65話 新たなパーティメンバー
今度は黒龍の剣に魔力を込めて斬撃を飛ばそうと構えると、危険を察知したのか急旋回しながらマリーとセレスティアに向けて下降していく。
これでは黒龍の剣による遠距離攻撃が使えない。
こいつ……俺が撃てなくなることを理解している! と額に汗が滲みつつも、頼れる仲間の名前を呼んだ。
「マリー! セレスを頼んだ!」
「任されたわ! お姉様、タイミングを合わせましょう」
「ええ、行きます!」
二人の魔力が完全に重なった瞬間――
突進してくるヒュージ・スワンに向けて叫ぶ。
「「ユニゾン・テンペスト!」」
二人の神剣と神杖が重ねられ、魔力の高まりと一緒に共鳴しながら、風の上位魔術であるテンペストを遥かに凌ぐ威力にまで昇華された遠距離魔術が放たれた。
攻撃を受けながら速度は落とさないヒュージ・スワンは、近づくほど攻撃密度が上がっていくユニゾン・テンペストに切り裂かれていく。
突進の勢いがだいぶ弱まったところで、マリーが足に魔力を集中させ、念動魔術で空を駆け、ヒュージ・スワンの首元へ神剣を薙ぎ払った。
しかし、神剣の切れ味ですら断頭するまではいかず、鮮血を散らすに留まった。
「惜しい……!」
「大丈夫だ、二人の攻撃は効いている。一気に叩こう!」
距離を詰めていくレルゲンとマリーへ目掛けてヒュージ・スワンが鋭い羽を飛ばして牽制してくる。
これを矢避けの念動魔術で回避すると、一旦体勢を立て直すためにヒュージ・スワンが距離を取り直そうとする。
「逃すか……!」
全速力の念動魔術による飛翔でヒュージ・スワンの進行方向の先に回り込む。
刀身が赤く染まり、上段に掲げられた黒龍の剣は、天を衝くように光が伸びてゆく。
振り下ろされた赤い光は、ヒュージ・スワンの片翼を切断し、地上へと墜落していく。
落下の途中で新しく翼が再生し、何とか立て直そうと羽ばたく。
落ちていくヒュージ・スワンを下で待っていたマリーが神剣に魔力を限界まで込めて待ち構えると、神剣が白く光り始める。
この変化に一瞬マリーが神剣を横目で見たが、すぐにヒュージ・スワンに集中し直し、裂帛の気合いと共にマリーが跳躍しながら迎え撃つ。
「やああぁぁぁぁぁ!!!!」
今度はしっかりとヒュージ・スワンの首を斬り飛ばし、巨大な魔石へと還った。
レルゲンたちは十層の中ボスである五段階目の魔物、ヒュージ・スワンを無傷で撃ち倒したのだった。
空中から床に降り立ったレルゲンとマリーはお互いに親指を立て、労い合った。
「二人ともお疲れ様。そういえばさっきの合体魔術だけど、いつの間にあんなの覚えたんだ?」
「ふふん、凄いでしょ? セレス姉様と練習したのよ」
「レルゲンを驚かせようと頑張った甲斐がありましたね」
マリーが得意げに笑い、セレスティアは柔らかく笑っている。
中ボスクラスのヒュージ・スワンを討伐し、十層の中継地点である冒険者拠点にレルゲンたちは戻る。
冒険者拠点は、有志の冒険者たちがダンジョン内に設ける活動拠点だ。魔物が出現しづらい場所を選びつつ、定期的に魔力揮発剤を撒いて魔物の出現を完全に抑えているらしい。
街に近い規模にまで発展していることからも、この十層で攻略が止まっている状況を表していた。
ヒュージ・スワンの素材と魔石を持ち帰ると、拠点に滞在している冒険者から注目を集めていた。
「あの人数でヒュージ・スワンを倒したのか……?」
「馬鹿言え、三人で倒せるはずないだろ。遠距離魔術の一斉攻撃でようやく倒した魔物だぞ」
「歩いてる女の子、めっちゃ可愛いじゃん。強くて可愛いの羨ましいわぁ」
レルゲンたちが倒したことを信じていない様子で、マリーとセレスティアに向かって羨望の眼差しを送っている者たちもいる。
周囲の反応は無視して、一度借りている簡易宿に腰を落ち着け、武装やドロップ品を下ろす。
ダンジョン攻略を開始してから四日目が経過し、特性にも慣れてきていた。
「十層もようやく中間地点まで来たな。昼食を済ませたら今度は迷宮に挑戦してみようと思うけど、行けそうか?」
「ええ、問題ないわ」
「はい。私もまだまだいけます」
「わかった、じゃあ早めに済ませに行くか」
「「賛成!」」
適当な店を探していると、一層で見慣れた顔がそこにはあった。
「ミリィ……?」
「あれ? わぁ!! レルゲンさんじゃないですか! 皆さんも! 奇遇ですね!」
