94話 秘剣の基本技
合図を受けてレルゲンが降りる。
初めから黒龍の剣に魔力は込められており、伸びた光の刀身は既に念動魔術により全て集約されていた。
「後は任せてくれ」
「……頼んだ」
唇を噛みながら後ろに下がっていく冒険者を確認してから黒龍の剣が振るわれ、ラグーン・ドラゴンの首が一瞬にして切り飛ばされる。
余りにも速過ぎる決着に他の冒険者たちも、レルゲンの規格外の魔力に圧倒されていた。
「六段階目を一撃かよ……!」
一度力を見せつけてからは、冒険者たちのフォローに入るのも簡単だった。
複数のボスを相手取るときはレルゲンを積極的に頼り、徐々に連携が取れ始めたとき、セレスティアがレルゲンに伝える。
「レルゲン! この前のベヒモスと同等クラスの魔物が来ます! 恐らくは特別な六段階目かと!」
しかしレルゲンはセレスティアの合図には手で返事を返し、視線は前に向けられたまま。
セレスティアが疑問に思い、レルゲンの見ている方向を見ると、そこには特別な六段階目の魔物ではなく、見知った顔が現れていた。
「やぁ、レルゲン・シュトーゲン。元気にしてたか? っても数日しか経ってないけど。いいね、随分とまた魔力が漲っている。マインドダウンからは無事に脱出したようだね」
「お前はそろそろ出て来ると思っていたよ。カイニル・マクマニル」
「嬉しいこと言ってくれるね。若い男の子からのラブコールには応えてあげるのが――歳上の努め。さぁ、この前の続きをしようじゃない」
ディシアはこのとき、カイニル・マクマニルという人物を完全に思い出した。
――この女、間違いない。ヨルダルクで死んだことにされた諜報機関の一人……! つまりテクトを脱獄させたのも!
ここでカイニルがディシアを見て「おや?」と零す。
「そこにいるのはヨルダルクの神童ちゃんじゃない? どうしてこんな危ない所にいるのかしら?」
「それはあなた方が戦争を引き起こそうとしているからです。ヨルダルクの元諜報機関の一人、カイニル・マクマニル。あなたがどうしてそんなに『若々しい』のかわかりませんが、元気そうで何よりです」
「元気も元気! そして思い出してくれてありがとう。私の過去を知っている人はそう多くないけれど、神童ちゃんなら知っているはずだよねぇ」
「思い出したくはありませんでしたよ」
「酷いねぇ……? 悲し過ぎて、つい殺したくなってしまいそうだわ」
周囲の空気が一瞬で冷えた。
カイニルも我慢の限界が近い。
レルゲンは瞬間的に上昇し、セレスティアとディシアを連れて飛び上がる。
「場所を変える、あんたも空を飛べるんだろ?」
「これは天歩の加護ってやつでね。簡単に言うと空を歩ける加護さ」
レルゲンが下の冒険者たちに向かって大声で指示を出す。
「撤退戦だ! 特別な六段階目が来る以上、無理して足止めする必要はない! この女は俺が食い止める!」
レルゲンが指示を出した瞬間に下にいた冒険者たちの戦線が一気に下がり、魔術師たちが前衛の下がる時間を稼いだ。
飛んで行き、カイニルは抜群の膂力でレルゲンの飛翔速度に簡単について来る。
後ろを跳んでいたカイニルの姿が一瞬にして消え、レルゲンの眼前に現れた。
「ここまで飛んでくればもういいでしょう?」
徐々に高度が落ちてゆき、平原に降り立つ。
「ここなら邪魔は入らないわ。神童ちゃんは戦えないだろうけど、そっちの青髪ちゃんは前にもいたね。二対一で結構! そっちの方が燃えるわ」
「そうか。随分と余裕だが、こちらも魔物が王国に到達すると困るんでね。最初から全力で行かせてもらう」
「そうするといいわ。すぐに死にたくなければね!」
二人が駆け出すと同時に、セレスティアが無詠唱で全てのバフを纏めてレルゲンにかける。
二人の剣が衝突し、少しの間鍔迫り合いが続いた。
「新しい腕の調子は良さそうだな」
「ええ、治るのに数日かかったけど、いい感じよ」
「そりゃよかったな……!」
大きく火花が散ってお互いに距離ができる。
二人が離れた瞬間、セレスティアが四十本近いマルチ・フロストジャベリンを全て同時に放ち、カイニルに襲いかかる。
しかしこれをカイニルは避ける事なく「秘剣……」と呟き
「神仙――雪中花」
不可視に近い必殺の六連撃が、一斉に襲いかかるセレスティアの得意技を全て叩き落とした。
「なっ……!」
全力の連続射出を叩き落とされたセレスティアは一歩後ずさる。
隙とも言えないセレスティアの心の揺らぎに吸い寄せられるように、カイニルが肉薄しようとする。だが、レルゲンが浮遊させていた鉄剣がカイニルに二本襲いかかり、カイニルは後ろに跳んで再び距離を取った。
「手数が多いね。前回とは別人だが、どっちが本当の君なんだい?」
「さてな、どっちだと思う?」
――第一段階、全魔力解放。
赤い魔力が全身から噴き出るが、全て身体能力と浮遊させた剣に付加し、赤く薄い膜のような光が全身を包む。
「今度は赤ね、でもこの前の青の方がゾクゾクするわ」
――やはり、究極の感覚派だな。野生の獣並だ。
「いくぞ……」
レルゲンが斬り込みを入れるが、これをいなすようにカイニルが斬撃を全て受け切る。
しかしカイニルがカウンターを入れようとすると浮遊させた剣が自動で反応してレルゲンの隙を消していく。
まるで複数のレルゲンが相手にいる感覚になるカイニルが、やりづらいと一旦距離を取ろうとする。だが、セレスティアがカイニルの足場を氷で固めて逃げられなくした。
「ハッ……!」
固められた氷は、カイニルが足に気合いを込めてすぐに割られてしまうが、レルゲンが更に一歩間合いをつめ、後ろへ飛んで距離を取る余裕すら消えた。
初めて戦ったときは魔力による力押しの戦法だったレルゲンが、魔力を最低限乗せて繰り出す連続攻撃に、カイニルは腕や足に小さな切り傷が生まれてゆく。
しかし、この切り傷はたちまち自動回復で治り、傷が増えるほどに、カイニルのボルテージは上がっていく。
「まるで速度の乗り切ったマリーの連続剣だな」
しかしレルゲンは、この速度を何度も経験し、受け切ってきた。
押され始めたカイニルは剣戟の最中、再び秘剣を披露する。
「神仙――雪中花」
既に三度見ている秘剣だ。レルゲンは慌てることなく、剣の軌道上に浮遊させている五本の剣を配置し、残る一撃だけを黒龍の剣で受け、防御に成功する。
「随分とその秘剣に頼っているな」
「頼る……? 違うわよ。これは秘剣の『基本技』なの。言ってしまえば、難しい技ではないわ」
「今のが基本技だと……?」
カイニルの余裕を感じさせる言葉に、レルゲンは作戦を変えるべく、セレスティアに魔力糸を繋いだ。
読んで下さってありがとうございます!
もし続きが気になりましたら、ブックマーク、評価をお願いします!
ぜひ皆さんで作品を盛り上げて下さいね!
よろしくお願いしますー!




