66話 十層ボス攻略会議
レルゲンが素直に謝ったことで、マリーとセレスティアは驚いた表情をする。だが、ミリィは表情を変えず、目を見開いたまま、片目からだけ涙を流した。
「……あっ、あれ? ごめんなさい、私。そんなこと今まで言われた経験なくて――つい」
マリーとセレスティアが優しくミリィを抱きしめる。
子供のような声を出しながら、ミリィの顔はぐしゃぐしゃになり、今までせき止めていた感情が溢れ出すように泣き続けた。
落ち着くまで待っていると、ミリィが二人にお礼を言ってレルゲンの方へ向き直る。
「……これからよろしくお願いします!」
泣き続けたからか目元が赤くなっているが、笑顔を精一杯作り、「えへへ」と、頭に手を置きながら少し恥ずかしがった。
それからというもの、レルゲンたちは十層の攻略を順調に進めていった。
迷宮に入ってからも安定した立ち回りを見せ、攻略速度を維持したまま危なげなく進んでいく
途中、後衛を狙って動く四段階目相当の魔物が後衛を狙ってきたが、レルゲンが念動魔術により二人をアシストして、隙を作りながら打ち倒す。
「迷宮なんて入ったことなかったですけど、不思議と怖くはありませんでした」
ミリィが不思議そうに漏らすが、セレスティアが神杖を撫でながら、拳を合わせる二人を見つめた。
「あの前衛にいる二人がしっかりしているからですね。後衛の私たちは、前の二人が戦いやすい状況を作れば、自然と戦況が有利に進められます」
「確かに……自惚れるつもりは全くありませんけど、支援が上手くいくときは戦っていて楽しいです」
「これからもっと楽しくなりますよ」
「えへへ。私、もっと頑張ります!」
やる気に満ちたミリィを見て、セレスティアが朗らかな表情で微笑んだ。
迷宮内で初めて魔力揮発剤を使用し、簡易的な安全地帯を作って昼食を摂ることに。
ここは迷宮の最深部近くだ。
そのため、最前線とはいえ冒険者が比較的少ない。どのパーティも苦戦しているのだろう。
その中で優雅に休憩しているパーティを見れば、他の冒険者もからかいたくなるだろう。
「呑気な連中だな」
「女侍らせて恥ずかしくねぇのか?」
など、言いたい放題だ。
居心地が悪くなったミリィが、心配そうに尋ねる。
「周りの声が気にならないんですか?」
「ああ、大したことない連中だからな。気にしてもしょうがない」
「そうね」
「はい。気になりません」
「……これが強者の余裕ですか。私はそこまで堂々とできません」
「侍らせるも何も、二人は俺の奥さんだからな。気にする方が不自然だ」
「え! ご結婚されて……! え!? お二人と?」
三人が頷く。
それを見たミリィは「世界って広い……!」と違った意味で感心するのだった。
遂に十層のボス――アシュラ・ビーストが待ち構える部屋まで到着する。
しかし、レルゲンたちはすぐに挑戦しようとはしなかった。
なぜなら、十層のボスで攻略が止まっているということは、それだけ情熱を注いでいるパーティがいるからだ。
一度、十層の冒険者拠点に戻ることにするが、ボス部屋の扉に何やら鋭利な物で傷が付けられていると気づき、近くで確認してみるが、意味はないように見える。
――何かの印か? と観察するが、答えは出なかったので、そのまま三人は帰還する。
初めてボス部屋の扉を見たミリィは、首を上に向け、「はえぇー」と口を開けたまま見上げていた。
冒険者拠点に戻ると、一人の爽やかな表情が特徴の男が、声を張り上げて呼びかけをしている。
「明日、四回目となる十層のボスの攻略会議を開催します! 来れるやつは指定の時間に集まって欲しい!」
何度も同じ呼びかけを繰り返し、攻略者を募っているようだ。
この呼びかけを聞いたマリーが、レルゲンに尋ねる。
「明日だって! 行くでしょ?」
「もちろんだ」
今日はミリィが加入したおかげもあり、ボス部屋の前まで来れた。
明日の攻略会議では、ボス部屋の前まで行った経験のあるパーティがメインで話が進んでいくだろう。
――次の日、ボス攻略会議は予定通り開催された。
昨日大声で呼びかけを行っていた爽やかな男が、集まった全員に向けてお礼を言う。
「みんな! 今日は急な開催にもかかわらず集まってくれてありがとう!
