72話 即死級トラップ
「もう少しで迷宮の最奥部だ。休憩を挟んだら最後まで行ってしまおう」
「そうね! それにしても随分と登ったわよね」
マリーが通路から下を覗き込みながら呟く。
「落ちるなよ」
「平気よ。落ちても飛んで戻ってこれるわ」
「それもそうか」
ミリィのトラップ看破の魔術の活躍もあり、最深部に到着すると、ボス部屋前の大扉が見え、その横にまた転移魔法陣が青く光っている。
「ボス部屋前に罠は多分ないと思いますが……」
ミリィが「どうなんでしょう……?」と唸りながら周囲を確認する。
「そうですね。ここは素直に攻略本部に戻る転移魔法陣だと思います」
「また手を繋いで乗る?」
「一応それがいいだろうな。セレス、一応バフを頼む」
「分かりました」
バフがかけ終わり、攻略本部に戻ろうと手を繋いだまま、一緒に転移魔法陣へ踏み込む。
視界が戻った矢先、四方を囲まれた空間に転移し、レルゲンたちは狭い箱庭のような場所に閉じ込められた。
「……!!」
「なんて陰気なトラップなの!」
マリーが悪態をつくが、この狭い空間で一体何が待ち構えているのだろうか。
扉が開き、四段階目の魔物が矢継ぎ早に流れ込んでくる。狭い部屋が一瞬で魔物で溢れかえった。
「セレス! すぐにリジェネライト・ヒールだ!」
「はい!」
「――回れ!」
空中で高速回転する黒龍の剣が風の下位魔法を纏い、切断力が強化される。
「みんな中心に集まれ! ――ウィンドカット!」
黒龍の剣が、出現する魔物を一撃で魔石に還しながら、円を描くように斬り裂いた。
魔石へ還った数は、既に二十を超えていた。
「なんて数だ……!!」
ようやく魔物の出現が止まったのは、魔石の数が五十を超えた頃だった。
レルゲンの念動魔術がなければ、間違いなく即死級のトラップだろう。
全ての魔物を倒した後に壁が動き、一つの宝箱が出てくる。
最初は宝箱自体のトラップを疑ったが、恐る恐る箱を開けると、一つの小瓶と手紙らしき紙片が入っていた。
手紙には「新たな命を摘み取られ、そなたの道は止まるだろう」と書いてある。
内容から推測するに、何かしらの生命活動を停止させる類の劇薬が入っているようだった。
レルゲンが小瓶を懐にしまうと、今度こそ攻略本部に繋がっている転移魔法陣が出現し、レインにボス部屋前の転移魔法陣は絶対踏まないように伝えるのだった。
「そんな危険なトラップがあったのですね……それにしてもよくご無事で」
「出てくる端から片付けたが、数が多すぎたな」
「それで魔物の魔石がこの量なのですね。支払いはいつものでいいですか?」
「ああ、それで頼む」
レインがニコッと笑ってから奥へと消えていく。レルゲンは魔石の換金額を確認することなく攻略本部を後にするが、その様子を見ていたミリィは考えていた。
――レルゲンさん。いつも魔石を換金しても、その場でお金を受け取らないけど、量が毎回多いから後払いなのかな?
ミリィは深く考えても仕方ないと気持ちを切り替え、死線を越えた興奮が冷めないまま帰路につく。
「私、本当にこれでいいのかなぁ」
ミリィはオレンジ色の空へ、誰にも届かない言葉を一人投げかけるのだった。
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