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亡国の天才魔術師レルゲンの成り上がり~孤独だった俺を救ったのは、命がけで護った敵国の王女でした~【19万pv作リライト版】  作者: 雪白ましろ
第二部 高難易度ダンジョン編

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89話 侵攻前の静けさ

 飛び始めてからディシアは下の様子をしばらく興味深く見ていたが、初めての飛行にしては、反応が薄い。


 以前にも飛んだことがあるのかと考えたが、飛行魔術はまだまだ発展途上で、念動魔術の応用による飛行しかレルゲンは知らなかった。


 しかしディシアは、初めて飛んだときの感動より、レルゲンにお姫様抱っこをされ、幸せそうな表情を浮かべるセレスティアを見て、羨ましさを覚えていた。


 ――セレス、いつの間にかそんな表情をするようになっていたのですね。

 陽が落ち切る前に、ヨルダルクのダンジョンが見えてくる。


 塔型のダンジョンはレルゲンたちがフィルメルクで攻略したものとほぼ同じ形状をしており、外壁の色が少し緑がかっている程度しか違いが分からないほど似ていた。


 ダンジョン街の人を見ると、魔物で溢れていることはなく、平和な日常が続いていた。

 安心すると同時に、攻略本部が構えられているダンジョン入り口に降り立つ。


 セレスティアを下ろし、ディシアを優しく地面に下ろすと「ご苦労様でした」とレルゲンに一言労いの言葉をかける。


 事情を説明しにディシアが歩を進める後をついていくと、すぐに別室へ案内される。


「そうですか。ディシア様に中央王国の第一王女様までお越し頂くとは、これは只事ではありませんね」


「神託にもありました通り、このダンジョンは数日も経たぬ内に、テクトという人物が魔物の解放を行うと考えられます。攻略者たちには申し訳ありませんが、すぐに避難をするのと対策本部の設立を急いで下さい」


「……!! しょ、承知致しました。すぐには無理ですが、ダンジョンへの再入場は一時止める方針に致します。そして対策本部ですが、これは攻略本部とギルド主体で設立を急ぎます」


 対策の話し合いがもうじき終了するとき、小刻みな地震が発生し、立っていた職員たちが少しよろけた。


「これは……!」


「大地の怒り……」


 体感はそこまで大きな揺れではなかったが、滅多に発生しない地震に対して全員の表情に緊張が走った。


 近くの椅子や机に手をついて揺れが収まるまで身体を支えていたが、食器が入った棚が音を立てて陶器が擦れる音が響き、不安を煽る。


 揺れが収まった後、レルゲンが揺れの中心地と今後の対策について意見を口にした。


「間違いなくダンジョンが揺れの中心だ。そう遠くない未来、魔物がここから溢れ出すだろう。入り口を塞ぐことができれば、時間稼ぎはできるだろうが、他の冒険者までダンジョンに閉じ込めることになるから難しい」


「ではこの街は……」


 攻略本部の長が肩を落とすが、それよりももっと規模の大きい話しだとわかってもらうしかない。


「辛いかもしれないが諦めてくれ。国家間の戦争にまで発展しかねない事案なんだ」


 ディシアが攻略本部の長の肩に手を触れ、慰めるように語りかける。


「私からもお願いします。同盟国である中央王国との友好関係はこれからも大事になります。まずはあなた方の命を大事に、そしてできるなら、周りの方達の安全を確保するために力をお貸し下さい」


「わかりました。――ディシア様、そして皆様。すぐにでも行動を開始しましょう。セレスティア王女殿下、まずは長旅でお疲れだと思います。こちらで宿を用意致しますので、本日はそちらでお休み下さい。何かダンジョンに動きがあったときは最優先でお声掛けさせて頂きます」


 またもディシアの言葉にあっさりと従う長の反応に、レルゲンは違和感を覚えていた。


「わかりました」


 宿に案内され、セレスティアと一緒に休んでいると、扉を軽く叩く音がする。ダンジョンに動きがあったのかと思い、急いでセレスティアを起こす。


「私です。ディシア・オルテンシアです」


「ダンジョンに動きがあったのか?」


「いえ、その……」


 歯切れが悪いディシアを部屋の外に置いておく訳にもいかず、とりあえず中に入れることに。


 レルゲンが扉を開けると、白い寝巻きのディシアが杖を持って部屋の前に立っていた。


 ディシアがレルゲンの手に触れ、謝りながらも中に入る。その様子を見ていたセレスティアは、少し機嫌が悪くなる。


「それで? ディシア様はどうしてこんな夜更けに部屋を訪ねてきたのですか?」


「すみません。夫婦の間に割って入るつもりはなく、ただ昔のセレスとは随分と変わっていたようにも見えたので、少し話をしたくて。レルゲン様。セレスと話す時間を下さいませんか?」