「いや、そうではなく……君はこのダンジョンの攻略は諦めたと思っていたが、どうして最前線にいるんだ?」
「その……私、どうしても諦められなくて、お願いしてここまで来たんです」
なんて傍迷惑な冒険者だろうと、レルゲンは呆れていたが、マリーとセレスティアは再会を喜んでいる。
「久しぶり! でもないか……とりあえず無事でよかったわ」
「ミリィ様。お元気そうで何よりです」
「はい! お二人もお元気そうで! 凄腕の三人パーティがどんどん攻略して最前線まで登っているという噂が流れていますが、きっとレルゲンさんたちのことですよね! 初めてお会いしたときから強い方々だと思っていましたが、このミリィ。なぜか鼻が高いです」
「本当になんで君が得意げなんだ……」
「ふふーん」
ミリィが腰に手を当てて顔を上に向けて笑っている。だが、すぐに潤んだ瞳で上目遣いをしてくる。
「実はレルゲンさんにお願いがありまして」
「一緒には連れて行かないぞ」
「なぜ、バレたし……!?」
「大方、無理についてきた君からパーティが逃げようとしているんだろうが、一層で足踏みしている君では命を落とすぞ」
「うっ……」
すると、マリーはミリィの味方についた。
「ちょっとレルゲン。そこまで言わなくてもいいじゃない」
「俺は周りに迷惑をかけるなって言ってるんだ。ただでさえ危険なダンジョンだし、生半可な力じゃ共倒れになるぞ」
「なら私たちがカバーしてあげればいいでしょ!」
「なんでそうなる! ミリィにはここを諦めてもらう方がいいに決まってる」
お互いが一歩も譲らない状況となり、セレスティアも会話に入れずにいた。
「実は……」
とミリィが言葉を詰まらせながらも説明する。
どうやらすぐにまとまったお金が必要で、病気の家族へ治療費を送る必要があるというのだ。
そのため、住んでいた近場にダンジョンが出現したのを天啓だと感じたミリィは、高難易度で自分には難しいと感じながらも、挑戦する必要があったとのことだった。
これにはセレスティアもミリィ寄りに考えが傾いているようで、レルゲンに何とか連れて行って欲しいと目で訴えてくる。
「はぁ……」と大きなため息をつき、ミリィを見る。
「君の事情はわかった……連れて行く。だが君はセレスと同じ後衛にいて支援をしてもらう。これが最大限の譲歩だ」
「荷物持ちでも何でもやります! よろしくお願いします!」
「それはもう間に合っている……」
レルゲンは大きなため息をついて、ミリィが新しい仲間に加わることが決まった。
ミリィが加わり、レルゲンたちのパーティは意外にも上手く回っていた。
元々、支援役が一人増えた程度だと思っていたが、そこは腐ってもAランク冒険者。
闇のデバフ魔術を駆使して、相手の速度や攻撃力、防御力を低下させるなど、ミリィは想像以上に多彩な魔術を扱えた。
セレスティアも支援系の魔術を得意とするが、味方全体のバフがメインで、相手の能力を下げる魔術はそこまで使用頻度が高くなかった。
というのも、レルゲンやマリーのように基礎能力が高いと、相手より味方の能力を上げた方が恩恵が大きいと考えていたからだ。
セレスティアはミリィの加入で自身の考えを少し転換する必要があると考えるようになる。
ミリィは他にも、影移動魔術で魔物を影に引き込み、影に身体が半分ほど沈んだときに影移動を解除する応用力があった。
魔物は移動中のため影に沈んだ状態では動けず、棒立ち状態となったところをレルゲンとマリーが有効な攻撃を与えていた。
非戦闘用の魔術を戦いに転用する方法は、どこかレルゲンに似ているとマリーとセレスティアは感じていた。
逃げ回りながらも、ここまで生き残っていたのも頷ける練度だと、評価を改めるしかなかった。
パーティの実力次第で霞んだり化けたりするのが支援系魔術だ。
普段から日常魔術である念動魔術を応用しているレルゲンは、昔ならきっと気づいていただろう。
しかし、新しい武器を手に入れ続け、急激に成長したことで、心がまだ追いついていなかった。
戦闘が終わり、改めて気づいたレルゲンは、すぐにミリィの元へと向かって謝罪をした。
「すまなかった。正直言って俺は君を舐めていた。だが、正式にパーティに残って欲しいと思っている。無理にとは言わないが、どうだろうか?」
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