73話 ラフレシア・ガーデン
次の日、十一層のボス攻略を行うべく、ミリィはレルゲンたちが寝泊まりしている旅館まで招待される。
四人だけの攻略会議が開かれようとしていた。
「私、今日のことは一生忘れません……!」
興奮気味のミリィに、三人が微笑ましい笑顔を向けて、まずは旅館を満喫してもらってから会議を始めることになった。
食べ物、着物、お風呂と順番に旅館を巡っていき、ミリィは当初の目的を完全に忘れるほど楽しんでいた。
「はっ……! しまった! 攻略会議に来たんでした……」
「攻略の進みも順調だし、会議は明日でもいいぞ」
「いえいえ、さすがにそこまでは」
机に広がっていた食べ物や食器がレルゲンの念動魔術で片付けられ、あっという間に机の上が資料で埋まっていく。
「念動魔術……でしたっけ? レルゲンさんが使っている魔術」
「ああ」
「便利過ぎて私も習いたいくらいです」
レルゲンが少し驚いて、笑いながら答える。
「それ、マリーにも言われたよ」
「私は少しだけど使えるようになったわよ。まずは魔力糸ね!」
「魔力糸……?」
張り切って教えようとして、話はさらに脱線していく。
マリーの話をうんうんと真面目に聞いているミリィは真剣な表情をしているので、レルゲンとセレスティアの二人でボス攻略の話をする。
「始めは俺が……」
「ならこのタイミングで……」
具体的な戦術が話し合われ、ミリィの頭がショートした頃、ようやくマリーも会議に加わった。
そして、いざボス攻略戦。
ボスの部屋は森林地帯で、部屋の内部は木々が繁っており、見通しがあまり良くなかった。
レルゲンの魔力感知でも魔物の位置が分かるため、魔物との距離もかなり近かった。
一度天井付近までレルゲンが念動魔術で飛び、魔物の位置を確認する。
すると、下で待機している仲間たちのすぐ近くに、ボスと思われる魔物が動かずにじっとしていた。
「あれは……ナウム・プラントの親玉か?」
素早くマリー達の元へと戻り、情報を伝えると、セレスティアが魔物に心当たりがあると伝える。
「それは恐らくラフレシア・ガーデンですね。実際に見てみないと確信は持てませんが、五段階目の魔物だと思います」
五段階目と聞いて、マリーとミリィが少し安堵の表情をしたが、それを見たセレスティアが諌めるようにマリーとミリィを見て続ける。
「主な攻撃方法は強酸のブレス、これはしばらく地面に影響が残ります。切り札とも取れる攻撃が一つ。自分に危険があると判断すると、四段階目のナウム・プラントを無数に生み出すことにあります。五段階目とはいえ、ボスに配置されるだけある厄介な魔物です」
「気を引き締めよう」
マリーとミリィが頷き、レルゲンがまだ距離がある中、黒龍の剣に魔力を込めて刀身を伸ばした。
当初の予定では、ボスに向けて黒龍の剣の一撃を放ってから開戦する予定だったため、他の三人が作戦にないことをしようとしたレルゲンをじっと見た。
「まずは見晴らしを良くする。少し下がっていてくれ」
三人がレルゲンの後ろに巻き込まれないように下がる。
横に薙ぎ払われた赤い光線は、ラフレシア・ガーデンを覆い隠していた周囲の森林を一瞬で切り払われ、ボスだけが立つ更地へと変わった。
「行くぞ……!」
セレスティアが即座に、ノーマリィ・コンディションを含めた支援魔術を全員へ重ねがけする。
マリーとレルゲンが、同時に駆け出した。
最初からレルゲンとマリーの剣には、風の下位魔法のウィンドカットが付与されており、ツルによる防御を許さない工夫を凝らしていた。
剣に纏った風の刃は、周囲の空気を取り込むように渦巻いている。
近づいたレルゲンとマリーに向け、ラフレシア・ガーデンは強酸のブレスを連続で放ってきた。
セレスティアから聞いた情報から、レルゲンは最初から自身とマリーに矢避けの念動魔術をかけて準備していた。
「マリー、遠距離攻撃はこっちで防ぐから気にせず突っ込め!」
「ええ!」
強酸のブレスがマリーに襲いかかるが、レルゲンの念動魔術を信頼してそのまま突っ込んでいく。
マリーに衝突すると同時に矢避けの念動魔術が発動し、弾く様に強酸の塊が散ってゆく。
「やぁぁぁあああ!!!」
