87話 ヨルダルクへ
レルゲンは大きな布に包まれた荷物を、念動魔術で浮かせながら、ドライドの工房に足を運んでいた。
高難易度ダンジョンでかなりの量の魔石と素材が集まっており、それを使って新しく武器や防具を新調してもらおうとしていた。
以前作ってもらった白銀の剣は、ナイトとの最終決戦で高熱に耐えきれなくなり、完全に変形して使えなくなってしまった。
カイニルとの戦いは、この後に間違いなく控えている。黒龍の剣だけでは、一万以上の魔物の軍勢を捌き切れないかもしれない。
新たな武器が必要だった。
「よぉ、レルゲンの旦那。今日はまた大荷物だな、どうした?」
「ああ、武器の発注を頼みに来た。高難易度ダンジョンを攻略してきたんだが、その素材で何が作れるか確認したい」
念動魔術で運ばなければ持てない量の素材を順番に置いてゆく。
「五段階目のヒュージ・スワンの魔石と羽、そして鱗。ラフレシア・ガーデンの魔石と強酸液に、スケリトル・キングの魔石と指輪。んでこっちが六段階目のアシュラ・ビーストの魔石と増幅鉱石、背中の外殻か? ほぉ……それでこっちがスケリトル・ファラルの魔石と……肋骨か? 強度は高そうだがだいぶ軽いな。それで最後は、見たことがねぇが間違いなく六段階目。他の六段階目以上の存在感を感じるが、これは何の素材だ?」
「ベヒモスだ。そいつのたてがみと角を二本」
他の職人たちも、ベヒモスという単語を聞きつけて見にやってくる。
「お前ら仕事に戻れ! 今は俺が旦那の素材を鑑定してんだ! ……後で見せてやっから」
名残惜しそうに各々の仕事に戻る職人たち。
落ち着いてからドライドが再び鑑定を進める。
「とうとう特別な六段階目を討伐してくるとはなぁ。俺も実物を見るのは初めてだ。これだけの素材が集まれば、間違いなく魔剣が作れるぜ。どんな性能がお望みだい?」
「まずは白銀の剣と同種の、一度使っても壊れない剣が欲しいな」
「アシュラ・ビーストの増幅鉱石なら作れると思うぜ。他の素材はどうする?」
「他の素材は預かっていてほしい。また使う機会があるかもしれないからな。金額はかなりかかるとは思うが、最短で仕上げてもらいたい。納期を早めるためなら、別の素材を使っても構わない」
ここで、ドライドの眉が動く。
何かを察したドライドはレルゲンに耳打ちするように話しかける。
「また訳ありか?」
「そうだ、恐らくだが一ヵ月後に王国は魔物の軍勢に攻め込まれる」
「なるほどねぇ……この国もよく狙われるもんだ。だが、旦那が来なければ今頃は国が無かったかもしれないんだ。今やってる加工作業を全て旦那の武具作成に回す。前回は負担をかけちまったからな、今回は十日で仕上げてみせるぜ」
「それは助かる。俺はこれから武器完成まで国を空けるから受け取りには来れないが、いつもの送る方法で頼む」
「あいよ、また旦那に頼ることになっちまうが、この国を護ってくれ」
「何言っているんだ。ドライドの武器がなければ俺たちは戦えない。あんたも国を護ってる一人だ。胸を張ってくれ」
「そうだな。よし! お前ら、大型の発注が来た! 気合い入れて行くぞ!!」
作業中の職人達が「おお!」と短いながらも力強く返事をするのを聞いて、レルゲンは安心するように工房を後にした。
女王にはレルゲンからドライドに直接武器の発注をした件を報告し、了承を後からになったが貰う。レルゲンの報告にはセレスティアも同席していた。
「迅速な対応、大義でした。騎士レルゲン」
騎士礼を取り、女王を見上げて進言をする。
「先日申し上げた件につきまして、一つ確認事項がございます」
「何でしょうか?」
「ここからヨルダルクまで、行軍すれば三十日間の猶予があります。その間に私がヨルダルクのダンジョンまで出向き、現状を把握しておきたいのですが、国を空けてもよろしいでしょうか?」
女王は少し考えた表情をする。
「ヨルダルクまではどれくらいで到着できますか?」
「丸一日あれば可能です」
「川の水質調査では王国領内の飛行でも数日掛かったという報告がありますが、それよりも遥かに遠いヨルダルクのダンジョンまで、本当に一日で飛んで行けるのですか?」
「はい。こちらにいるセレス様をお連れすれば、魔力運用的にも余裕を持って到達可能です」
女王は驚いたように目を見開いた。だが、自信に満ちた表情のレルゲンを見て納得する。
――彼はまだまだ強くなっていく。今はその途中だというのですね、と心の中で納得と共に頼もしさを感じつつ、許可を出す。
「わかりました。既にヨルダルクのダンジョンに危険な兆候ありとの情報は影部隊に伝えるようにしていますが、騎士レルゲンが行った方が早く情報が伝わりそうですね。では再びの王命を下します。副団長レルゲン、第一王女セレスティアと共にヨルダルクへ向かい、高難易度ダンジョンの現状調査を命じます」
セレスティアとレルゲンが頭を下げて
「「王命、謹んで拝命致します」」
と声を合わせて承諾した。
これにはマリーは不満の表情を見せた。
「私はまたお留守番なの? ハクロウ先生、ちょっと深域に行って身体温めておきましょう。いいわよね?」
「まだこの腕に慣れてる途中なんだがなぁ。こうなっちゃマリー嬢ちゃんは聞かねぇんだから」
「ハクロウ、マリーを頼んだぞ。マリーも余り無茶しないようにな。ハクロウは多分まだ戦力としては数えられないぞ」
顔をレルゲンから背けながら、マリーがハクロウの腕を見る。
「見れば分かるわ。半日作戦会議、半日深域探索にすれば問題ないでしょう」
「だそうだ、しばらく頑張れ。団長殿」
「休み無しかよ……! ひでぇ副団長だぜ全く」
全員が笑いながら涙目のハクロウを励ましたが、普段からよく昼寝をしているハクロウにはいいお灸かもしれない。
宮殿の入り口で、出発の準備を確認するレルゲンとセレスティア。
今回は秘密裏に行われる任務ではない。
そのため正面から出発することになった。
「確認になりますが、もしも既にヨルダルクから進軍が開始されていた時は、私とレルゲンは敵の数を減らしながら後退戦を行います。五日以内に戻らなかったときは、既に進軍が始まっていたとお考え下さい」
女王が頷き、レルゲンに一通の手紙を渡す。
「ヨルダルクは警備がかなり厳重なので、この王国の印がある書状を持って正面から入って下さい。くれぐれも空から直接入らないようにお願い致します」
「お預かり致します。では陛下、マリー。行って参ります」
「行ってきますお母様。マリーはあまり団長殿を無理させないように」
「わかっているわお姉様。次にハクロウ先生と会う時は魔力糸制御が完璧になっているはずよ」
それを聞いたハクロウの表情が曇る。
「おいおい勘弁してくれよ嬢ちゃん……」
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