44話 全魔力をぶつけた挨拶
レルゲンの知らないところで女王も動いていた。
「王国がこの深域に転移してから、すぐにある手紙が届きました。送り主はナイト・ブルームスタット。レルゲン様御一行を招待します。自慢の傑作をお披露目したいので、ぜひこの座標まで来られたし、といったものです」
読み上げた手紙を机に置き、女王がレルゲンを見つめる。
「騎士レルゲンには先に水源の確保をお願いしておりましたが、団長が騎士団を率い、同時並行で威力偵察任務を遂行しておりました。ベンジーのことです。勝てないと判断すれば、すぐに仲間を連れて引き下がったはず」
「騎士団長の目を欺く何かがあったということですね」
女王が頷き、心の中を吐露する。
「手紙の御一行の中にはセレスティア、マリー、ハクロウ副団長が含まれていました。親心……でしょうね。二度も危険な戦地に娘たちを行かせるのは到底認められませんでした。しかし、こうしてベンジーを失った以上、このまま黙っているわけにはいきません。騎士レルゲン、どうか国の未来を、またあなたに託してもよろしいでしょうか?」
「御意に」
一拍おいて、レルゲンは「しかし」と付け加えてから進言する。
「敵は私たちという文言を使ってきています。最低でも二人いると考えた方が良いでしょう。前衛が最低でも二人必要になります。そのうち、片方の前衛にはマリーの力が不可欠です。後方支援としてもセレスティアの力も必要になるでしょう。この招待通りの編成が私も最適な編成と考えますが、いかが致しますか?」
「仕方ありません。セレスティア・ウノリティア、マリー・トレスティア、ハクロウ副団長を連れて、この手紙の座標に向かって下さい」
「承知致しました。王女殿下は私がこの身に代えましても無事に連れ帰ります。もちろんハクロウ副団長も」
「頼もしいですね――勇戦を期待します」
夜は水源が見つかったお祝いとは行かなかった。だが、ベンジー亡き後、今まで長年勤め上げた騎士団長を称え、ささやかながらも食事会が開かれる。
マリーが帰国した時のような華やかさはなく、あくまでも喪に服す雰囲気で、身につける衣装も華美なものは少ない。
食事会場の裏側で、セレスティア、マリー、ハクロウ、そしてレルゲンの四名で作戦会議が行われていた。
敵は手紙を出してきた自動人形だけではない。ナイト自身が出張ってくる可能性もあるのだ。
ナイトも念動魔術の使い手であり、加えてレルゲン以上の魔術適正を持っている。
戦力不足は否めなかった。
会議は難航すると思われたが、ここでセレスティアがある作戦を思いつく。
「敵に決戦を先延ばししてもらうのはどうでしょうか?」
あまりに弱腰とも取れる発言に全員が驚いたが、セレスティアは続ける。
「敵の目的は今や王国への復讐ではなく、レルゲンの成長を見ることにあります。新しい武器の完成も間近なのを伝えれば、決戦までの猶予を得られるのではないでしょうか? その間に私達も少なからず深域の魔物討伐などで経験を積むことができるはずです」
ここでハクロウがセレスティアに堂々と反対する。
「悪くない案だとは思うが、裏を返せば今侵攻されるとこちらが対応できないことを伝えることにならないかね? それこそ今なら王国を滅ぼせるとあっちゃ、敵さんはまた王国に標的を変えるかもしれん。ボウズには悪いが、俺はセレスティア嬢ちゃんの案には反対だな」
すると、影部隊の一人が音もなく現れ、武器の完成日程を教えてくれた。
「鍛冶師ドライドによれば、あと三日で完成するとのこと」
「ありがとう」
マリーが簡単にお礼を言うと、影部隊は再び影に消えていく。
「完成まで三日ならセレスの提案、俺は条件付きでできると思う。自分で言うのもなんだが、セレスとの任務でナイトと戦い、セレスが重症を負ったときは奴は俺の手術が終わるのを待っていた。だから明日は手紙の座標に俺一人で行って、三日待つように言うのは現実的な案だと思う」
