95話 突然の幕引き
セレスティアが頷き、即座に魔術で性質変化させた大小様々な氷の塊を生成する。
それをレルゲンが念動魔術で操作し、次々とカイニルに向けて高速で飛ばす。
剣で叩き落とせる大きさのものだけを斬り払い、その他の氷塊は涼しい顔をしながら、カイニルは最小の動きで回避する。
術師であるセレスティアに刃を向けようとしたが、自身の影よりも何倍も大きい影が、地面を覆っていることに気づく。
即座にカイニルが上を見上げ、超巨大な氷が落下を始めていた。
「こっちが本命ってわけね!」
カイニルはこの圧死攻撃を後ろに跳んで回避するが、地面に落下し、少しの地鳴りがする。
だが、その氷塊は意思を持っているかのように、カイニルに向かって地面を削りながら突き進んだ。
――これは間違いなく念動魔術による追撃……!
迫り来る氷塊を一度は受け止めようと、カイニルは足に力を込めて地面を抉ったが、地面が線を引くように後退させられていく。
「ぐぅ……!!」
カイニルを轢く、あと一歩のところまで追い詰めたが、天歩の加護で上空に逃れ、氷が行き場を失い、粉々に崩れた。
カイニルが一息付くように息を吐き出したが、レルゲンたちのコンビネーションは止まらない。
セレスティアが風の上位魔術――テンペストを無詠唱で発動し、同時にテンペストをレルゲンが持つ黒龍の剣に、念動魔術で固定する。
纏った風の上位魔術で、空中にいるカイニルへ斬りかかり、一合打ち合う度にカイニルの薄皮が切れて軽く血が飛んでいく。
しかし、負った傍から勝手に回復していき、これでは意味がないとカイニルは思ったが、それでもレルゲンは斬り込みを止めない。
「それ以上やっても無駄よ。私には自然治癒の加護があるの」
「やはりな。加護の複数持ちだとは思っていたさ」
「じゃあ無駄なことってわかるわよね?」
「どうかな、左腕を見てみな」
打ち込みの追加攻撃で切れたところ。自然治癒の加護が発動していても、治るのに時間がかかり、完全修復まであと少しの時間がかかる。
「自然治癒の加護は光のリジェネライト・ヒールが常時かかっているものだ。であれば、連続で深い傷を与え続ければ良いだけのことさ」
「やるわね……?」
黒龍の剣から繰り出される風の追加攻撃に意識が向いた中で、カイニルが一度距離を取ろうとするが、レルゲンもここは引かずに食らいついていく。
「オオォォォオ!!」
「……!!」
気合いが込められ、自身の魔力を黒龍の剣に付与した一撃の速度が上がる。
激しい剣戟の応酬が続いていき、二刀によるフェイントを織り交ぜた動きにカイニルは変更したが、咄嗟に出来た隙を浮遊させた鉄剣で防いでいく。
「厄介な戦い方ね……! でも素敵だわ」
「相変わらずのイカれようだな」
お互いに少し悪い笑みを浮かべながら、一段と速度を上げて剣戟の応酬が続き、剣と剣の衝突音が響いた。
セレスティアはレルゲンの邪魔をしないように、静観し見守っている。
「勝ってください! あなたならやれるはずです……!」
その思いがレルゲンに届いたかは定かではないが、剣戟が止まり鍔迫り合いの状態になったとき――黒龍の剣に纏わせていたテンペストを解除し、風の上位魔術を無防備状態のカイニルに当てることに成功する。
全身を風の刃で切り裂かれたカイニルは、血が滴る手の甲を見て怪しく笑い、舐め取ると傷が既に消えている。
そして、カイニルが攻守を逆転させようと「秘剣……」と呟いた。
また神仙――雪中花が来ると思い、レルゲンは剣の軌道上に帯同していた剣で防御の体制を取るが、今度は違った。
「二の舞――」
とレルゲンに近づいた瞬間、どこからかテクトの声が聞こえてくる。
『せっかくのデート中に申し訳ないが、そこまでにしてもらおう』
「どこから見ているか知らんが、余計な口を出してんじゃないよ――テクト!」
カイニルがテクトに抗議を上げるが、テクトは続ける。
「準備が全て終わったんだ。だから君たちの素晴らしい戦いも、これで全て無意味になるということだ」
「何が無意味だ。姿も見せない奴が戦場を語るな」
レルゲンも戦いを続ける意思が十分にあり、カイニルも同じ気持ちだと思っていたが、そうではないらしい。
「あーあ、白けたわ。レルゲン・シュトーゲン。楽しかった! ――またお互いに生きていたら遊びましょう?」
とだけ残して、カイニルは天歩の加護でその場を後にする。
カイニルが去った後に、ほどなくして大きな地震が発生する。
揺れを感じ取ったセレスティアが、ダンジョンからの距離から考えても大きすぎる揺れに怯えていた。
「こんなにダンジョンから距離が離れているのに……! この大きさは……!!」
「一体ダンジョンで何が起きているんだ……?」
不安そうなセレスティアの肩を抱き、落ち着けていると、テクトが高らかに宣言する。
『お待たせしたね。この私の最高傑作。七段階目の魔物の登場だ! 実に素晴らしい力だよレルゲン・シュトーゲン! 早く君に見せてやりたいくらいさ!』
「七段階目だと……! セレス、知っているか?」
「いいえ、見たことも聞いたこともありません」
首を振って否定するが、その表情は暗く
「そんな、ありえない……」
と零すだけで、セレスティアは思考が止まってしまっていた。
「ともかく、ヨルダルクのダンジョンへ急ごう」
レルゲンは念動魔術で飛翔し、ヨルダルクのダンジョンへと速度を上げた。
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