97話 山斬りによる足止め
レルゲンたちが目を覚ましたのは、次の日の朝だった。マリーからの献身的な魔力供給と、地脈からの魔力もあり、レルゲンとセレスティアの魔力量はほぼ全快まで戻っていた。
また、一度睡眠を取ったことでセレスティアは頭の整理がだいぶ進み、表情の暗さも少し和らいでいた。
「おはよう、レルゲン」
「もう朝か、おはよう。マリー」
「セレスお姉様も、しっかり休めたみたいでよかったわ」
「魔力も戻りましたし、今度こそモンストルム・ファブリカを止めなければ……」
「あの七段階目を完全に止めるには、ドライドが作った武器が必要だ。だから武器完成までの時間稼ぎができればいい。これからやるのは奴の足止めだな」
「どうやって止めるつもり?」
「真っ当なやり方だとまず無理だ。だから少し地図を変えようと思う」
「レルゲン……それってまさか」
レルゲンが頷き肯定するが、マリーは「地図?」と疑問の表情を浮かべる。レルゲンは少し笑い
「奴はデカいが、それよりもデカいもので通せんぼするってことさ」
「それで地形を変えて、地図が変わるってこと?」
「そうだ。ヨルダルクから中央王国まで山で囲まれている地域があるんだが、こうなってしまった以上、一日……いや、半日でも足止めできるならやるべきだと思う」
「土砂崩れを利用するわけね」
「いや、もっとスケールを大きくしよう。やるなら山ごと崩した方がいい」
「やま……ごと?」
マリーは驚きのあまり固まっていたが、レルゲンは至って真面目だった。
ディシアは王国内であれば、王立図書館を除き自由に歩ける権利を女王から貸与されていた。
しばらく当てもなく歩いていたが、庭を歩いていると硝子張りの建物が見え、自然と惹かれるように吸い込まれていく。
「ようこそ、我が研究室へー」
挨拶をしてくれた少女は「我が」と言った。
であればこの年端もいかない白衣を着た少女が、中央の研究機関のトップなのか? と疑問に思ったが、その反応には慣れているような素振りが返ってきた。
「おや、ここでは見ない顔だね。新しい研究員希望者かい?」
「いえ、私はここの国の者ではありません」
簡単に挨拶を済ませると、目をキラキラと輝かせて
「君が……! いやあなたがあのヨルダルクの最高意思決定機関の一人なのカ!?」
「はい」
「いやぁ、よく来たねぇ! 君に、君たちにいつか会ってみたいと思っていたんだよ! 話したいことがいくつもあるんだ。もちろんここに来たからには付き合ってもらうよ。嫌だと言ってもね」
――なんだ、この変人……とディシアは思ったが、少し話し始めてからは、すぐに意気投合するお似合いの仲間だったことに気づくまで、あと少し。
謁見の間にて、騎士団と貴族達が集まり、セレスティアの目を見た女王は、魔力と気力が戻りつつあるセレスティアとレルゲンを見て安堵する。
――昨日は心が折れているように見えましたが、しっかり立ち直りましたね。
セレスティアが女王に向けて礼を取りながら、改めて騎士団や貴族諸侯の協力が必要になると告げる。貴族諸侯からは
「なぜこんなにも短期間の内に、二度も国が危険に晒されるのだ……」
と頭を抱えるものもいたが、最終的には貴族領へ中央住民の避難が敢行されることとなり、謁見はすぐに終了。
会議が終了した後、女王の私室にてレルゲン、マリー、セレスティアの三人が、現在の詳細な状況を説明して作戦を伝える。
すると、女王は一度驚きの余り目を丸くする。しかし、すぐに表情が元に戻る。
「許可しましょう。状況の復帰についてはまた後日話し合うとして、今は国の安全が高まる確率を少しでも上げることが重要です。頼みましたよ。三人とも」
「「はい!」」
こうして山斬りによるモンストルム・ファブリカの足止め作戦がすぐに始まろうとしていた。
三人は山斬りのタイミングまで、現地で待機していた。
「さて、どんな化け物が出てくるか、待ってやろうじゃない」
数日の野宿の後、徐々にモンストルム・ファブリカの地鳴りが伝わってくる。
「ようやく来たわね」
「じゃあ、打ち合わせ通りに頼む」
マリーとセレスティアが頷き、分かれていく。
マリーはモンストルム・ファブリカの進行方向に正面から正々堂々と立ち、レルゲンとセレスティアは切断する山の裏側へ。
地響きが頂点に達し、全容が明らかになった七段階目と言われている魔物をマリーが正面から見上げた。
手には既に抜剣している神剣。
念動魔術による飛翔状態で待機する。
「止まりなさいテクト。少し聞きたいことがあるわ」
「おや……? そこにいるのは第三王女のマリー・トレスティアじゃないか。愛しの旦那様はここにはいないのかい? 周囲に魔力の反応はない、本当に君一人だけのようだね。話とは何だろうか?」
「あなた、王国の地脈を使って魔力を吸い上げて、ヨルダルクへ侵攻するようだけど、本当に上手くいくと思っているのかしら?」
「何かと思えばそんなことか。もちろんできるとも! だが、わざわざそんなことを聞くためだけに、ここへやってきたわけではないだろう?」
「いいえ? 七段階目なんて初めてだから、わざわざ見に来てあげただけよ」
「それは光栄だ。どうだい? 実に素晴らしいだろう……? この巨大さ、この美しさ! そして溢れんばかりの力!! まさに破壊の神だ」
「そうね、でも無骨すぎてあんまり私の趣味じゃないわ」
「なるほど……」
モンストルム・ファブリカに背を向けて、レルゲンとマリーが強固に繋げられている魔力糸越しに念話を交わす。
『位置に入ったわ。いつでも大丈夫』
『わかった、すぐに離脱できるようにしていてくれ』
セレスティアの隠蔽魔術――ハイド・スペリアで魔力糸ごと念話を隠蔽しながら、タイミングを図る。
「君は間違いなくまた目の前に立ちはだかる。今のうちに消しておくとしようか」
モンストルム・ファブリカから手のようなものが伸び、マリーに向けて核撃砲の魔力が充填されていく。
『今よ……!』
マリーの合図が念話越しから伝わり、レルゲンがすぐに黒龍の剣を引き抜いて準備する。
――第二段階、全魔力解放!!
碧く剣が光輝き、山の中腹から横一線に薙ぎ払われ、念動魔術で山崩れを一気に加速させる。
大きな破裂音に似た音が響き、テクトは異変に気付いたが、一気に流れ込んできた土砂に抗うことはできず、モンストルム・ファブリカの目の前に大量の土砂や木々が倒れ込み、行手を阻む。
「君たちの狙いは始めからこれか!」
「そうだ。せいぜい遠回りしてから王国まで来るんだな」
核撃砲を何発も打ち込み山を破壊しようとするが、歩ける高さまで吹き飛ばし切れない。
魔力が無限にあればそれもできただろうが、引き返していく様子から、魔力もまた有限なのだと、このときレルゲンたちは勘付いた。
「いいだろう。たった数日だけ伸びる命だ。楽しむといい」
完璧に決まった山斬り作戦は、テクトの進路を変えることに成功し、三人はお互いに手を合わせてハイタッチで喜びを分かち合った。
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