46話 人形としての戦い方
「やはり念動魔術で操作していたか」
「どういうこと?」
マリーがレルゲンに説明を求める。
「簡単に言えば、こいつらを動かしているのはナイトの念動魔術だ。だから俺たち全体を見やすい位置に陣取って操作していたんだ。ナイトが操っているから、こいつらも念動魔術も使える」
ナイトは今までの攻防を、全て一人で演出していた。
それこそ旅の行商人が連れ歩く人形使いのようではないか。ここまで並列に思考を分けて、狙いを絞り、作戦を共有させる。
念動魔術の極地とも言える技の結集に、レルゲンは驚嘆すると共に、上の世界を見た。
「仕組みを理解したところで、今の君には操作権は奪えませんよ」
「そうかもな」
最初はマリーとアイとの相性が悪いことから、前衛を変える選択をした。だが、アイの影移動とユゥの回復。
――間違いなくアイの影移動が厄介だ。
レルゲンがアイとの勝負をしても良いが、それだと次のナイトと戦うときに魔力が枯渇しかねない。
ナイトとの戦いを見据えるなら、レルゲンが回復魔術を使うユゥを釘付けにし、マリーとハクロウ、セレスティアにアイを討ち取ってもらった方がいい。
アイとユゥ、どちらかを落とせば、一気に優位へ傾くはずだ。
「俺がヒーラーを抑える。みんなは影移動の方を叩いてくれ」
三人が頷く。短いやり取りだが、即座にマリーとハクロウがアイに斬りかかっていく。
マリーの連続剣の加護が発動してから、ハクロウが補佐へと回る。
レルゲンがいない修行では、三人はこんな戦法を取っていたのだろう。レルゲンは目の前のユゥに集中して、回復の隙を与えないように立ち回る。
マリーの速度が次第に上がっていくが、ここでアイが速度鈍化のデバフスキル「ダウン・ザ・ピッチ」をかける。
またガクンと一瞬速度が落ちるが、セレスティアがそれを即座にカバーする。
「ライト・スピード!」
下がった分だけ即座に速度バフがかかり、マリーの口角も上がる。
――もっと先へ行ける、まだ上がある! と大きな魔剣を握る手に自然と力が込められた。
速度上昇を実感してからというもの、マリーは限界を超えた速さと重さを備えた斬撃へと変わっていく。
堪らずアイが影移動で離脱しようとするが、これをセレスティアが阻止する。
「サンライト」
冒険者の洞窟探索では必須の、しかし最も簡単な光の照明魔法が、アイの逃げ道である影をなくした。そして更にマリーの剣が襲いかかり、徐々にアイの身体に傷をつけていく。
ハクロウはマリーが加速し切った後はレルゲンと共にユゥの足止めにかかり、こちらも盤石だった。
しかし、この順調過ぎる戦況に、レルゲンが違和感を覚えた。
おかしい、これが奴の最高傑作なのか?
そうだとしたら――弱すぎる……とレルゲンが異変に気づいた瞬間、マリーと相対していたアイの動きが変わる。
マリーと剣をぶつけ合う度に、腕や腰の関節が不自然に動き、曲がり始め、マリーの速度に対応し始める。
「この……!」
アイの不自然な切り返しに、マリーも辛うじて対応を続ける。
今この瞬間、アイから離れると連続剣の加護の継続が難しいと判断して、細かい切り傷を負いながらも前へ押してゆく。
アイの方もマリーから少しずつではあるが切り傷を負い、両者傷を負いながらも、押しているのはマリーだった。
アイが不自然な動きを始めてから、レルゲンはユゥに対する警戒を一段階引き上げる。
すると、ユゥの両腕と両足が伸び、踏み込みによる距離感が変わる。今度はレルゲンが対応に追われ始めた。
一度ユゥの剣を上に打ち上げ、様子を見るために距離を取る。
「どうなってんだこりゃあ…」
ハクロウが混乱した声を上げる。
「見た目に惑わされるな。奴らは人形だ」
「そんなのありか……!」
ハクロウが泣き言を零すが、歴戦の戦士だけあり、レルゲンよりも先にユゥの間合いを正確に捉えつつ足止めをする。
ここはハクロウに任せて大丈夫だとレルゲンが標的をアイへと移す。マリーの補佐に入るべく、念動魔術を駆使して倍速以上の速度で動いた。
「マリー、防御はこっちでやる! どんどん攻めろ!!」
「ええ!」
マリーの速度がまた一段上がる。攻撃のみに特化すれば、最高速度はまだ上がある。
前後左右のステップを入れて緩急をつけつつ攻撃を続け、魔力を込められた剣が白い輝きを放ち、アイを追い詰めていく。
レルゲンはマリーの攻撃の邪魔にならなければいい。
予測不能な一撃をアイが繰り出した時には、浮遊させた鉄剣で防ぎ、マリーの攻撃がしやすいように足止めや体勢崩しのために剣を振るう。
その間にマリーについた傷をセレスティアが治癒魔術で癒し、すぐに全快状態に戻した。
再びアイの奇想天外な動きに、レルゲンが対応力を見せる。マリーに向けられた一撃を防ぎ、浮遊剣で短剣の柄を固定する。
腕が抜けなくなった瞬間的な隙を突き、マリーが一撃を入れる。これを何度か繰り返すと、アイが初めて焦りの表情を見せる。
――人形とはいえ、そんな表情をするのか
アイの劣勢を受けて、ハクロウと打ち合っていたユゥが横目でレルゲンとマリーに向けて光の槍を放つ。
「マルチ・シャイン・ジャベリン」
それを瞬時に察知したセレスティアが同じ魔術で相殺した。
「させません! マルチ・シャイン・ジャベリン」
空中で同じ魔術同士がぶつかり合い、光の槍が粉々になって消滅していく。
光の槍が防がれたユゥは直接アイの加勢に行こうとユゥは即座に標的を変え、アイの援護へ走る。しかし、その先にはハクロウが待ち構えていた。
「寂しいねぇ、おじさんとの打ち合いは嫌いかい?」
「……願い下げです」
「そうかい、でも嬢ちゃんがその気になってくれなくても、こっちは相手してもらわないと困るね」
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