギュアが乗っており、城門には【王】の文字が刻まれていた。最高ランクのユニットね。

私とミハエルの初期配置・編成は完全に左右対称で、違いは「色」だけだった。私のが「白地に黒文字」、ミハエルのが「黒地に白文字」。……これ、どう見てもチェスか将棋の類じゃない!

「さて、マリカ。ゲーム『戦場センジョウ』へようこそ」

モニカの口から発せられた単語に、私の脳が二度目のフリーズを起こした。

『センジョウ』……って、そのまま【戦場】

ってこと!?

偶然で片付けるには無理がありすぎるわ! 一体全体、この世界はどうなってんのよ!?

「勝利条件はシンプルよ。相手の『王』を撃破すること」

モニカが説明を続ける。私は自分の『王』とミハエルの『王』を見比べた。瓜二つね。なら性能も同等かしら。

「勝ち負けの決定方法は基本的に二つ。相手の王を討ち取るか、自分の王が討ち取られるかよ。だが、もう一つ重要な要素があるわ。両プレイヤーには初期値として100の『時間ポイント』が与えられるの。1ターン経過するごとに1ポイント消費。敵の駒を1個撃破すると5ポイント減算。自分の駒が1個撃破されると10ポイント減算。ポイントの回復手段は存在しないわ。ズルをしないように、私が厳重にカウントするからね」

……シンプルに見えて、ド凄惨なルールね!

時間制限(リソース管理)が存在することで、不用意な駒の犠牲(特攻)がそのまま自滅に繋がるわけだ。ただ相手の防衛線を突破するために駒を捨てるような真似は許されない。完璧な思考と計算が求められるわ。

「駒のスペックを教えるわね。『剣』は攻撃力10、HP30。『守』は対極で攻撃力5、HP50。『魔』は攻撃力20、HP20のガラスのアタッカーよ。『馬』は攻撃力5、HP20だけど、特殊能力として『2つのライフ』を持っているの。一度HPが0になっても、1ターンの無敵時間を挟んでHP20で復活するわ。つまり実質HP40ね」

「そして『王』は攻撃を行わないけれど、HPが150もあるわ。……あ、ちなみに『魔』だけは唯一のヒーラーで、1ターン消費して自分自身のHPを5回復できるわ。さらに10時間ポイントを消費して、盤上の任意の2つの駒の位置を入れ替えるスキルと、2マス先への遠距離攻撃が可能よ」

モニカは得意気な顔で解説を終えた。

彼らはこのルールを熟知しているのだろうけれど、初見の私には情報過剰よ! 対戦相手のミハエルはガチ勢の目で私を睨みつけているし、初心者相手に手減げ(手加減)してくれる気配なんて微塵もないわ。

「ちょっと待ってモニカ、マップの各エリアにあるマイナスの記号は何なの?」

初見殺しのトラップに引っかかる前に、私は確認した。

「ああ、それ? 単純な出撃制限よ。ツンドラには『馬』を配置できない。山脈には『馬』と『剣』を配置できない。森林には『魔』を配置できない。平原には『守』を配置できない。砂漠には『馬』と『剣』を配置できない。……理解できた?」

モニカは「そんな常識も知らないの?」と言いたげに鼻で笑った。

……そして、私はついに気づいてしまった。

マップ上に刻まれたその「謎のマイナス記号」の正体を。

それらはデバフのマークなどではなく――このスラムのガキどもが、駒に書かれた「漢字」を必死に模写しようとして失敗した、ただのつたない手書きの【馬】や【剣】の崩れ文字(記号)だったのだ!!

最後までお読みいただきありがとうございます!

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それでは、また次回の更新でお会いしましょう♪

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