45話 最高傑作との戦い
建物の入り口を潜ると、扉が自動で閉まっていく。一度入れば最後、どちらかが全滅するまで決して開くことはないだろう。
もう緊張も、迷いもない。
皆がただ勝利を信じてここへ立つ。
中へ入ると軍服を着た少女が二人待ち構えており、奥にはナイトも見える。
軍服の少女たちと、ナイトを一度に相手取るように見えた。だが、ナイトが下がり、玉座にも見える椅子に上品に腰掛ける。
「アンタは高みの見物か」
レルゲンがナイトを睨むと、にやっと口角を上げて言葉を返した。
「その娘たちは、私の最高傑作です。私をここまで待たせたのですから、じっくり味わいたいではありませんか。それと油断していると、いくらシュット君でも、死にますよ?」
「俺の挨拶に耐えたんだ。そんなつもりはない」
浮遊させた剣の中には、ドライドが丹精込めて鍛え上げた魔剣もある。
刀身は白銀で細く、細剣に近い形状。鍔部分はアシュラ・ハガマの増幅鉱石があしらわれていた。
他にも、王国から授与された名剣とも呼べる切れ味を誇る鉄剣が五本、レルゲンの念動魔術によって制御されている。
黒龍の剣を含めれば、合計七本の剣を扱うこととなる。マリーとセレスティアの装備は変わらず、ハクロウは新しい細長くしなやかな刀を二本、最初から抜刀している。
対する軍服の二人組は、片方が短剣を両手に一本ずつ持ち、もう片方は片手直剣を握っている。
レルゲンが挨拶をしたときは、二人とも何も持っていなかったが、今回は違う。
レルゲンの額から汗が流れ、地面へと落ちる。
「いくぞ!!」
両陣営が駆け出し、距離が縮まっていく。
前衛はマリーとハクロウ、レルゲンは遊撃として一歩下がり、セレスティアは小声で攻撃魔術の詠唱を始める。
最初は様子見とばかりにお互い追加の魔術攻撃は行わず、前衛同士の鍔迫り合いが繰り広げられた。
レルゲンも鉄剣を一本ずつ横合いから射出するが、あっさりと短剣使いは弾き、片手直剣の方は素手で弾く。
射出速度と剣の切れ味から考えても、無傷で防げるとは考えづらい一撃だ。ここでレルゲンが挨拶代わりに放った赤い光線を、両者とも素手で受け止めていたことと重なる。
やはり身体の構造的に何かあるな――と感じ取ったレルゲンがナイトの方を見る。
だが依然として動かず、そして表情も変えず、戦いを楽しむように観察している。
レルゲンの剣を弾いた直後に、両者とも鍔迫り合いを止め、剣戟が室内に響く。
マリーとハクロウは共に近接型だが、戦い方が正反対に位置していた。
ハクロウは剣の巧さ、マリーは自慢の力と合わせた連続攻撃を得意とし、徐々にアイとユゥを押していく。
ここで、アイとユゥが同時に後方へ飛び距離を取る。マリーは既に連続剣の加護を発動し、効果が切れる前に、次の一撃を与えるべくアイの方へ肉薄する。
しかし、短剣を持ったままマリーに向けて魔術を唱えた。
「ダウン・ザ・ピッチ」
唱えられた瞬間、マリーの加速がガクンと落ち、攻撃から次の動作に入るまでの間隔が空いたために連続剣の加護が解除されてしまった。
「なっ……!」
連続剣の加護が序盤で解除され、マリーが止められる。急な減速に身体がまだ馴染まないマリーに、アイが短剣を構えて突進する。
マリーとの間にレルゲンが鉄剣を割り込ませ、敵の突進を止める。
この短剣使いは闇魔術使いか――とレルゲンは一歩下がったところで戦況を見つつ、敵戦力の分析をする余裕があった。
再び距離が空くが、マリーと闇魔術を操るアイとは相性が悪い。すかさずレルゲンがマリーとハクロウの位置を交代するべく指示を出す。
「「了解!」」
位置交換はさせまいと、ユゥが肉薄して斬り掛かるが、ハクロウは上手く躱して後ろに数歩小刻みに飛び、距離を取った瞬間レルゲンが念動魔術で鉄剣を飛ばして勢いを殺した。
だが距離を取った瞬間に、ユゥが片手をハクロウに向け唱える。
「マルチ・シャイン・ジャベリン」
光の上級魔術を詠唱破棄……!
