60話 出張ギルドへの到着
ここからは徒歩でフィルメルクのダンジョン街に向かう。
事前にクーゲルからもらった地図に示されている座標によれば、そろそろ石で舗装された道が見えてくるはずだ。
街に入る手前まで隠蔽魔術を使ってもいいが、解除した時に誰かに見られでもすれば逆に厄介だ。
マリーたちが王国へ戻ったときにも感じたが、意外にも顔はそこまで知られていない。
こういうときは堂々とした方が見つからないものだ。着ていたローブを脱いで、堂々と歩く。
神杖は布で巻き、黒龍の剣や神剣は鞘に収められて運んでいるが、レルゲンは女性二人の荷物持ちにしか見えないだろう。
それにしても、王国の周辺と比べても魔物の気配が全くない。
これだけ森や平原を歩いていれば、一体くらい遭遇してもおかしくはないが、王国に流れる地脈による魔力量と比較すると圧倒的に少ないことが関係しているのだろうか。
石造りの道になり、特殊な造形をした石の柱の中に火が灯っている。
これならサンライトを使わずに夜でも進むことができるだろう。
セレスティアが不思議そうに顔を近づけて見ているが、レルゲンやマリーも見たことがなかった。
「珍しい造りの照明ですね。中央王国は国外の領土に関して、まだまだ発展途上ですから、こういった照明方法は参考になります」
「確かに、私も見たことないわ。火の危険性はないのかしら?」
「見たところ魔法を使って灯りをつけているようだな。心配はいらないはずだが、俺もこの照明は初めて見た」
この舗装路が見えてきたということは、今夜にでもフィルメルクのダンジョン街に到着するだろう。
普段こそ野宿が基本だったレルゲンは、ベッドのある生活にある程度慣れてしまっていた。
数日だけベッドがない生活をしただけなのに、王宮の寝床が懐かしく思えていた。
到着したらすぐに宿屋を探してもいいが、先に現地のギルドに話を通してもらった方が都合がいい。
特にマリーはともかく、セレスティアは王族としての金銭感覚に慣れているため、相場感が若干おかしい。
一国の王女のため仕方ないが、いい機会だろう。一般的な金銭感覚を知っておくのも今後に役立つはずだ。レルゲンはできるだけ三人で街を散策するのも良さそうだと考えていた。
――ダンジョン街に到着する。
街の衛兵にクーゲルから渡された書簡が入っている封筒を見せると、あっさり通された。
そろそろお腹が空いてくる頃合いだ。
さっさとこの街のギルド長に挨拶を済ませて、腰を落ち着けたい。
しかし、ギルドに到着するや否や、武装を全て預かられてほぼ丸腰の状態で挨拶に行くことに。
普段であれば挨拶だけで、帯剣する必要はない。だが、案内するギルドの職員はどこかよそよそしい。
クーゲルから預かった書簡を見せると、渋々中へは通されたが、まだ素性がよくわかっていない三人を信じきれていないようだ。
書簡の中身は確認していないが、どんなことが書いてあるんだ? とレルゲンは少し気になった。
古風な二階建ての民家のような佇まいだが、奥行きがかなり広い。ギルドの中は今の時間、夕食を取る者たちも多い。
美しい姉妹に、まだ年若い青年。
嫌でも三人は目立っていた。
二階のギルド長室に向かう三人を見ていた客の一人が、二人に向かって一言放つ。
「めちゃくちゃ可愛いねーちゃんたち! どうだい? こんなガキ放っておいて一緒に飲もうぜ!」
マリーとセレスティアは声をかけてきた男を一瞥することなく、完全に無視してレルゲンの後を歩いて行く。
プライドを傷つけられた男は、無理矢理にでもセレスティアの肩を掴もうと腕を伸ばすが、伸ばす途中で腕が完全に停止させられる。
「何やってんだ……?」と、周りが男に疑問の視線を向けていたが、ここでレルゲンが低い声で圧を放った。
「――俺の女だ」
男はなおも何か言い返そうとしたが、念動魔術で口を封じた。
ギルド職員の方へ向き直ると、やや緊張した面持ちで二階へと通される。
長椅子に腰掛けるように促され、ギルド長と思しき女性からまず謝られる。
「先ほどは私のギルド所属の男による失礼があったと伺いました。来て早々ですみません」
「酒も入る時間だからな、ある程度は理解している」
「助かります。それで、そちらがクーゲルからの書簡ですか?」
「あぁ、俺たちは中身を見ていないが、これを渡せば問題なく手続きをしてもらえると聞いている」
「……拝見します」
書簡の封筒を切ってギルド長が中身を確認する。読み進めていくと手が小刻みに震え始め、手紙とマリー、セレスティアを交互に見て確認している。素性は正直に書いてあるとわかる反応だった。
「これは大変失礼致しました。隣国の王女殿下」
周りにいた職員が「えぇ?!」と思わず声を上げる。ギルドの職員たちがギルド長が持つ書簡の方に集まり、内容を確認する。
「そして、そちらはその若さで王国の副団長を勤め、先日の転移事件の解決の立役者だと……こちらには記載されていますが……」
「「えっ……」」
レルゲンを見た職員たちは、先ほどよりは抑えられていたが、それでも王国の転移事件は周辺国に知れ渡る大事件だった。
それを解決に導いたとあれば、職員も驚きを隠せない。
「レルゲン・シュトーゲンだ。ダンジョン攻略の間だけ世話になる。わかっていると思うが、こちらの二人が」
「マリー・トレスティアです」
「セレスティア・ウノリティアと申します」
「は、はい。ご丁寧にありがとうございます。私はここのギルドの長を務めておりますカガリと申します。未踏破の高難易度ダンジョンに挑戦すると書いてありますが、これはやはりお忍びで……?」
「公にはしていない。ただ王宮は把握しているから安心してくれ」
「か、かしこまりました。こちらとしましても踏破率の向上はありがたい申し出ですが、出現する魔物も確認されているだけで四・五段階目の魔物がいます。皆さんの実力を疑うわけではありませんが、挑戦については問題ありませんか……?」
「把握している。魔物の強さに関しては問題ない」
「左様ですか……! ではこちらからはもう何もお止めする権利はございません。ご武運を祈っております」
「ありがとう。それと最後になるが、どこか宿を紹介してはくれないだろうか? 利用客が少なければ値段は考えなくていい」
「承知致しました。一等の旅館になりますが、空きがあるか掛け合ってみます。恐らくは問題ないでしょう」
ギルドで待っていると、旅館の用意が出来たようだ。現在は他に利用しているのは一組だけで、ほぼ貸切状態のようだ。
もうマリーはお腹が鳴りそうだというので、音が聞こえないように席を立ち、窓から外を見つめながら遣いの帰りを待っていた。
遣いが戻ってくると、マリーが笑顔で荷物を肩にかけた。
「二人とも! 早く行くわよ!」
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