マリーがその後の行動を提案する。
「なら、明日は深域にレルゲン抜きの三人で魔物狩りに行きましょう」
「俺抜きで行くのか?」
「毎回あなただけに頼っていたら、いざってときに一人で動けないわ。セレス姉様もハクロウ先生もそれでいい?」
二人とも力強く頷く。キッパリとレルゲンの同行は断られ、どうやら魔物狩りはレルゲンからの自立を目的に行われるようだ。
二日目からは連携を取るためにレルゲンの同行は認めてくれたが、やはり最低でも一日は必要になるというのが皆の決定だ。
影部隊を何人かつけて、いつでも退避できる体制だけの手筈だけは整えておこうと、レルゲンは考えるのだった。
会議翌日、手紙の座標までレルゲン一人で飛んでいく。
地上には、この道を通れと言わんばかりに魔力揮発剤が常時撒かれているのか、魔力感知をすると不自然に一本の道のようなものができていた。
魔物もこの魔力揮発剤を嫌ってか、レルゲンの魔力感知に引っかからない。
指定された座標に降り立つと、深域には似合わない四角柱の建造物があり、入り口と思わしき穴に入ると、そこは明るい照明が何個も設置されている。
あまりの明るさにレルゲンは一瞬目を細めるが、すぐに慣れる。正面には二人組の女性のような、騎士服とはまた違った服装だが、レルゲンには見覚えがあった。
旧王朝の軍服を着た、まだ年端もいかない少女が二人待ち構えている。
二人は全く同じ動作でレルゲンに向かって深く挨拶し、こちらを真っ直ぐに見つめる。
だが、どうにも相手の目からレルゲンは感情が読み取れなかった。
「「私たちはナイト様の自動人形、アイとユゥでございます」」
「お初にお目にかかる。招待に応じて馳せ参じた、レルゲン・シュトーゲンである」
今度は言葉を重ねるように、敵の二人はレルゲンに向けて疑問を投げかける。
「「お付きのマリー様、セレスティア様、ハクロウ様の姿が見えませんが、本日はお一人ですか?」」
「今日は一人だ。今回は君たちと戦うために来たわけではない。提案をしに来た」
「「どのような提案でしょうか」」
――全魔力、解放。
深紅の魔力が全身から溢れ出し、身体中から噴き出す力を全て黒龍の剣へと込める。
刀身が赤い輝きを放ちながら上空へ伸びてゆく。
建物の入り口から暴風がレルゲンに集まっていき、黒龍の剣へ風が渦巻く。
「構えろ」
レルゲンが低い声で二人に呼びかける。
軍服を着込んだ自動人形と名乗る二人が、迎撃の構えを取った。
振り下ろされた赤く染まる剣は、深紅の光線となり、二人を飲み込んでいく。
二人とも武器は使わず、両手のみでレルゲンの全力の一撃を受け止める。
しかし、皮膚や着ている衣服がそれに耐えきれず、少しずつ傷ついていく。
二人の自動人形は傷だらけになりながらも、深紅の光線を握りつぶし、レルゲンの一撃を素手で耐え切った。
ナイトが準備しただけはあり、耐久力はさすがと言わざるを得ない。
「「提案というのは、私たちを一人で相手にするということでしょうか?」」
「いや、今のはただの挨拶だ。この会話もどこかで聞いているんだろう! ナイト・ブルームスタット! 三日後だ、今よりもっと強くなって、必ずお前を倒しに来る! だから関係ない王国民は殺すんじゃないぞ。わかったな!」
言いたいことだけ言い、建物の入り口へと向かう。
扉は開いたまま、レルゲンの一撃を耐えた二人は動かず、ただ無言で、飛び去るレルゲンを見送るのみ。無言の肯定と受け取り、レルゲンはその場を後にする。
レルゲンが挨拶をしていた頃、マリー、セレスティア、ハクロウは、深域の探索、もとい魔物討伐に王国の敷地よりも外に出ていた。
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