64話 忍び寄る影と、十層の中ボス
途中からレルゲンたちを発見し、漁夫の利を狙っているのか。または実力でレルゲンたちの身ぐるみを剥ぎ取ろうと考えているのか。
どちらにせよ、こんな常識知らずにまともな奴はいない。
魔力糸をマリーとセレスティアに繋ぎ、思念で話しかける。
『態度に出さないように俺の話を聞いてくれ。俺たちの後ろから隠蔽魔術を使ったパーティが、付かず離れずの距離で後をつけてきている。いつでも戦闘体制に入れるように準備してくれ』
『全然気づかなかったわ。人数は?』
『正確には読めないが、複数はいると考えていい。何度も言うが気取られないように注意してくれ。セレスはディスペルと隠蔽魔術をいつでも発動できるように頼む』
『わかりました。ディスペルは位置が判明すればすぐに発動できます』
『次に開けたところに出てから魔物を倒した後に、こちらも隠蔽魔術を使って誘ってみよう。
魔物との戦闘中は、魔力糸を常に接続するから思念での連携になるな』
開けた空間に出て、魔物が何体も出現する。
後衛のセレスは追手とは反対側まで回り込むように素早く移動し、刺客から距離を取りながら援護する。
今度は遊び無しでレルゲンとマリーが全力で魔物を蹴散らし、セレスティアも攻撃魔術を発動して援護を行い討伐を終えた。
討伐が終わったと同時にレルゲンがセレスティアに合図を出す。
『今だ、セレス』
『ハイド・スペリア』
三人が急に目の前から消え、刺客が急いで開けた部屋まで走ってくる。
三人はレルゲンの念動魔術で、部屋の天井付近に位置取り、相手がよく見える場所から見下ろしていた。
セレスティアが熱感知を使い、レルゲンを見て頷く。
『マリーは不測の事態が起こったときのためにここで見ていてくれ』
『気をつけて』
追手の駆ける足音が部屋の中心で止まり、レルゲンたちを探している。セレスティアに合図を出し、準備していたディスペルが姿を暴いた。
隠蔽魔術が強制解除され、追手がお互いを見合って一瞬だけ硬直する。
魔力糸を予め蜘蛛の巣状に展開していたレルゲンはこの隙を見逃さなかった。
「綴雷電」
「がっ……!」
硬直していた追手の三人が感電し、その場に倒れ込む。全員分の武装を没収し、レルゲンが魔力糸で拘束して問い詰めた。
「さて、なぜ隠蔽魔術まで使って追っていたのか説明してもらおうか」
「誰が説明するか!」
「そうか、言いたくないか」
再びの綴雷電が追手を襲う。最初は加減して電気を流したが、今度は気絶しない強さまで出力を上げる。
声にならない悲鳴が漏れるが、しばらくの間は電気が流された。
先に根を上げたのは隠蔽魔術を使っていた魔術師の女だった。
「言います。なのでもう勘弁して下さい」
「おい! 裏切るのか……!?」
「現実を見てよ! もうどうすることもできないのよ!」
リーダー格の男が派手に舌打ちするが、見た目の年齢はレルゲンたちより少し上くらい。
ここまで計画的な追跡は初めてではないだろう。闇討ちに近い形で、何らかの利益を得ているとレルゲンは見抜いていた。
「改めて聞くが、君たちの目的は?」
「私たちは、ダンジョン攻略者が取り逃がした魔石を回収したり、休憩中の冒険者から素材や魔石の入った袋を盗んだりしていました」
「それで今回の標的が俺たちだったという訳だな?」
「はい。そうなります」
「目的は本当にそれだけか?」
ここでレルゲンの眼に力が込められる。
場を包む空気が一瞬で冷たくなり、マリーとセレスティアまでも表情が固くなる。
暗に嘘をつけば身の安全は保障しないことを伝えると、拘束された男性二人は身体が跳ねて冷や汗をかいており、術師の女性に至っては恐怖のあまり涙目になりながらも説明する。
