93話 冒険者たちは、レルゲンを頼りたくない
昨日は遅くまで討伐戦をしていたレルゲンたちだったが、朝早くから侵攻の対策をするために会議が開かれていた。
攻略本部、そして対策本部の長が現在の状況を話し始める。
「現在はこちらにいらっしゃるレルゲン殿のおかげもあり、第一次侵攻は何とか押し返すことができた。しかし、依然としてダンジョンを震源とした地震が続いていることから、まだ侵攻は続くと考えられる」
一時は避難した冒険者たちだが、魔物から取れる魔石を求めて、また、この非常事態を利用して武勲を立てようと考える者たちも、少人数ながら集まっていた。
「集まってくれた勇敢な冒険者諸君には感謝する。だが、高難度ダンジョンとは比較にならん。ここから先は、本物の戦場だ。命を落とす覚悟がない者は去ることを勧める」
少しの沈黙。
尻尾を巻いて逃げる冒険者はおらず、長の表情が柔らかくなる。
「ようこそ――地獄の楽園へ」
ディシアが作戦の概要を全員に伝える。
「作戦を伝えます。まず第一に集まって頂いた冒険者の皆様に最初の砦をお任せし、間を抜けた魔物をレルゲンとセレスティアに討伐して頂きます。ですので、有り体に言ってしまえば」
冒険者の一人が呟く。
「ガンガン行こうぜ?」
ディシアが微笑み、肯定する。
「その通りになります。長からもありましたが、大きな危険が伴います。命を第一に考えながら討伐して頂いて構いません。後方の備えは万全ですので、心置きなく戦って下さいという意識が伝わればよろしいかと」
冒険者達の士気は思いの外高かった。
これなら多少はレルゲンたちの負担も軽減されるとセレスティアは考えたが、レルゲンの顔は険しいままだった。
気になったセレスティアがレルゲンに問う。
「四段階目の魔物を下げたということは、物量で押す方法を諦めたと考えてもいい。だから、魔物の数が減ったとしても、五段階目以上に絞ったやり方で来るかもしれない。そうなったら、俺はセレスとディシア様の安全を優先させてもらう」
それを聞いた一部の冒険者が少し機嫌が悪くなり、レルゲンを諫めるように悪態をつく。
「俺たちはアンタ等に護られるためにここにいるんじゃない。勘違いはよしてもらおうか。例え五段階目だろうが、六段階目だろうが! 討伐経験のある連中が揃っている。俺たちは対等だ。そこは間違えないで頂こう」
「ああ、前衛は頼んだ。限界が来たらすぐ代わるからな」
「まったく、生意気な兄ちゃんだぜ」
手をひらひらと振りながらその場を後にする冒険者たち。笑いながらも攻略本部のテントを出た冒険者たちの表情は、戦場に向かう戦士の顔つきに変わっていた。
冒険者たちがいなくなってから、ディシアがレルゲンを心配するように声をかける。
「昨日はマインドダウンの寸前まで魔力を使い切ったようですが、現在も魔力はまだ戻っていませんか?」
「……!」
レルゲンはマインドダウンの寸前まで魔力を使っていたことは、セレスティアにすら話していなかった。しかし、なぜかディシアには知られていたようだ。
驚きはしたが、まだまだ謎の多い少女であるディシア・オルテンシアに見抜かれないように、レルゲンは答える。
「魔力は昨日時点で七割ほどは使ったが、マインドダウンの寸前まで使ってはいないぞ。今の魔力量はほぼ全快状態だ」
と嘘の申告をする。
「本当ですか?」
ディシアがレルゲンの手に触れると、それを見たセレスティアが少し不機嫌そうな顔をする。
「ディシア、最近レルゲンに触り過ぎではありませんか?」
「いいえ? そんなことありませんよ? だってあなたの旦那様は"嘘つき"なんですもの」
「どういうことですか?」
セレスティアが問い詰める。
レルゲンはこれ以上事態がややこしくなる前に白状した。
「確かに昨日、俺はマインドダウンの寸前まで魔力を使った。魔力もまだ七割しか回復していないのは事実だ。ただ、そんなに触られるとセレスに小言を言われるのは仕方ないでしょう」
「それは確かにそうですね。失礼しました」
あっさりと謝るディシアを見て、セレスティアはまた面白くないような微妙な表情になる。
しかし、それよりもレルゲンが魔力の使い過ぎを黙っていたことの方が問題だった。
「レルゲン。魔力の受け渡しなら私に言ってください。万が一マインドダウンになったら対抗手段がなくなってしまいます」
「見通しが甘かったかもしれない。悪かったよ」
「とりあえず、魔力は私から渡します。魔力糸――繋いで下さい」
言われるがままセレスティアに魔力糸を繋ぎ、魔力を渡してもらう。
魔力糸で魔力の受け渡しが完了してから、しばらくの時間が過ぎ、お昼過ぎになったところで攻略本部に一報が入った。
まるで、レルゲンとセレスティアの魔力が全快に戻るのを『待っていた』かのように。
「敵襲です。その数およそ百以上! 反応からどれも五段階目クラス、ボス級の魔物の群れです!」
全員が朝、レルゲンが予測していた通りの展開となり、全員の視線が彼へ向く。
「行こう」
と一言だけ皆に声をかけて部屋を出ていく。
あまりにも落ち着いているレルゲンを見て、周りの冒険者達も慌てることなく部屋を後にした。
街の各所で、ボス級魔物との戦闘が繰り広げられている。
レルゲンとセレスティア、ディシアは上空で待機して戦況を見守る。
地上の冒険者達も高いプライドを持っており、我先に魔物を討伐するのではなく、あの生意気な青年にだけは、絶対に魔物を通さないという意地があった。
結果的に、前に出過ぎるでもなく、退き過ぎるでもない絶妙な均衡が保たれていたのだが、レルゲンはそれに気づくことはなく、ただレベルの高い攻略戦を見ていた。
しばらく膠着状態が続いた後に、一つのパーティに五段階目のボス級の魔物が複数固まり、徐々に後退してゆく。
「ここで奴に頼ったら恥だ……!」
無理に突っ込もうと駆け出した冒険者の前に、セレスティアが降り立ち、微笑みながらも前を向く。
「カバーします!」
「すまねぇ!」
セレスティアを送ったのは訳があった。
皆レルゲンに頼らないように意固地になっている。
今ここで無理に割って入れば、冒険者たちとの軋轢が生まれる。
だからこそ、まずはセレスティアに任せる必要があった。
セレスティアには事前に役割を伝えており、負担を強いることになったセレスティアの額には、時間が経つにつれて汗が滲んでいく。
レルゲンはその間、放たれたヒュージ・スワンを一匹残らず討伐していき、地上の監視を続けていた。その様子を見ていたディシアが、空に浮かされながらもレルゲンへ声をかける。
「中々難しい局面ですね。冒険者たちはあなたが介入するのを阻止しようと躍起になっている」
「今でこそ五段階目だから何とかなってはいるが……来たぞ――六段階目だ」
その時だった。六段階目の龍種――ラグーン・ドラゴンが、全身から水飛沫を上げながら進んでくる。
五段階目の魔物を複数相手にするだけでも手一杯な冒険者たちは、六段階目の強力な魔物と、加えて足場を悪くする水の二重苦に悪戦苦闘する。
これ以上はパニックになると状況を考えたリーダーの冒険者が「くそっ!」と吐き捨てながらも、レルゲンの方を見た。
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