表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡国の天才魔術師レルゲンの成り上がり~孤独だった俺を救ったのは、命がけで護った敵国の王女でした~【15万pv作リライト版】  作者: 雪白ましろ
第一部 絆の糸編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/86

3話 忍び寄る影

「私はローラ。うちはこの辺の宿では珍しい風呂付きだけど、先に入っておくかい?」


「よろしくローラ。それなら先に頂いてくる」


「随分と大荷物だね。アンタ、名前はなんて言うんだい?」


「訳あって名乗れない。すまないが飲み込んでくれ」


「――命の恩人だ。素性がわからなくても、それくらい飲み込むさ。おーいフラン、部屋まで案内してきておくれ」


「はーい! お部屋はこっちだよ」


 店主の娘であるフランに連れられて二階に向かう階段を上がる。

 木でできた階段は、少し軋む音がした。


 年季の入った雰囲気で、レルゲンの持っている大荷物では床が抜けるかもしれない。

 だが、床は抜けずに足取りは軽く、フランの後を登っていく。

 その様子を見ていたローラが感心したように口を開いた。


「さすがに鍛えているんだね」


 本当は念動魔術を使い、荷物を背負っていると見せているだけだ。

 部屋に到着し、なるべく床に重さが分散されるように荷ほどきを済ませる。


「じゃあ、お湯が溜まったらまた声をかけにくるね」


「あぁ、わかった」


 コップの水へ魔力糸を伸ばし、空中で形を変化させる遊びで時間を潰す。

 少し集中していると、やがて呼び出しの声が聞こえてきた。

 空中に漂っていた水を口に飛び込ませ、飲み込んでから下の階へと向かう。


 久しぶりに落ち着いた状態で温かい湯に入れることに、レルゲンは密かに心を躍らせていた。


 野宿中も、念動魔術で川の水を固定すれば簡易的な風呂くらいは作れる。

 しかし、維持にも少なからず神経を使うことから、全く魔力操作を必要としない風呂は、とにかく貴重だった。


「ふぅ……」


 と思わず声が出る。

 湯に浸かって全身の力を抜くと、レルゲンの緊張は少しだけ解れていった。


 風呂を済ませ、用意された部屋着に着替える。簡素な作りだが、意外にも着心地がよかった。


「さっぱりしたかい?」


「おかげさまで」


「それはよかった。さあ、飯の用意もできたよ!腹いっぱいになるまで食べな!」


「ありがとう。助かる」


 うっかり魔力糸で食器を操作しようとするが、手に魔力を込めたところで踏み止まる。

 文化の違いはあれ、食器を空中に浮かべながら食べる者はいないだろう。


 出されたメニューはスタミナがつく肉料理とサラダ、ブドウのような甘みのある飲み物。

 これは恐らく助けた際に奪われずに済んだ物だろう。思わぬ形で、レルゲンに新鮮な食料として返ってきた。


「ありがとう、ご馳走様」


「あいよ! お粗末様」


 店主の娘が空になった食器を片付けていく。

 せっかくのいい宿屋だ。

 どうやら他にも何人か宿泊している客がいるようだが、レルゲンは早めに休むと決めた。


 朝、目を覚ましたレルゲンは、闘技大会に向けた鍛錬のために庭へと向かった。

 昨日ローラに庭を使わせて欲しいと頼んでおいたのだ。


「おや、あんたもかい? 精が出るね。うちの庭は好きに使っておくれ」


 と言われていた。

 もしかしたら先客がいるのかもしれない。


 動きやすい白の訓練服のような装束に身を包み、剣を振る度に滴る汗が朝日に反射している少女が一人。

 なびく鮮やかな金髪は後ろで一つに纏められ、風に揺られながらも、その表情は真剣だった。


 彼女の邪魔をしては悪いと考え、少し離れた位置に移動し、自前の木剣を手に素振りを開始する。


 最初は右手で上段に構え、振り下ろす。

 さらに左手に持ち替え、また振り下ろす。

 合計五十回ほど振り終え、息をつくと、同じく素振りをしていた金髪の彼女がこちらを見ていた。


 一瞬目が合ったが、お互いにすぐ目線を逸らして朝の鍛錬へと戻る。


 準備運動はこれくらいでいいだろう。

 木剣を両手に持ち、加速しきるタイミングで力を加える。


 ――ブンッ!


 振り下ろされた剣は地面付近で急停止し、レルゲンの剣圧で砂埃が舞い上がった。


 両手での素振りが丁度終わった頃に、フランが声をかけにやって来た。


「お兄さーん? 朝ごはんできていますよ!」


 先ほど会った金髪の彼女は、既に上がっていたようだ。


 大会まで残り数日。レルゲンは出場登録のため、闘技場まで足を運んでいた。


「受付完了いたしました。Bブロックの八番です」


 手続きを済ませ宿に戻ろうとした時、朝に会った金髪の彼女と再び遭遇する。

 朝の鍛錬で目が合った時とは全く違う、探るような視線をレルゲンは感じ取っていた。



 大会前日は街が騒がしかった。

 どうやら魔物が街の近辺に出没したらしく、街の住人が慌ただしい。

 魔力反応も確認されており、衛兵たちが広場へ集められていた。


 しかし、人数が少ない。

 仮に討伐することを考えているのならばあと三倍は人員が欲しい。

 魔物の段位が高ければ、もっと人数が必要になることは間違いなかった。

 衛兵の年齢も老いたものが多く、どうにも覇気を感じられない。


 街の人々は衛兵たちとは対照的で、頭の中は闘技大会のことでいっぱいだった。


「明日の闘技大会はどうなるのか」


「中止だけは勘弁してくれ」


 街の数少ない娯楽として、闘技大会の価値の高さが伺えるが、それどころではない状況だった。


「おう! 今日も早いね!」


 洗濯物を干すために、二階へやってきたローラと鉢合わせになる。


「庭、また使わせてもらうよ」


「好きに使っておくれ。それよりもアンタ、ここら辺に魔物が出たって知っているかい?」


「いや、初耳だ。規模は?」


 闘技大会をあと数日。

 魔物騒ぎはこちらとしても困る。可能なら早めに対処したい。


「これが分からないんだってよ。街の衛兵が調査に行くらしいけど、心配だね」


「そうか。こっちでも様子を見てみるよ」


「アンタの強さは知っているつもりだけど、無理するんじゃないよ」


 朝の鍛錬には昨日に引き続き金髪の彼女がいたが、やはり会話は無かった。

 鍛錬を終えてから、集まっていた衛兵に話を聞く。


「これから魔物討伐に出るのか?」


「本当に魔物がいた時は討伐だ。少ないが、討伐すれば報奨金も出る。君もその口か?」


「まぁ、そんなところだ」


 黒い髪の奥に隠された、蒼い瞳の先に再びの障害が迫っていた。

読んで下さってありがとうございます!

もし続きが気になりましたら、ブックマーク、評価をお願いします!

ぜひ皆さんで作品を盛り上げて下さいね!

よろしくお願いしますー!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