『三宝荒神』のナイフ
本当は声に出して承諾すべきだったのだろうが、少年は言葉がなくとも私を理解したようだった。というか、そもそも彼には私の同意なんて最初から必要なかったのだろう。私が黙って彼の後ろをついて歩いている時点で、すでにすべての条件を受け入れたも同然なのだから。
「ところで、少年……あなたの名前は何ていうの? いつまでも男の子とか、ガキんちょとか呼ぶのは不便だし……」
私は少し調子に乗りすぎたかもしれない。また理不尽にお腹を蹴られるのを覚悟して身構えたが、少年はただ立ち止まり、私を振り返って冷淡に答えた。
「ルカ。苗字はねえ。ただのルカだ。変なあだ名をつけようものなら承知しねえからな。俺の名前は一つだけ、ルカだ。それだけだ。年齢が知りてえなら、十三歳。それも同じだ。それ以上でもそれ以下でもねえ」
彼はそう言い捨てて再び歩き出したが、その空気の中には、私と彼の間に明確な一線を画す、見えない壁のようなものが生じていた。
その境界線を壊そうとする試みは多々あれど、やはり言葉以外に解決策はないようだった。私は会話を続けることを決意した。私たちの間に、いつまでもこの冷たい壁を放置しておきたくはなかったからだ。
彼のことをまだ何も知らないし、名前を知ったのもつい数秒前のことだったが、私はすでに彼の「弱点」に触れたような気がしていた。彼は全能ではない。彼もまた、ただの子供なのだ。かつての世界の私と同じように。
「ルカ……どうしてあの人たちは、あんなにあなたを恐れていたの? あなたはまだ13歳でしょ? あいつらは何歳なの?」
ルカは足を緩めず、むしろ速度を上げたが、それでも会話には応じてくれた。
「俺がいつも、真っ赤に焼けたナイフを持ち歩いてるからだよ。あいつらの年齢についてだが、手短に言おう。神様だって知らねえよ。ここでは誰も数字なんて気にしちゃいねえし、そもそも数を数えられる奴自体が滅多にいやしねえ。このドブ溜めの中で、自分の年齢を覚えている奴なんて指で数えるほどしかいない。そのリストに入っているのは俺と、俺の弟妹たちだけだ」
「きょうだいがいるの? ……いや、待って。真っ赤に焼けたナイフを持ち歩いてるってどういうこと? どこにあるのよ?」
私は純粋に興味を惹かれて尋ねた。
「これだよ」
ルカはシャツの深いポケットから手際よく鉄製のナイフを取り出すと、手元で数回クルクルと器用に回転させ、唐突に私に向かって放り投げてきた。
「ちょっ――!?」
私は危うく顔面を切り裂かれそうになりながら、目の前数センチのところで必死にそれをキャッチした。危ないじゃないのよ! もし目にでも当たってたらどうするつもりよ!?
しかし、ルカは私の焦りっぷりを見てただケラケラと楽しそうに笑うだけだった。
渡されたナイフを数回ひっくり返して観察してみたが、特に変わった様子は見られなかった。ごく普通の狩猟用ナイフだ。元の世界の大手通販サイトで三千円くらいで売っていそうな代物。これのどこが恐ろしいのだろう?
「別に、熱くも何もないじゃない」
私が率直な感想を漏らすと、ルカは振り返りもせずに後ろ手で手を差し出し、ナイフを返すよう要求した。
私がそれを彼の手へと戻した、まさにその瞬間だった。
銀色だった刃がみるみるうちに赤、オレンジ、そして眩い黄色へと熱を帯びて変色し始めたのだ。ルカがそれを近くの枯れ木の枝に軽く押し当てると、枝は瞬時にパチパチと音を立てて激しく燃え上がった。
その後すぐに、ルカが数秒間ナイフを動かさずに保持していると、刃は先ほどと全く同じ、何の変化もない冷たい鉄の状態へと戻った。文字通り、変色もなければ、煤さえ残っていなかった。
「……え?」
今度は、先ほどよりも慎重にそれを手に取ってみた。観察する。恐る恐る、先ほどまで真っ赤に焼けていたはずの刃に触れてみたが、ナイフは先ほどと全く同じ冷たさだった。……奇跡か何かかしら!?
ここには間違いなく魔法が絡んでいる。でも、一体どんな仕組みだ?
そうだ、私には『不遜』のスキルがあるじゃない! さっさとこれを発動して、このガキの中身を覗いてやればいいのだ。
(システム、『不遜』のスキルを発動して――!)
私は心の中で命令を下した。システムは無言のまま、私の視界の中にルカのステータスウィンドウを冷酷に表示してみせた。
【キャラクター名】 ルカ・ファズゲルマヒト
【ステータス】 スラムのボス
【知力レベル】 E+
【腕力レベル】 D
【スキルレベル】 E+
【総合レベル】 オメガ
【固有備考】 神の加護 20%
【特殊スキル】 『三宝荒神』 ―― 自身の手にある物体の温度を自在に操作できる。
なんてことだ。ルカのステータスは、知力を除いて私のほぼ二倍に達していた。
最も興味深いのは彼が物体の温度を操作できるという点だが、このナイフの例を見る限り、なぜかナイフ自体が熱で溶けることはないらしい。これも『三宝荒神』という固有能力の一部なのだろうか? おそらくはそうだろう。少なくとも、他の理由によるものだと考える論理的な根拠はなかった。
「で、どうだ?」
ルカは得意げに言った。
「俺がどれだけ恐ろしいか分かったか? だからこそ、俺はこの豚小屋の連中を完全に支配下に置けてるんだ。昔、ある『クソ生意気な賢い奴』が、俺の留守を狙って家族に手を出そうと考えやがった。その日の終わりまでに、俺はその馬鹿の家族の家をすべて焼き払ってやったよ。全員が避難できたかどうかは怪しいが、そんなの俺の知ったことじゃねえ。おかげでモニカがあの薄馬鹿に特大の鉄槌を下してやったんだ! ざまあみろ!」




