75話 牙を剥き始めるダンジョン
「おはようございます、レルゲン」
「おはよう、セレス」
「今日も攻略ですか?」
「そうだな。余裕はあるけど、できるだけ進めておかないとな。後半で焦って進めても危険だ。完全攻略したら、時間が余った分は適当に理由をつけてゆっくりしよう」
「そうですね。ではもう少しだけ」
マリーはまだ熟睡しており、時間もまだ朝早い。
もう少しゆっくり身体を起こしてから、ダンジョンの攻略に向かっても罰は当たらないだろう。
しばらくしてからマリーが目を覚ます。
昨日の記憶が曖昧なようで、辺りを見回している。
「おはよう、マリー」
「レルゲン……? おはよう、あれ?」
「昨日はレルゲンの膝で寝てしまっていたんですよ」
「あ! セレス姉様!! 私が寝ている間に、レルゲンと一緒に寝たわね!!?」
「さて、どうでしょう?」
「もう! うっかりしていたわ。今度は私と二人で寝てもらうからね」
レルゲンは両手をあげて「わかった」と一言だけ返した。
攻略本部にて、ミリィがいつもの待ち合わせ場所に来ており、レルゲンたちを待っていた。
ミリィはすぐに気づいた。
「セレスティアさん、何だかとっても幸せそうですね。何かあったんですか?」
「顔に出ていますか?」
「顔だけじゃなく、身体から出てるオーラ? 魔力じゃない何かで、幸せぇ……って感じで溢れ出てますよ」
「色々とありまして」
「色々って……え? 嘘! まさか!」
セレスティアは口元に手を当てながら指を一本だけ立てて、笑顔で合図を送る。
「さて、今日もダンジョン攻略、張り切って行きましょう」
「お、おぉー!」
ミリィが遠慮がちに返事をするが、マリーは若干、いやだいぶ不機嫌で掛け声に乗ってこない。
十二層は天井がいつもの階層の三倍近くの高さまで突き抜けており、吹き抜けのような構造をしている。
「もしかして十二層より上の層まで繋がっているのか?」
レルゲンが呟きながら上を見たが、まずは探索してみないとわからない。
しかし、攻略本部から転移したばかりの地点のはずだが、目の前にボスの部屋へ通じるはずの迷宮の入り口が設置されていた。
これまでとは全く違う構造にレルゲンたちは戸惑ったが、とりあえず建物内へと入って様子を伺う。
迷宮を模した偽物の可能性も考えたが、間違いなくボス部屋のある迷宮と同じ構造をしていた。
今までの平原や遺跡群とは違って、いきなり迷宮に入ったという事は、今まで以上に迷路のような構造になっているに違いない。
通常の攻略よりも、時間がかかりそうな構造だった。
「……行こう」
レルゲンの重苦しくも落ち着いた声を聞き、三人は初めから武器を手にして、周囲に目を配りながら進み始めた。
朝早くから挑戦しているとはいえ、セレスティアの魔力感知には人間から発せられる魔力がいくつも反応があった。
確かに迷宮の入り口で魔物が出現しているのなら、帰りも近いことから絶好の狩場となるだろう。
なるべく他のパーティを邪魔しないように、隠蔽魔術で横を通り抜け、下層を抜けていく。
何度か階段を登り、中階層に来たレルゲンたちは、隠蔽魔術を解除して付近を改めて見回しながら探索する。
中階層にもなると、敵の魔力が段階的に上がっている。
レルゲンの魔力感知でも、間違いなく五段階目の魔物が何体もいるとわかった。
「――ここからが本番だ、セレス。バフを頼む」
「わかりました……!」
人数分のバフがかけ終わり、全員が臨戦体制へと移る。遭遇した魔物は、レルゲンの予想通り五段階目の魔物だった。
だが、マリーの働きが凄まじく、まるで今朝の鬱憤を晴らしているかのようだった。
今のマリーには、何を言っても火に油なので、危険が及ばないよう注意を払い、レルゲンが援護を入れる。
今日の攻略は、マリーが主役になりそうだとレルゲンは感じながら、出てくる五段階目の魔物を順調に討伐していく。
昼を過ぎた頃、ようやくマリーは落ち着いたのか、機嫌が戻ってきたとレルゲンは気づいた。周囲に魔力揮発剤を忘れずに散布して、簡易的な安全地帯を用意し昼食の準備を進める。
今日の昼食はマリーとセレスティアが作ってくれたサンドイッチだ。
綺麗に切り揃えられたものと、少し不恰好ではあるが、一生懸命さが伝わってくるものに分かれている。
どちらにも手を伸ばし味を噛み締めたが、どちらも変わらず美味しく、順調に食べ進めていく。
「二人ともありがとう、美味しいよ」
「お粗末様でした」
「そうでしょ? あの後セレス姉様と一緒に作ったのよ。美味しくできてよかったわ」
ミリィも目を輝かせてサンドイッチを口に運び、美味しそうに頬張っている。
「本当に美味しいですね! 私まで頂いちゃってありがとうございます」
二人が笑い、ミリィの頭を撫でている。
食後の穏やかな空気に、レルゲンも肩の力を抜いた。
いざ昼食を食べ終わり、攻略に戻ろうとしたとき、一人の男性冒険者がレルゲンたちの前に現れた。
滝のような汗と、激しい息切れ。
異常事態が、間違いなく起きていた。
「すまないが……俺たちを、助けてくれないか……」
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