俺はヒューゲル。今回も前回の攻略と同様にリーダーをやらせてもらいたい! 異論ある人はいるか?」
誰も反論の声は上げない。
ヒューゲルが少し待ってから続ける。
「ありがとう! それじゃあボスの行動について話していこうと思う」
「待ってくれ」
そこでヒューゲルの進行を妨げる男性が一人、手を上げながら声を上げた。
「何かな? アストさん」
「ここは未だ攻略出来ていないボスの攻略会議だろ? なんでお荷物のミリィがいるんだ?」
名前を出されてビクッと身体が跳ねるミリィ。
どうやら、ここまで無理にミリィを連れてきたパーティの一人らしい。
男の意見は尤もだった。
しかし、マリーが黙っていない。
「ミリィは私たちのパーティメンバーよ。あなたには関係ないわ」
「いや、あるね。ここは攻略が行き詰まってからみんなで何とかしようって話し合いの場だ。全体の和を乱す奴がいると、こっちの命まで危なくなるんだよ」
「じゃあここであなたを力で黙らせばいいのかしら」
「ははっ、上等だ――やってみろよ嬢ちゃん」
お互い言葉に熱が入っていくが、そんな中でもレルゲンは冷静だった。
マリーを手で制し、ヒューゲルに向かって発言を求める。
「どうぞ、そこの手を上げている方」
「レルゲンだ。ミリィの今までの行動については俺からも謝罪する。だが、彼女がいたからこそ、俺たちは四人でボス部屋の前まで来たことは間違いないと思っている」
アストがレルゲンに食ってかかる。
「はっ! たった四人でボスの部屋まで行けるわけねぇだろ。寝ぼけてんじゃねぇぞ。大体、証拠がなけりゃ口では何とでも言えるぜ。兄ちゃんよ」
「そうだな。口だけなら何とでも言える。だからコイツを見てくれ」
取り出したのは一枚の紙。昨日のボス部屋の扉にあった印のような傷が描かれている。
その紙を見た何名かが「おぉ」と声を上げた。
ヒューゲルも頷き、アストを宥める。
「それは……俺たちが付けた……ちっ、好きにしろよ」
証明がされたことで、攻略会議へと議題が戻る。
「改めてボスの名前はアシュラ・ビースト。 光線や、分裂する熱線攻撃、素早い移動と巨大な身体を活かした突進攻撃が今までの攻略で確認されている。 一度ボス部屋を後にすると、魔物の傷が完全に癒えることは、みんな知っていると思う――日を跨いだ長期戦はできない。万全の状態で挑む六段階目の魔物討伐だ。 パーティ同士で連携を取るよりも、パーティ内だけで連携を取った方が安全で効率がいいと考えている」
今の言葉だけで、ヒューゲルが歴戦のダンジョン攻略者だとわかる。レルゲンたちを含めた攻略者たちは、黙って話を聞いていた。
「ボス部屋まで到着したパーティに積極的に動いて欲しいが、レルゲン君のパーティは最初でいい、周囲の警戒をして欲しい。 状況を見て俺が指示を出すから、それまでは支援に徹して貰えると助かる!」
レルゲンが無言で頷くと、ヒューゲルが続ける。
「初めは俺たちとアストのパーティで前衛を務める。ある程度削ったら……」
それからも作戦会議は続き、攻略方法の共有が終わる。 言ってしまえば、レルゲンたちのパーティは実力が未知数のため、ヒューゲルも扱いに困っていたようだ。
前に出ることはほぼない陣形配置となり、マリーが不満そうな表情をしていたが、攻略が行き詰まっている現状では、何よりも安全性が重要視される。
そのことをマリーはわかっていたために、アストとの言い合い以降は黙って話を聞いていた。
どうしようもなく、他のメンバーが打つ手がなくなったときはレルゲンたちは自由に動くことができる。
――攻略はこの十層だけじゃない。
ある程度の活躍だけで十分すぎる成果が得られるのがボス攻略だ。
しかし、レルゲンはいつでも行ける準備をして欲しいと三人に伝えた。
セレスティアも気づいてはいたが、はっきり言って攻略会議に集まっているメンバーの魔力を感知すると、魔力の揺らぎや大きさから、六段階目の最終奥義――核撃まで考えると実力不足に見えた。
攻略の途中で必ず出番が来るとレルゲンに伝えられ、マリーがやる気に満ち溢れていた。
――ボス部屋の扉前。
ヒューゲルが全員の前に立ち、気合いを込めた声を上げた。
「俺から言えることはただ一つ。今度こそ勝とうぜ!」
「おお!」
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