蘇る意識
ちくしょう……! 薬の副作用の野郎……頭が割れるように痛い。
おまけに喉もカラカラだし、お腹も空いたわ。昨日の朝から何一つ口にしていないんだから当然だけど。
「み、水……みず……」
私はゴホゴホと咳き込みながら、かすれた声で喘いだ。
口の中は砂漠みたいに乾燥している上に、自分の口臭で吐き気がするほど不快だった。あの粘着質な『リピツェ』の汁は相変わらず残っているし、そこへ追い打ちをかけるように酷い金気(鉄の味)まで漂っている。まるで一晩中、錆びついた鉄格子を舐め回していたみたいな不快感よ。
足の感覚は完全に失われていた。手は? ……この地獄のような苦痛の中で、私は「自分の手で物を握る」という感覚がどんなものだったかさえ思い出せなくなっていた。
ねえモニカ、こんな地獄を味わわずに済む痛み止めがあったなら、なんで私にあの悪魔の配合薬を飲ませたのよ!?
口の中は燃えるように熱いのに、同時に氷河期が訪れたかのように凍りついている。まるで私の口内だけが独立した別の宇宙だわ。ドラゴンのブレスを吐けそうなくらい熱くて、内部の細菌にとってはエスキモーの住処がハワイの高級リゾートに思えるくらい冷たい。
……けれど、その最大の被害者は他ならぬ私自身だった。
お腹は鳴る、頭は割れる、口は悲鳴を上げる、手足は麻痺して動かない。
悲劇のヒロインを気取るには十分すぎるお膳立てね。……けれど、私は自分自身の「殉教者プレイ」を甘く見積もりすぎていた。
本当の恐怖は、まだ遥か先だったのだから。私は地獄の折り返し地点にすら達していなかったのだ。
「あ、見てモニカお姉ちゃん! キキお姉ちゃんが起きたよ! すごく元気そう!」
誰かの無邪気でフレンドリーな声が響いた。
その「元気そう」の眼科に行って診てもらいたいわ! こっちは今にも耳の鼓膜が破裂しそうなのよ!
私にとっては、ほんの少しの時間が流れただけに思えた。夢も見なかった。昨日の夜と同じように。
たった一時間が経ったのか、それとも数週間が過ぎ去ったのかさえ分からないまま、私は外部からの刺激に耐える術もなく、ただ横たわっていた。
胸の動悸は激しくなり、周囲のわずかな物音ひとつで鼓膜が弾け飛びそうだ。
ちょっと待って、毒をもって毒を制す(マイナス×マイナス=プラス)って本当なの!? モニカの奴、本気で私を毒殺してあの世へ送るつもりだったんじゃないでしょうね!?
「で、効き目はどうかしら?」
……お前か、私の殺し屋。聞き覚えのある声が聞こえてきた。
私は黙っていた。というか、答えようがなかった。答えたくても声が出ない。
残された最後の呼吸を振り絞り、私はただ哀れな掠れ声で「水をくれ」と乞うことしかできなかった。雨水でもいい、とにかく水分を!
次の瞬間、果てしない暗闇の中に一筋の光が差し込んだ。
ボロ小屋の荒んだ空気の中から本能的・動物的に水分を求めて開かれていた私の口。己の絶望的な状況を世界に向けて発信していた私の口内に――ついに、何らかの液体が注ぎ込まれたのだ。
即座にそれが「水」か「それ以外」かを識別することはできなかった。
最初の数秒間、それは単なる抽象的な「液体」に過ぎなかった。そいつがしてくれたことと言えば、私の体内の乾燥とドロドロの粘液を洗い流してくれたことだけだ。
私はなりふり構わず、必死にそれを飲み干した。情熱のあまり、勢いで自分の舌まで飲み込んでしまったかと思ったわ。
けれど、私の身体の最大の宿敵が打ち滅ぼされた時、私はついに真実へと辿り着いた。
「み、水だあああっ!!」
私はガバッと跳ね起きて叫んだ。
重い瞼をどうにかこじ開けた瞬間、私は最初「ああ、私はついにこの世を去ったのだな」と思った。
ここ二日間で受けたあらゆる拷問がようやく終わりを告げ、正義が執行され、私のお魂は神の御許へと召されたのだと。
だが、何度もまばたきをして、解像度10ピクセルのぼやけた視界をなんとか修正すると――私は自分が相変わらず同じボロ小屋の床に転がっていることに気づいた。
私の周りには、まるでカルト教団の生贄の儀式のように、8つの顔がずらりと並んでいた。
数秒前まで死に直面していた苦痛は、綺麗さっぱり消え去っていた。本当の意味で、終わったのだ。身体の各部位の感覚が戻ってくる。お腹は空いているし、喉もまだ少し渇いているけれど、そんなのはただの微々たる問題よ。さっきまで破裂しそうだった頭痛すら、急速に治まりつつあった。
……まあ、それもこれも、私の口ではなく髪の毛や服の上にバシャバシャと水をかけ続けているジャスパーのおかげなんだけどね。
ねえ、このガキ、絶対頭のネジが数本飛んでるでしょ!? 水分補給マニアか何かなの!? なんで私は今日だけで二回も、こいつに水攻めされながら目覚めなきゃいけないわけ!?
wooden (木彫り) のように表情ひとつ変えずに水を注ぎ続ける少年。責める気力すら湧かないわ。
「ジャスパー、やめなさい! 私、絨毯を替えたばかりなのよ!?」
モニカが悲鳴を上げた。私の聴覚の耐性閾値が上がっていたとはいえ、その大音量はまだ耳に響いた。
「ごめんなさい、お姉ちゃん」
ジャスパーは謝罪し、ぺこりと頭を下げた。だが、なぜか水は私の頭に注がれ続けている。
「ジャスパー……」
私は溜息をつき、ほぼ空になった水入れを彼の手から遠ざけた。ジャスパーは私にも深くお辞儀をした。……その表情はピクリとも変わらないまま。
こうして数々の試練を経て、世界の崩壊(浸水)の危機は回避されたのだった。
はぁ、手の一振りで世の中のすべての問題が解決できればいいのに。現実はそう甘くないのが口惜しいわね。
第30話をお読みいただき、本当にありがとうございます!
なんと今回で節目の30話目。あっという間にここまで来てしまって、自分でも驚いています。
私はこの物語を絶対に最後まで書ききるつもりなのですが、そのためにたくさんのキャラクターを登場させて、一人ひとりの内面をじっくり描くようにしています。「少し展開が遅い(冗長)かな?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、私の中ではこの世界をより立体的に、そして生き生きと感じてもらうための重要なこだわりなんです。
読者の皆さんが「このキャラ、自分と性格が80〜90%……いや100%シンクロしてるかも!?」と思えるような、運命の推しキャラに巡り合ってもらえたら最高だな、なんて思っています。
大きな野望を持つのは素敵なことですが、作者の「バーンアウト(燃え尽き)」の前には虚しいものですよね……。というわけで、私が途中で燃え尽きてしまわないよう、これからも毎回のエピソードの最後で血の涙を流しながら★評価とブックマーク登録を乞い続けていく所存です!!(いつか目標を達成するその日まで……!)
皆様の毎日にたくさんの幸ありますように。私は私で、これからも自分のペースで執筆を続けていきますね。
改めまして、貴重なお時間を割いて私の作品に付き合ってくださった皆様に、心からの感謝を!




