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境界線の守護者

「……3590、3591、3592……3595……3599、3600!」

ようやく一時間のカウントを終え、私は待ち望んでいた脳内通知に備えて身構えた。

あいにく私は気が短い。大人の余裕なんてものは、この理不尽な世界に放り出された時点で霧散しているのだ。

「システム! 定時クエスト『精神集中』の完了を宣言するわ。さあ、チェックしなさい!」

心の中で(いや、ほとんど声に出ていたかもしれないが)叫ぶ。

目の前に、まるで見計らったかのように漆黒のシステムウィンドウが出現した。

【毎時クエスト:『精神集中』 ―― 検証完了】

カウント: 3,600秒(実経過時間:3,600秒)

[ 判定:クエスト達成 ]

【報酬】 知力ポイント(IP)1個を獲得しました。

「よしっ……!」

胸のすくような思いで拳を握る。これで残りのクエストを一つクリアすれば、次のステップへ進める。

ちなみに、そのもう一つのクエストについてだが――。

「ねえシステム、この『先駆者(地図作成)』ってどうやればいいの? 紙とペンで描くの? それとも脳内保存でセーフ?」

私は目的のポイントを目指して足早に進みながら、システムに問いかけた。目的地まではあと百メートルほどだ。

【脳内でのシミュレーションでも記述可能です。そもそも、この付近の文明レベルでは、貴女の知る『紙』や『鉛筆』を入手するのは極めて困難かと推測されます】

「そんなにド田舎なの……?」

少し頭が痛くなってきた。どうやらここは聖堂や王都ではなく、ただの辺境の村らしい。

まあ、中身が強欲な資本主義者だらけの街よりはマシかもしれないけれど……問題は、今の私には一銭の蓄えもないということだ。

普通、こういう異世界転生モノならギルドに登録して冒険者になるのが安全圏セーフティルートだが、そもそも言葉が通じない。

そんな思考を巡らせていると、前方に見慣れた、しかしここにあるはずのない文明の跡が見えてきた。

地面に伸びる、一本の長い灰色の帯。

「嘘でしょ、アスファルト……? なんでこんなところに?」

だが、驚いている暇はなかった。

その道の先、遠くの方に巨大な「影」がそびえ立っている。あまりにも大きすぎて、それが巨木なのか、塔なのか、あるいはただの低い雲なのか判別がつかない。

私は道の起点に立ち、目を凝らした。

もっとよく見ようとした瞬間、視界が急激に引き伸ばされ、その影が目の前に迫った。

【機能:『ズーム視界』が起動しました。距離を調整しますか?】

「へえ、この右目、そんな便利な機能もあったわけね」

私は内心の興奮を抑えながら命じた。

「十メートル先のものが鮮明に見えるくらいに調整して」

システムは答えず、ただ私の要求を実行した。

視界に映し出されたのは――圧倒的な存在感を放つ、巨大な『鳥居』だった。

日本の伝統的な、あの朱色の門。私のいた世界では神社の象徴だったものが、なぜか異世界の入り口に鎮座している。

私の中に残る、かつて両親と神社へ行ったおぼろげな記憶が脳裏をよぎるが、今は感傷に浸っている場合じゃない。

そしてその門の前には、まるで石像のように微動だにしない人影があった。

中世ヨーロッパの重騎士のような、おぞましいほど厚い全身鎧をまとった男。明らかに侵入者を拒むための「門番」だ。

「システム、あいつに固有スキル『不遜』を使える?」

【不可能です。同一の感覚器官に依存するスキルを同時に発動することはできません。『不遜』を使用するには『ズーム視界』を解除する必要があります】

冷徹な機械音声が私の計画を却下する。

「じゃあ、どのくらいの距離なら使えるの?」

【固有スキル『不遜』の有効射程は、対象から十五メートル以下です】

「十五メートル……そんな至近距離、気づかれたら一瞬で首をハネられるじゃない」

とはいえ、道を引き返す選択肢はない。

私は一か八か、周囲にまばらに生えている木々の陰に身を隠しながら、あいつのステータスを覗き見ることにした。

男の身体能力が私より上なのは確実だが、もし「知力」のレベルが低ければ、東大生の頭脳でハメることもできるはずだ。

息を殺し、ジグザグに木から木へと飛び移る。

新しい身体はまだ完全に馴染んでおらず、走るたびに胸のあたりに変な重みと揺れを感じて不快だったが、背に腹は代えられない。

十分に接近した。男は相変わらずピクリとも動かない。

「……スキル『不遜』、発動」

消え入るような囁き声で呟く。

左目に半透明の青いパネルが浮かび上がり、門番の情報が脳内に流れ込んできた。

【名前:未設定】

ステータス: カピシェ・グラード村・門番

筋力レベル: D+

知力レベル: E

技術レベル: E

総合評価: Ω(オメガ)

固有スキル:

『守護者』 ―― 対象の領域から十メートル以内の場合、自身の防御力および攻撃力を1.5倍に上昇させる。

ステータスを確認した私の顔から、一気に血の気が引いた。

(ちょっと待って……筋力が私より三ランクも上な上に、門の近くではさらに1.5倍!?)

こんな化け物に正面から挑むなんて、無限弾倉のライフルでもなきゃただの自殺志願者よ。

しかも――私の最大の武器であるはずの「言葉」が、まだ通じないのだ。

マリカ、ついにこの世界で初めての生きた人間に(鎧の中身は空っぽっぽいですけど……!)遭遇しました!

次元の狭間にいる女神リリアンナ様はカウント対象外ということで(笑)。

作中ではまだ一時間ほどしか経っていませんが、作者の私や読者の皆様にとっては、気づけばもう10話分のボリュームになりましたね。ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!

そして、ここで嬉しいお知らせ(?)です!

いよいよここから、本作最初にして、おそらく最も大規模で、そして最高にクレイジーで面白い最初の「本編ストーリーアーク」が幕を開けます! 怒涛の展開が始まりますので、あともう少しだけワクワクしながらお待ちください!

今後の新展開を見逃さないためにも、まずは作品の【ブックマーク登録】を!

そして「ちょっと面白いじゃん」と思っていただけたら、下にある評価欄から【★★★★★ポイント評価】をポチッと押して応援していただけると、作者のモチベーションが爆発して更新速度が上がります!

それでは、次回の更新もお楽しみに!

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