気合いの込められた一撃がツルを深く斬り裂くが、ラフレシア・ガーデンが体を駒の様に回転させ、マリーが飛び退いて回避する。
レルゲンは中距離から再度黒龍の剣に魔力を込めた一撃を放つ。放たれた光線が、回転途中のラフレシア・ガーデンを飲み込んでいく。
光線攻撃が収まると、ラフレシア・ガーデンのツルは半分ほどまで切断され、大きく傷ついているのが見て取れた。
「ナウム・プラントが生み出されます!」
セレスティアの予想通り、ラフレシア・ガーデンはツルから赤い実を地面に次々と落とし、動きが止まる。
赤い実からナウム・プラントがツルを生やしながら形成されてゆく。
「セレス、ミリィ! 生成されたナウム・プラントは魔術で焼いてくれ」
二人が頷き、火炎魔術を発動する。
「ブルーフレイム・アローズ!」
「ファイア・ストーム!」
二人の火炎魔術がナウム・プラントを一気に半分近く削るが、まだ十体以上残っている。
レルゲンたちはナウム・プラントから討伐しようと足を動かそうとしたが、マリーが異変に気づく。
「レルゲン!」
マリーに呼ばれたレルゲンは、目の前の光景に目を疑う。黒龍の剣で半分近く削ったツルの本数が、元に戻るどころか増えている。
目に魔力を集中して、魔力の流れを可視化すると残っていたツルが地面へと突き刺さり、
魔力を吸い上げているように見えた。
――こいつ、ナウム・プラントを盾にして回復するつもりか……!
「セレス! ナウム・プラントは俺たちが片付ける!火の上位魔術でボスを焼いてくれ!」
セレスがすぐにターゲットをボスのラフレシア・ガーデンに変更し、ブルーフレイム・アローズを放つが、肉壁となってナウム・プラントが射線上に割り込んできた。
「それなら……!」
「みんな! 予定にはないが狙いはボスだけで良さそうだ! 取り巻きは勝手にボスを護ろうと動く!」
三人が頷き、各々の最大火力の魔術をぶつけていく。割って入ったナウム・プラントを全て屠ると、ラフレシア・ガーデンが再び行動を再開する。
先程確認した時よりも更にツルの本数が増えており、傷は全て癒えている。
「ラフレシア・ガーデンに回復能力は無かったはずでしたが、流石は高難易度。一筋縄ではいきませんね……」
セレスティアが少し唇を噛みながらも、もう一度火の上位魔術を準備し始める。
レルゲンが次の一手を考えるが、同じ手ではこちらが消耗するだけで意味がない。
何か別の方法を試す必要がある。
すると、ふと胸のポケットにしまっていた小瓶の音が鳴り、レルゲンは直感的にある案を思いついた。
「みんな! 俺に考えがある。これでダメなら一度撤退しよう」
ラフレシア・ガーデンは首を細かく動かして、こちらへターゲット先を決めようとしている。
まずは、ナウム・プラント討伐時に使った火炎魔術を二人が同時に発動し、ツルを焼くことで追加の傷を与える。
マリーはその間にテンペストの詠唱を済ませ、遠距離から風の上位魔術を浴びせると、再び傷ついたラフレシア・ガーデンが赤い実のような塊を生成し始めた。
この瞬間にレルゲンが念動魔術で超加速し、一気に肉薄して距離を詰める。
ラフレシア・ガーデンは、ツルによる攻撃を仕掛け、レルゲンの足止めを図ったが、全てのツルを回避し、斬り落としながら、胸元にしまっていた小瓶の液体をラフレシア・ガーデンの口の中に放り込んだ。
すると、ラフレシア・ガーデンは一瞬にして硬直したように動きを止める。
赤い花で出来た頭部と、実をつけ始めたツルが青く染まり、枯れるように萎れ、そのまま地面へ落ちていく。そこから新たなナウム・プラントが発生することはなかった。
危機に陥ったラフレシア・ガーデンが地面にツルを突き刺して動きを止めたが、レルゲンの持つ黒龍の剣が真紅の輝きを見せ、真紅の光線が一直線にラフレシア・ガーデンを焼き払い、巨大な魔石が残った。
「はぁ……はぁ……、私たちだけで、ボスを倒せた……!!」
レルゲンたちは、初めての少人数でボス攻略を成し遂げたことに安堵しながらも、ハイタッチで喜びを分かち合った。
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