一瞬ハクロウの思考が鈍る。
レルゲンが牽制のために入れた鉄剣をすり抜けるように軌道を変え、ハクロウへと一直線に光の上級魔術が向かう。
高速でハクロウへと向かう複数の光の矢は様々な角度から襲いかかってくるが、いとも簡単に叩き落とした。
これにはナイトも少し驚いたのか、小さく「ほぅ…」と感嘆の声を漏らす。
「複雑な軌道で来るが、速さが足りねぇ……これならボウズの剣の方が速ぇのよ」
マリーとハクロウが距離を取り終え、位置を変える。マリーは光の上位魔術を扱うユゥに、ハクロウは減速の闇魔術を扱うアイと対峙する。
セレスティアはというと詠唱を既に終え、発動のタイミングを見極めていた。
攻撃魔術の準備が終わったセレスティアが頼れる名を呼ぶ。
「レルゲン!」
レルゲンがセレスティアを向き、お互いに頷く。
全魔力解放の真紅の魔力が迸り、セレスティアと反対側に走りながら敵を惹きつける。
咄嗟にアイとユゥがレルゲンの方へ注意を向け、黒龍の剣を使った光線攻撃に備えようとするが、味方諸共、関係なく放つ気ですか? とナイトが疑問に思い、眉を少しだけひそめる。
黒龍の剣に全魔力が込められ、刀身が赤く伸びてゆく。完全にアイとユゥがセレスティアに背中を向けたタイミングで、声高らかにセレスティアが唱えた。
「テンペスト!」
風の上級魔術が無防備なアイとユゥを襲う。無数の風の刃が上空から降り注ぎ、大きな土煙を上げながら着弾する。
上級魔術をまともに受けた二人は、バランスを崩してよろけ、何とか体勢を立て直そうとするが、この隙をレルゲンが突くべく駆ける速度を上げていく。念動魔術を全身にかけ、射程の延長線上に誰もいないアイの方へ接近し、気合いの声を響かせた。
「オォォオオ!!」
既に発射体制が整っていた黒龍の剣から、真紅の光線が至近距離のアイ目掛けて放たれる。
満足な体制でレルゲンの挨拶を受けた時とは違い、胴体部分に光線が直撃して飲み込んでいく。
光線が消え、辺りがシンと静まり返る。
攻撃が直撃したアイの横腹付近の軍服は切れ、深く腹が抉れているが、血が出ていない。
おかしい……手応えはあった。だが、致命傷を与えた感覚がない。敵の様子を伺うべくレルゲンが距離を取る。するとユゥがアイに向かって光の回復魔術を唱えた。
「エクストラ・ヒール」
唱えられたアイの深く抉れた横腹が綺麗に修復されていく。それを見たレルゲンが一つ確信を得た。
演技の可能性もあるが、あそこまで傷を負うと治さなければ危険と判断しているな……と注意深く観察する。
治療が終わり、再びアイとユゥが武器を構え直す。セレスティアが次の一撃を備えるべく、詠唱を開始し、それを見たアイとユゥがそれぞれ前衛のマリーとハクロウを無視し、セレスティアへ狙いを変更した。
アイは自身の影に沈んでいき、ユゥは自身に光の速度バフであるライト・スピードを無詠唱でかけセレスティアへ突っ込んでいく。
ここでレルゲンがマリーに向かって叫ぶ。
「マリー! 君はセレスに走って向かう奴を止めてくれ! 影移動の方は俺が何とかする!」
「わかったわ!」
マリーは既にセレスから速度バフをかけられている。それに加えて速足の加護でユゥに追いつくのは難しくなかった。
セレスとの間にマリーが入り、ユゥの動きを止める。
問題は影移動をしているアイだ。
セレスティアに近づき過ぎれば、レルゲンの影を使って影移動の補助になり、遠すぎればセレスティアを護れない。
念動魔術で瞬時に移動が間に合う距離まで近づいて止まる。セレスティアが自身の影がある方向に向きを変え、杖を構えた。
出てくるなら間違いなくセレスティアの影を選ぶだろう。しかし出てきたのは短剣二本のみ、恐らく影の中から投げつけている。
――矢避けの念動魔術。
遠隔でセレスに念動魔術をかけて、短剣が軌道を変える。
しかし飛んでいったはずの短剣が空中で静止し、セレスティアの方へ向きを変えた。
「……!」
これを鉄剣でレルゲンが二本とも弾き、セレスティアへの攻撃が一旦止まる。
今のは間違いなく念動魔術だ。片方が念動魔術を使ったということは、もう片方も使えると睨んだ方がいいな――とレルゲンが、アイとユゥの二人に視線を送る。
よく見ると、細い魔力糸が短剣に二本付いている。この魔力糸で空中から再度セレスティアへと向かっていったのだろう。
「レルゲン!」
マリーが呼ぶ声がする。振り返るとアイどころかユゥの姿もない。これはまさか……。
影移動は自分以外でも移動が可能なのか! レルゲンが死角にある影へ振り返ったときには、もう遅い。
鉄剣を背中に滑り込ませて影から出てきたユゥの一撃を辛くも防ぐ。
剣戟の衝突音が室内に響き、防がれたユゥが後ろへバックステップしながら距離を取る。
二人は声で合図を出しているわけではない。
目配せしながら戦っているわけでもない。
もっと俯瞰してこの戦況を見ているような感覚。そんな芸当は歴戦の猛者か、この戦いを見ている者しか出来ないはず。まさか……自動人形とは……。
すぐにレルゲンがナイトを見る。ナイトと目線が合うと同時に、ナイトが拍手をレルゲンに送った。
「素晴らしい。たった数度のやり取りでそこまで看破されるとは。流石はシュット君ですね」
一連の攻防から、自動人形の意味を完全に理解したレルゲンは、魔力を黒龍の剣に込めてナイトとアイ、ユゥ二人の間に斬撃を放つ。
高速で放たれた斬撃は外壁を僅かに削り取り、ナイトとの繋がりを断とうと目論んだが、これは失敗に終わる。
「残念、いい線いっていますが、それで私とその娘たちとの繋がりが切れたら、それは自動ではありませんよ」
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