「明日じゃダメなのか?」


 レルゲンが一度ディシアを追い返そうすると、ディシアはなぜ断られたのか本当に不思議そうな顔をする。


「あっ、いえ、申し訳ございません。では明日また日を改めて伺いますので」


 ディシアが部屋を後にしようとした時に、引き留めたのはセレスティアだった。


「はぁ……少しだけですよ?」


 途端にディシアの表情が明るくなる。

 それから少しだけと言いつつも、国家機密を伏せながら、今までのことをディシアに話す。

 終わったのは夜明け近くになるのだった。


 それを見ていたレルゲンは、邪魔をしないように目を閉じながらも、二人の会話を聞いて安心した表情を浮かべた。


 翌日の攻略本部は人でごった返しになっていた。中にはダンジョンに無理矢理入ろうとした者もいたが、従わなければ冒険者の資格剥奪という、冒険者の処分で最も重いものの内の一つが適用されると発表されると、文句を言いつつも徐々に人が散っていった。


 攻略本部の長がレルゲン達を見つけると、再び要人室に通される。


「反発もありますが、冒険者達の避難は八割完了しております。全員の避難が完了するまでは待てませんが、入り口を封鎖することも視野に入れて対応ができるかもしれません」


「わかった。なら突破された後のことを考えよう。どこか中央王国までの間に狭い道はあるか?」


 長が地図を広げながら、「ここならどうでしょうか?」とレルゲンに提案する。


「狭い道かはわかりませんが、二つの山に囲まれた道がございます。その先は平野が暫く続くので魔物の足止めが難しくなりますが……レルゲン殿はここを通ってきていないのですか?」


「空を飛んで来たからな、到着を優先して地上はあまり見れていなかったんだ」


「空!? あぁ、いえ失礼しました。であれば仕方ありません。ともあれ、山に囲まれた道を迂回するとなると、かなりの時間がかかります。それこそ中央王国までの時間が倍ほどにはなるでしょう」


「最悪山を落として進路を塞ぐ手もありか……」


 レルゲンが簡単に恐ろしいことを言うが、ディシアが待ったをかける。


「お待ち下さい。それでは二国間の重要な導線がなくなってしまいます。山を生業に生活している方々もいますので、同盟国の要人とはいえ、地形まで変えてしまうのは看過できません」


「レルゲン。流石にできることとやってはいけないことは分けて下さい」


 ディシアが興味深そうにレルゲンへ尋ねる。


「山を斬ることは実際に可能なのですか?」


「ああ、こいつがあればな」


 黒龍の剣を軽く叩くとディシアは目を輝かせて


「この件が片付いたら是非、ヨルダルクの研究を手伝って欲しいくらいです」


 レルゲンはなぜかカノンに似ていると感じたが、研究者らしい一面が見てとれた。


「ダメですよ? レルゲンは中央王国の切り札なのですから、いくらディシアの頼みとはいえ承諾できません」


「もう、セレスはケチですね」


「いいえ、当然です。あなたの国の重要機密を開示しろと言っているのと同じですからね?」


 火花を散らし、いがみ合う二人を見て、レルゲンは苦笑いをするしかなかった。


 レルゲンが一度仕切り直しの意味を込めて、ディシアを自室に呼び、セレスティアを含めた三人だけの部屋で確認をすることに。


「カイニル・マクマニルという人物は知りませんが、テクトという名――それはダンジョンの創始者で、ヨルダルク出身の元研究者の内の一人。ですが、大昔に国を永久追放された人物です」


 セレスティアが点と点が繋がったと感じた表情を浮かべ


「テクトの最終目標は恐らくヨルダルクに対する復讐でしょうか」


「俺もその可能性が高いと思う」


 徐々に敵の全容が掴めてきたレルゲンたちは、更にテクトが過去に何をして国外追放に至ったのか、詳しくディシアに尋ねた。

読んで下さってありがとうございます!

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