「このまま順調に行けば第一層のボスに挑戦されると思い、上手く行けばドロップ品を回収するつもりでした……」
「そうか。わかっているとは思うが、ダンジョン内での悪質な犯罪行為だ。攻略本部に自首してもらうが、構わないな」
リーダー格の男にはそっぽを向かれたが、レルゲンの圧に屈して渋々納得していた。
レルゲンが正直に話した女性の魔術師に向かって、少しだけ表情を柔らかくする。
「闇の上位魔術をせっかく使えるんだ。こっちの男たちはともかく、君は少なくとも他でもやっていけるはずだ。これを機に足を洗うことを勧める」
「はい……そうします」
レルゲンは目線を主犯のリーダー格の男に向け、短く忠告した。
「おい」
「なんだよ」
「次にまたこのダンジョンで見かけたら……」
「――わかったわかった。めんどくせぇのは俺も御免なんでな」
話が終わり、脅威が去ったのを確認してマリーを空中から降ろす。
「話はまとまったみたいね」
「あぁ、今日は肩慣らしのつもりだったんだ。これからこいつらを連れて攻略本部に戻ろうと思うが、マリーとセレスもそれでいいか?」
「ええ」
「今日の目的は達成していますし、それで構いません」
攻略本部に帰ってから、レインに事情を説明すると、苦笑いを返される。
「お疲れ様でした。初日から災難でしたね」
追手の三人を引き渡し、回収した魔石を換金すると、三・四段階目の魔物とはいえ数が多かったのか、かなりの金額になっていた。
いつの間にか陽が落ちかけるまでダンジョンに潜っていたことを知る。長時間ダンジョンに潜っていると、昼夜の感覚が狂ってしまうかもしれない。
「とりあえず二人ともお疲れ様。どこか出店でも寄るか?」
「今日は何だかんだで疲れたわ。私はすぐに帰りたい気分……」
「私もマリーに賛成です。慣れない環境で色々とありましたし、今日はすぐに休んだ方がいいかと」
「そうだな。今日は真っ直ぐ帰ろうか」
三人とも気力が尽きる寸前だった。風呂ではまた一悶着あったが、すぐに三人とも眠りについた。
――次の日。
十層にそびえる空中階段を登った広間に、レルゲンたちはいた。
「牽制します!」
セレスティアのマルチ・フロストジャベリンが優雅に飛んでいる鳥型の魔物、ヒュージ・スワンに向けて放たれる。
しかし、大きな体躯とは思えない俊敏な飛翔で全て回避し、セレスティアに向けてテンペストに似た風の刃を無数に放ってくる。
すかさずレルゲンがセレスティアとヒュージ・スワンとの間に割って入り、矢避けの念動魔術で軌道をずらす。膠着状態が続いていた。
空中にいる魔物には、念動魔術で無理に近づくか、遠距離攻撃で少しずつ攻撃を与えるしかない。
この十層の中ボス――五段階目のヒュージ・スワンはそれだけではない。
身体の表面には鱗に似た硬い羽を有しており、攻撃を受けると、瞬時に傷ついた羽を捨てるように落とし、新しい羽が内側から生えてくる。
何とか動きを止めて地面に叩き落とし、下で待機しているマリーに重い一撃を入れてもらいたかった。
レルゲンは念動魔術で空へと駆け出し、ヒュージ・スワンの後ろにつける。
「ウィンドカット」
ヒュージ・スワンの真後ろから放たれた風魔法は連続して翼や尻尾に当たったが、威力の低い魔法では見向きもしてくれなかった。
「やはり下位の魔法では駄目か……!」
読んで下さってありがとうございます!
もし続きが気になりましたら、ブックマーク、評価をお願いします!
ぜひ皆さんで作品を盛り上げて下さいね!
よろしくお願いしますー!




