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知恵袋と鉄の門

門番の知性は『E』。私の『D』より二ランク低い。

知恵比べなら勝てる。だけど、ジェスチャーなんて生ぬるい方法が通用する相手じゃないのは一目瞭然だ。下手をすれば「敵対行動」とみなされて、あの一撃で消し炭にされる。

(なら、視界に入らずにやり過ごすしかないわね)

あいつがロボットのように一定の巡回ルートを持っているなら、その隙を突く。

私は近くの太い枝をへし折り、わざと音を立てて数回足踏みをした。

ガサリ、と不自然な羽音が響く。

鎧の頭部がこちらを向いた。男が重い足取りで、音のした方へと歩き出す。

その隙に、私は木々の影を縫うようにして、一気に灰色の道路へと躍り出た。狙い通り、門の前はガラ空きだ!

私は全速力で走り、鳥居をくぐり抜け、カピシェ・グラードの巨大な外門の前に到達した。

「よし、開けるわよ! せーの……!」

――ビクともしない。

「もう一回! フンッ!」

やはり動かない。私の細い腕では、木製の扉に体重をかけるのが精一杯だった。

「嘘でしょ!? 動いてよ!」

冷や汗が背中を伝う。背後からは、異変に気づいて戻ってくる門番の重い足音が近づいている。

「システム! なんでこの門が開かないのよ!?」

【原因:貴女の腕力不足です。居住区の外門を開放するには、最低でも『腕力レベル:E+』以上が必要です】

「はあ!? こんなところまでシステム制限なわけ!? あの糞女神、どこまでケチなのよ!」

だが、よく考えればクエストの条件は「中に入ること」ではなく「地図を完成させること(ポイントBへの到達)」だ。私はすでに目的地に足を踏み入れている。

「戻るわよ!」

私は再びダッシュして近くの巨木へと飛びつき、猿のように素早く枝の上へと這い上がった。女の子の身体でこんな無様な格好をするのは屈辱だったが、背に腹は代えられない。

息を荒くしながら、目を閉じてここまでのルートを脳内で反芻する。

「システム、私の思考をスキャンして。『開拓者』の完了報告よ!」

【承認されました。定時クエスト『開拓者』を達成。報酬として知力ポイント(IP)1個を付与します】

「はぁ……死ぬかと思った……」

生きた心地がしなかった。細い胸の奥で、心臓がバクバクと嫌な音を立てている。今の私のステータスじゃ、この村に足を踏み入れることすらできない。今日のところは、この木の上で野宿するしかなさそうだ。

私は気を紛らわせるように、ステータス画面を開いた。

【部門:知力インテリジェンス

現在の段階: 『理性的』 ―― 思考および推論能力(レベル:D)

次の段階: 『談話』 ―― 現人類の地域言語の習得(レベル:D)

習得コスト: 10 知力ポイント(IP)

解放まで必要: 残り 6 ポイント

保有ポイント: 2 ポイント

「保有ポイントをすべて解放に回して」

激しい睡魔が襲ってきた。慣れない肉体でこれだけ動き回れば、脳も体も限界なのは当然か。

【実行中……成功しました。ランクアップまで残り4ポイント。保有ポイント:0】

「ふぅ……」

大きなあくびが出る。成長のスピードが遅すぎる。いや、この世界に来てまだ数時間だと考えれば破格のペースなのかもしれないけれど。

「ねえシステム、このクエストって、やらないでおくと貯まっていくの?」

【『クエストの累積性』について回答します。はい、クエストは蓄積されますが、種類によって有効期限が異なります。時間クエストは24時間、日次クエストは1週間、週次クエストは1ヶ月、月次クエストは1年間蓄積されます。なお、年次クエストに蓄積機能はありません】

「なるほど、チュートリアルとしては親切ね。……じゃあ、あの門番の総合評価にあった『\Omegaオメガ』って何? 一番下のランクよね? 次は何で、全部でいくつあるの?」

【『総合ランク』について回答します。はい、『\Omega』は最下位のランクです。次の段階は『\Psiプサイ』であり、到達条件は【知力:D(達成済)】、【腕力:D(未達成)】、【技術:D(未達成)】です。総合ランクは『\Omega』から最高位の『\text{A}(アルファ)』まで、計24段階存在します】

それを聞いて、私は思わずため息をついた。つまり、次のランクに行くには、あの門番並みの筋力が必要ってことじゃない。

「ねえ……」

私は枝から身を乗り出し、周囲の鬱蒼とした森を見渡した。どこか作り物めいた、不自然な風景。

「私の知力が最初から『D』なのは、前の世界の知識があるからよね? だったら、これ以上知力を上げる意味ってある? 腕力や技術に特化した方が効率的なんじゃない?」

私の合理的な問いに対し、システムはいつもとは違う、どこか冷徹なニュアンスを含んだトーンで語り始めた。

その言葉は、私のプライドを根底から揺るがすものだった――。

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