4話 必殺の回転刃、ユニコーンの首を断ち切る
ユニコーンが出現した地面に、何やら魔法陣が敷かれている。召喚するための陣だろう。
レルゲンは目標を見つけて表情を少し緩めたが、すぐに引き締める。
衛兵たちは一体目のユニコーンと睨み合いが続いているが、二体目が乱入したら間違いなくパニックを引き起こすだろう。
このまま放置すれば本当に死人が出る。
今ここで魔法や魔術を行使すれば、更に大気中の魔力濃度が上がるかもしれない。
レルゲンが取れる手段は一つ。
剣でユニコーンを断頭し、確実に仕留めなければならない。
レルゲンは鞘から剣を引き抜き、空中に浮かしながら追加で命令を出す。
「回れ」
剣は徐々に回転数を上げていき、すぐに剣の形が分からないほどの回転を始める。
これ以上回転数を上げて『音』を出せば、下にいるユニコーンや衛兵たちに気づかれてしまう。
二体目のユニコーンの注意を逸らすために、魔力糸を手元の石ころに繋げる。
ユニコーンの付近にある岩へ突進させる。
岩に激突し、音が響く。
ユニコーンが驚いていななき、音の発生源に注意が向いた。
首が後ろを向いたところで、必殺の回転刃がユニコーンの首を断ち切り、魔石の姿へ還っていった。
三体目が出現する前に魔法陣を破壊するべく、レルゲンは付近へ降り立つ。
魔力糸を魔法陣に接続すると、レルゲンの魔力が凄まじい速度で吸収されていく。
魔法陣に描かれた文字を読み解くと
『周囲の魔力の吸収』『魔力を閉じ込める結界の維持』『吸い上げた魔力を魔物へ変換する』
この三つの効果が、一つの陣に組み込まれている。
円形に構成されている魔法陣は、内側から難易度別に大きさを変えている。
内と外の命令式との間に、術式同士が相互干渉しないように、象形文字に近い模様がいくつも連結されている。
魔法陣を描いている材料は、魔石を液体化させた塗料のようなもの。高価だが、大きめの魔術学校に行けば目にできる代物だ。
入手自体は、そこまで難しくない。
魔法陣を作成した者は相当魔術に精通している。壊すのは簡単だが、もう少し見ていたくなるような気持ちになる。
レルゲンは好奇心を抑えつつ、美しく組まれた魔法陣を塗料ごと空中に引き剥がす。
命令式を連結している象形文字を、念動魔術で強引に書き換える。
絶妙なバランスで効果を発揮していた魔法陣は、自壊して崩れ、跡形もなく空中へ消えていく。
ユニコーンの角と魔石を素早く回収してから、
最初に発見したユニコーンの元へ静かに戻る。
「お待たせ。結界は破壊した」
「わっ! 急に話しかけないでよ! びっくりしたじゃない!」
「わ、わかった、悪かった。だから静かに」
「大体あなたはさっきも急に……!」
ここで金髪の彼女が大きな声でまくし立てていたことに気づく。
すると、ユニコーンがこちらを睨みつけながら、甲高いうめき声をあげて突進して来た。
「恨むぜ嬢ちゃん!」
「ごめんなさい!」
馬車よりも素早い速度で突進してくるユニコーンを、辛うじて躱す。
追撃をしようと頭に生えている角に、全身から魔力を集中しスパークを始める。
魔力を電撃に変換する効率は、他の魔法や魔術と比べて低い。
帯電を終えるには時間がかかるはずだが、さすがは四段階目なだけあり、すぐに臨界点を迎えた。
大した距離が離れていない間合いでは、電撃なら一瞬でレルゲンたちに到達するだろう。
ユニコーンが電撃を放つ寸前、空から鉄の剣が無数に落下して地面に突き刺さった。
放たれた電撃がレルゲンたちに襲い掛かる。
しかし、ユニコーンが放った電撃は、途中で鉄の剣に軌道を変えた。
直撃すると身構えていたレルゲン以外の衛兵たちは、電撃が自分たちに直撃しなかったことに、驚きの表情を浮かべた。
「電撃が曲がった!?」
ユニコーンは、軌道を変えた電撃に動揺を隠しきれず、少しの間だけ停止していた。
知能の高い魔物は脅威だが、予測できない事態が起きると、少しの間固まる。
先ほどのように回転刃を使えば、断頭する好機だったが、レルゲンは念動魔術を見られることを嫌う。
レルゲンは右足を地面に突き刺し、剣を中段へと構える。
今度は魔力で全身を包み込み、ユニコーンへ突進した。瞬間的に速度を上げられた体が、強烈な慣性で軋みを上げる。しかし、鍛え上げられた肉体が潰れることはなかった。
ユニコーン以上の速度で、一瞬の隙に剣の間合いへ入る。
――横へ一閃。
ユニコーンはレルゲンの突進から逃れようと距離を取ろうとするが、もう遅い。
ユニコーンは斬られたことに気づくよりも速く、中段から振り抜かれた剣は音速を超えていた。
振り切った剣が停止した衝撃が周囲に走り、爆発にも似た余波が広がっていく。
一瞬の出来事に周囲からの歓声はなく、あるのは恐怖と驚きだけだった。
そんな中、目を輝かせてレルゲンに走り寄ってくる影が一つ。
金髪の彼女だ。
「今の一撃は何!? 音が遅れて聞こえたわ! 空から降ってきた剣もあなたの作戦よね!? 電撃が軌道を変えると知ってたってことよね!?」
早口でまくし立てる金髪の彼女に、周りも個人差はあれど賞賛の言葉を送った。
「やるな兄ちゃん!」
金髪の彼女が子供のように声を上げていたことを意識してか、恥ずかしがって頬を少し染めて顔を逸らす。
「まずはありがとう。礼を言うわ。私の名前は――」
金髪の彼女が自己紹介を始めようとすると、待ったをかける人物が現れた。
「おっと嬢ちゃん、それ以上はいけねぇ」
「えっ、先生!? どうしてここに」
質問に答えることはなく、大柄だが白髪交じりの無精ひげを生やした老人が、レルゲンの意識をすり抜けるように現れた。
腰には細い剣を二本。
今まで会ったどの剣士よりも、静かな気配を持つ老剣士。
「俺からも礼を言わせてくれ。ボウズが嬢ちゃんを助けてくれなきゃ、俺が出ることになっていた。それに」
彼の耳元に寄って小さく囁く。
「─────────」
緩みかけた空気が一瞬で緊張感に包まれる。
上がっていた歓声は止み、レルゲンの近くにいた金髪の彼女も冷や汗を滲ませる。
少しの沈黙を破ったのは、やはり白髪の剣士だった。
「怖いねぇ。まぁ、このことは老い先短い墓までもっていくからよ。──────────」
とまたも耳元でレルゲンを煽り、金髪の彼女を連れて街へそそくさと引き返していった。
あとがき
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