71話 少しずつ見えてくるダンジョンの特性
息を合わせて一斉に飛び込んだ先は、やはり攻略本部がある一層の転移魔法陣の上だった。
「はぁ……」
全員が安堵のため息をつく。
今までは帰りの道のかかる時間を計算して攻略を進める必要があったが、次からは中間地点まで戻ればいい。
その分だけ深くダンジョンに潜り続けることができる。
攻略本部にいたレインに会うと「あれ?」といった表情に変わり、レルゲンの下まで歩いてくる。
「今日は随分早いご帰還ですね。何かありましたか?」
「実は迷宮の入り口に転移魔法陣があって、それに乗ったらここに戻って来た」
「中間地点の発見ですね! お手柄です。場所はどの辺りか教えてくれますでしょうか?」
ダンジョン攻略は一本道ではない。
様々な地形や仕掛けを突破した末に得られる正規の地図情報は、それだけで高値が付く。
これでお金を稼いでいる情報屋までいるのは、ダンジョンを練り歩く冒険者たちにとっては常識だった。
今回の転移魔法陣の設置場所や移動先は、喉から手が出るほど欲しい情報だろう。
しかし、レルゲンは意外にもあっさりレインに教えてしまう。
それを見たミリィが「もったいない!」と少し抗議を上げたが、レルゲンはレインに教える代わりに一つ条件を出した。
「今回は攻略本部に戻って来られたから良かったが、トラップが今後ないとも言い切れない。
転移魔法陣に乗るときは、準備をしてから利用するように、他の冒険者たちに周知して欲しい」
「え? そんなことで良いのですか? 攻略本部としましても、新しく出てきた転移魔法陣は警戒して然るべきだと考えております。周知は依頼がなくともされると思いますが……」
「ならいい。後はそっちで上手いことやってくれ」
「……! わかりました。貴重な情報、感謝致します」
攻略本部を後にして、軽くお昼を摂るために外へ出る。
「本当に良かったんですか?」と、ミリィが聞いたが、レルゲンは教えたことに意味があると返した。
「俺たちより早く攻略しているパーティはいないようだし、今のうちに恩を売っておけば、有益な情報が手に入りやすくなるかもしれない。こういうのは、いつか戻ってくる」
まだ中間層の攻略だ。今後情報が回ってくる可能性を少しでも上げられれば、レルゲンは情報で商売をするつもりはなかった。
「なんというか、強かですねぇ」
「レルゲンって、結構そういうところあるわよね」
「ふふ、そうですね。腹黒です」
「腹黒は余計だ」
昼食を済ませて、レルゲンたちは再び迷宮に挑み始める。
「さて、どんな魔物が出てくるか」
この迷宮は今までとは違い、天井の高さがかなり高く設定されている。通路や広間の境界線がないのだ。
だが、意外にも出現した魔物はリザルドで変わり映えはしなかった。これには全員が疑問を感じたが、よく見ると、持っている刀身が黄色く光っている個体がある。
すぐさまノーマリィ・コンディションを全員分にかけ、状態異常対策を取る。
リザルドを全て片付け終わった瞬間、ダンジョン内の魔力が空気中に固められ、巨大な魔石が形成された。その魔石が蠢くように形を変えつつも、一体の大型の魔物が現れる。
リザルドよりも大きな体躯に赤い眼光を輝かせ、手には大楯と大太刀を構えた五段階目の魔物――リザルド・ジェネラル。
ミリィは水の中級魔術、セレスティアは氷の上位魔術を繰り出して先制攻撃を仕掛けるが、リザルド・ジェネラルは正確な太刀捌きで全て叩き落とし、二人の表情に緊張が走る。
その太刀捌きは、今は片腕を失って療養中のハクロウに似たしなやかさがあった。
即座にレルゲンが全員に指示を出す。
「奴は五段階目だが、実際の強さは六段階目と同等だと考えた方がいい! 注意してくれ!」
マリーの横にレルゲンが立ち、黒龍の剣を構えながら作戦を伝えた。
「マリー、君の先生に似たタイプだ。誰よりもハクロウの剣を受けた君に前衛を頼みたい。隙ができたら俺も斬り込む」
「任せて」
マリーがリザルド・ジェネラルに突っ込んでいき、マリーの背後からレルゲンがフォローを入れるべく追随する。素早い剣戟の衝撃音がダンジョン内に響き、連続剣の加護が発動する。
少しずつマリーがリザルド・ジェネラルを押していくが、上手くマリーの剣の重さをいなしながら対応しているのがレルゲンにはわかった。
牽制の為にレルゲンが鉄剣を浮遊剣にして飛ばすが、リザルド・ジェネラルは剣を横にいなしてマリーに同士討ちさせようとする。
しかし、レルゲンは鉄剣の軌道を念動魔術で止め、マリーの剣戟に合わせて鉄剣を操作してリザルド・ジェネラルに斬りかかる。
レルゲンの浮遊剣がマリーの横につき、擬似的な二刀流となる。マリーは、まるでレルゲンと共闘する感覚になっていた。
――レルゲンがどんな攻撃をするか分かる! 隣で一緒に戦ってるみたい……!
マリーの連撃に耐えかねたリザルド・ジェネラルが後ろに飛んで立て直すが、ミリィが影移動魔術を発動させて足止めをする。
「助かるわ!」と、マリーが勢いよく踏み込んだ。
足止めされたリザルド・ジェネラルへ向けて、セレスティアがフロストジャベリンを放つ。
「ゴオォォオ……」
一瞬怯んだリザルド・ジェネラルに、マリーが最大限の魔力を神剣に込めると、ヒュージ・スワンの時と同じ白い光が輝いた。
硬い防具を簡単に斬り裂き、リザルド・ジェネラルを魔石へと還した。
「五段階目なら危なげなく討伐できるな」
「一人じゃ難しいけど、みんなでなら苦労はしないわね」
後衛のミリィも影移動による足止めタイミングがだいぶ慣れてきた。この分なら本当に四人だけでボス攻略ができる。
順調に迷宮を進んでいくと、ある法則に気づいた。十層までの迷宮は四段階目の魔物が群れになって出現し、倒してもそのまま進める。
だが、十一層は四段階目の魔物を倒すと、その度に五段階目相当の中ボスクラスの魔物が出現するということだ。
――まるで俺たちが倒したのを確認してから、次の魔物を出している。人為的な狙いを感じるな……
レルゲンは皆には伝えずに、確証が得られるまで警戒心をまた一つ強めた。
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