44話 決戦前
ハクロウは深域の探索には過去に経験があるようだが、余りの危険さに気乗りはしていなかった。
「ボウズがいない今、俺たちだけで何とかしなきゃならないが、六段目の魔物が出たら俺は戦いたくねぇな……」
「ハクロウ先生、私とセレス姉様だけでもいいのよ?」
「それこそ勘弁してくれ……女王様に色んな意味で殺されちまうよ」
一瞬和やかな雰囲気が流れるが、セレスティアが二人に待ったをかける。魔力探知に反応があった。
「二人とも用心を。感知に反応があります。ここから少し行った先に魔物がいます。魔力量からみて、恐らく五段階目かと」
マリーとハクロウが抜刀し、セレスティアが杖を構えて小さい声で支援魔術をかける。隠蔽魔術のハイド・スペリアは今回の魔物討伐では禁止し、倒し切ることを目標にしていた。
マリーとハクロウはアシュラ・ハガマ以来の五段階目との対峙、あの頃よりも格段に強くなった自負が二人ともあったが、いざ相対するとなると、緊張感が段違いに上がっていた。
陽が夕方に差し掛かる頃、マリーの連続剣の加護と装飾品の速足の加護が最大速度を迎え、高速で撹乱し、前衛と遊撃の両方を担っていた。
戦い始めはマリーとハクロウの二人がかりでようやく足止めし、セレスティアが上位魔術で攻撃する流れだった。
しかし、時間が経った今、マリーの速度に対応しようと魔物がマリーに標的を絞るので精一杯になり、ハクロウはというと後方で他の魔物が来ないか警戒をしている。
その間にセレスティアが支援魔術や、詠唱に時間のかかる幻惑魔術を駆使して、魔物を追い詰めていった。
そして、見事マリーの剣が魔物の急所を貫き、レルゲン抜きで五段階目の魔物を討伐したのだった。
五段階目の討伐で自信をつけたマリー達は少しの休憩の後、五段階目を一体、さらに六段階目までも討伐して帰還してきた。
六段階目は魔力量と大きさ、一撃の破壊力は大きいがセレスティアは標的にならないほど、前衛二人の働きが凄まじく、アシュラ・ハガマに似た形状の魔物を見事討伐に成功していた。
王国に帰還してからというもの、レルゲンにこの報告に行った三人は、気力も魔力も尽きかけるほど消耗していたが、それでもやり遂げた。
レルゲンはただ一言「お疲れ様」と労う。
それから発注した武器が完成するまでは、レルゲンは三人の連携を崩さないように立ち回り、援護に徹していた。念動魔術による牽制がほぼ必要とされない力量まで、三人の実力が底上げされていた。
この成長ぶりを全員が実感しており、レルゲンも安心感を覚えていた。
武器ができたとドライドから連絡が入り、早速届いた剣を試し斬りするべく、鍛冶屋の裏にある庭へと向かった。
「この前の黒龍の剣とは違って、どちらかというとマリー嬢ちゃんの魔剣に近いな。要望通り作りはしたが、どんな目的があってそんな仕様にしたんだ?」
端的にドライドへ説明したが、返ってきたのは疑問だけ。理解ができないとドライドが肩をすくめていた。
試し斬りで切れ味を確かめる。
要望通りの品質を実感してから、ドライドに感謝を伝えて、レルゲンは昔を思い出した。
新しい武器は、レルゲンが幼少期に体験したある出来事が元になっている。
まだ魔法すら使ったことのない年齢のレルゲンが、火炎魔法を発現させたと大騒ぎになったことがあった。
結果的には魔法の痕跡はなく、原因がわからないまま終わったが、それを見た両親がナイトを家庭教師としてつけて魔術を教えることになった経緯があった。
レルゲンは今でも鮮明に覚えている。
――この世は不思議で満ちている。
魔術適正がなくても、魔法くらいなら誰でもできるという確信が、今のレルゲンを形作った。
幼少期のときに体験した現象を、真の魔術として昇華させる。まさに十八番ともいえるレルゲン独自の技の基礎だ。
準備は整った。
レルゲンたちは、敵の本陣とも言える座標に徒歩で向かう。
相変わらず魔力揮発剤が撒かれており、魔物が寄り付かない道が深い森の中にできている。
森を抜け、木々が不自然に生えていない場所に出ると暖かな日差しが差し込んでくる。
今までの魔物とは違う。六段階目すら上回る、濃く重い魔力が身を包んでいく。
場の空気に呑まれないように、レルゲンが皆に伝える。
「皆が成長しているのは間違いないと思う。俺もそうだ――これから最後の戦いになるが、緊張する必要はないさ。ハクロウは大丈夫そうだけどな。特にマリーは少し緊張し過ぎだ」
「うるさいわね。そのくらいわかってるわよ」
この両手に大切な人々の未来がかかっている。
緊張しない方が本来はおかしいのだ。
まだマリーの手が小刻みに震えている。レルゲンが震えているマリーの手を力強く握る。
「マリーなら大丈夫だ。近接戦闘ならもう俺を超えている。自信を持てと言うのは簡単だが、出来るはずだ。もう一度言うぞ? 君なら、大丈夫」
マリーの目をじっと見てレルゲンが伝えると、震えがピタっと止まった。
「レルゲン、私なら大丈夫です。緊張はしていますが、マリーほどではありません」
「そうだな。でもこういうのはちゃんと伝えるのが大事なんだ。俺はそれを君たちから学んだ。セレス――君ならきっと俺たちを支えられる。俺たちの背中、預けるよ」
「ええ、任せてください。皆のことは私が護ります」
セレスの目を真っ直ぐ見てから軽く抱擁を交わす。
「では皆にバフをかけます」
セレスティアがバフの詠唱をしている時に、ハクロウが茶化すように目を閉じて両手を広げてくる。
「俺にも手を握って、抱きしめてくれるかい?」
「やなこった」
と一言だけ笑いながらレルゲンが返す。
ふぅと大きく息を吐き、全員の表情が引き締まる。
「皆が無事に王国へ帰ることをここに誓う! 絶対に勝とう!」
「おお!!!」
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