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亡国の天才魔術師レルゲンの成り上がり~孤独だった俺を救ったのは、命がけで護った敵国の王女でした~【19万pv作リライト版】  作者: 雪白ましろ
第二部 高難易度ダンジョン編

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88話 最高意思決定機関の一人、ディシア・オルテンシア

 全員が笑い、表情を引き締め直した二人が宙に浮いていく。

 マリーがもう一度声をかけた。


 強がってはいるが、いざ別れの時となるとどこか胸の騒めきを抑えられなくなる。


「レルゲン、セレスお姉様。無茶はしないで下さい。どうかご無事で!」


 手を振ってから少しずつ加速していき、あっという間に見えなくなる。

 女王は川の水質調査に向かったときとは別次元の速さになっていたレルゲンを見て、頼もしさを感じながら見送った。


 半日ほど休みなしで飛んでいたレルゲンは、現在地を確認するためにも一度地上に降りる。


 目的地の半分くらいまで来ていればいいと思っていたが、セレスティアによるともう七割程の距離を進んできていたようだった。


 抱えるとここまで速いのかと思いながらも、セレスティアはレルゲンの成長した姿を肌で感じる。


 レルゲンが以前マリーに教えていた、マインドダウンで器を破壊し、最大魔力量の上昇を狙ったと聞いたときは目から鱗だった。

 だが、この方法には弱点があるとも聞いていた。


 元々の魔力の器が大きければ大きい程、一度の器の破壊による反動が大きくなる。

 そもそも、魔力を限界以上に使う頻度も落ちていく。


 そのため、マリーの時は何度も器の破壊ができたが、レルゲンが器を破壊したときには治るまでの時間が膨大なものとなったのだ。


 生死を覚悟したカイニルとの戦いによる実戦経験と、マインドダウンによる最大魔力量の上昇は、レルゲンをさらなる高みへ連れていった。


「最初は少しの飛行で一度休憩を挟んでいましたが、今ではだいぶ慣れたようですね」


「セレスを抱えて飛んでいるのもあるけど、最大魔力量がかなり上がったからな。今なら、カイニル相手でも魔力切れにはならないはずだ」


「では、仮にヨルダルクでカイニルと対峙した時は安心して見ていられますね」


「期待してもらってるところ悪いが、今まであった純粋な剣士では、恐らく一番の実力者だ。正直、今の俺でも勝てるかは少し怪しいぞ」


「いつにもなく弱気ですね。それでは王国の未来が心配になってしまいます。ちゃんとして下さい」


 初めてセレスティアに軽く怒られ、レルゲンは驚きながらも目線を合わせた。

 確かに、王国の未来はレルゲンの手に懸かっている。自覚が足りなかったと反省し、セレスティアに感謝の言葉をかけた。


「ありがとうセレス。俺が勝てないと王国の誰がカイニルを止めるんだ――だよな。いい喝が入った」


「いいえ、支え合ってこそですから」


「さぁ、休憩もそろそろ終わりにして、早いところヨルダルクの国境まで行こう。この分なら陽が落ち切る前までには着きそうだ」


「はい。ではまた抱えて下さい」


 飛ぼうとした瞬間、抱えられたセレスティアが耳元でレルゲンに囁く。


「愛していますよ。自慢の旦那様」


「恥ずかしいことを言うな」


 再びの飛翔でヨルダルクの国境まで飛んで行き、飛来物だと思った衛兵達が驚いて一度戦闘体制に入った。


 しかし、すぐに王国からの書状を渡し、セレスティアが身分を明かす。


「失礼致しました。しかし、いきなりの要人訪問ではおもてなしすることはできず、一度国の中心にあります研究都市までご同行願います」


「それだと遅い。悪いが研究都市に寄っている時間はない。君たちの国にあるダンジョンから魔物が大量に行軍してくる可能性があるんだ」


「で、ですが……それでは私たちはいくら要人とはいえここでお止めするしかございません。どうか、ご容赦下さい」


 最悪全て峰打ちして押し通るか? ともレルゲンは考えたがセレスが目で制す。


「では、皆さんには申し訳ありませんが、眠って頂きます」


 神杖を構えて睡眠魔術を唱えようとしたとき、待ったをかける人物が現れた。


「お待ち下さい。セレスティア様」


「そのお声は――ヨルダルクの」


「お久しぶりですね。そちらの国では色々とあったようですが、カノンは元気ですか?」


「ええ、未だにヨルダルクの研究者に負けないように頑張っていますよ」


「そうですか。いつかまた再会できることを楽しみにしております」


「それで、ヨルダルクの"最高意思決定機関"のディシア様が、なぜ国境付近にいらっしゃるのですか?」


「詳しくはお伝え出来ませんが、"神託"により、遠方より飛来客あり。それは国にとって大事なものとなるだろう。とありまして、来るとしたらここだと思い、私が自ら赴いたということです」


「神託ですか――しかし助かりました。あなたがいればこの衛兵に乱暴をしなくて良いのですから」


「それほどまでに緊急の事態なのですね。わかりました。それで、そちらの方は?」


「私の夫であり、王国の副団長でもある……」


 レルゲンが一歩前に出て、騎士礼を取る。


「レルゲン・シュトーゲンと申します」


 レルゲンを不思議そうな目で見るディシアというヨルダルクの要人は、レルゲンに近づき、持っている杖を前に出して礼を返した。


「初めましてセレスの旦那様。私はヨルダルク最高意思決定機関の一人――ディシア・オルテンシアと申します」


 白に近い銀のショートカットがふわりとなびき、仄かに甘い香りが漂う。


「なるほど、それほどまでに強い魔力。セレスが心惹かれるのもわかる気がします」


 セレスティアがディシアに現在の状況を伝えると


「神託は間違いなくこの事だとは思うのですが、ダンジョンに行くとなると……騎士レルゲン、私も連れて行って頂くことは可能ですか?」


「可能です」


「ではダンジョンまで私も同行致します。よろしいですね?」


 セレスティアは頷く。ディシアも連れて行くことにするが、一言だけ断りを入れておく必要があった。


「連れて行くことは構いませんが、ダンジョンが既に魔物で溢れていた場合は、ディシア様には私と常に行動を共にして頂く必要があります。それでもよろしいでしょうか?」


「それはなぜですか?」


「御身をお護りできる人物が私しかいないからです」


「では、私の命はあなたに一旦預けましょう」


「承りました」


 レルゲンが騎士礼を返すと、衛兵達が言葉を挟んだ。


「ディシア様。それでは御身の安全が保障できません。もう一度お考え直し下さい」


「いいえ、私は騎士レルゲンを信じるのは勿論ですが、ここにいる友人のセレスティアを信じているのですよ。言葉を慎みなさい」


 年齢的にはセレスティアとそこまで変わらないとはいえ、高みに登り詰めた権力者。

 レルゲンは言葉から発せられる圧による重みを感じ取っていた。


「はっ、失礼致しました」


 思いのほかあっさりと引き下がる衛兵たち。多少疑問に思いながらも、レルゲンはディシアに念動魔術をかけ、高難易度ダンジョンのある街まで飛んで行く。間も無く陽が落ちる頃合いだろう。


 なるべく速度を出してここまで来たが、陽が落ち切る前にダンジョン街まで飛んで行くために一層加速する。


 まるで龍種のような速度で飛んで行くレルゲンたちを見た衛兵は、流れ星を見ているような気分になった。

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