2話 荷馬車を狙う、野盗を斬る
二十人以上の野盗が、これから闘技大会が開かれる街に向かう荷馬車を笑いながら取り囲んでいた。
「こんな所で大した護衛も付けずに無用心ってやつだ? これじゃ殺して奪ってくれって言ってるようなものだぜ……!」
「男は全員殺せ。女子供はヨルダルクに高く売れる。できるだけ傷つけるなよ」
リーダー格の大柄な男が指揮を執り、食料が多く積まれた荷馬車を襲っていた。
悪態を吐きながらも、荷馬車を護衛している冒険者たちが、持っている年季の入った剣を鞘から引き抜く。
「闘技大会に乗じた野盗かよ! こんなことになるなら護衛の任務なんて受けなきゃよかったぜ」
護衛は五人。人数差を感じさせない連携でどうにか拮抗していたが、徐々に押され始める。
「くそっ! 数が多すぎる! 引け引け! こんなところで死ぬのはごめんだ!」
護衛が荷馬車にいる親子を置いて行き、わが身可愛さで散っていく。
「ふざけんじゃないよ!! あんたら護衛にいくら払っていると思っているんだい!」
中から荷馬車の持ち主の女性が怒りの声を上げたが、もう護衛たちの耳には届いていなかった。
「はぁ、これから稼ぎ時だっていうのにね。悪かったねフラン。あたしがもっと上等な冒険者たちを雇っていればこんなことにはならなかったのに」
フランと呼ばれた少女が、恐怖で手足を震わせながらも母親を気遣うように声を出す。
「大丈夫。わ、わたし……は、お母さん、の自慢の、娘だから」
野盗が荷馬車の中にいる二人をわざとらしく大きな動きで萎縮させ、淡々と略奪を進めていた。
その時、どこからともなく一本の剣が真っすぐ飛来し、荷馬車に乗った野盗の一人の首を突き刺した。
「あ、あが……?」
最初に異変に気づいたのはリーダー格の男だった。
剣による狙撃……?
違う。矢で攻撃してこないなら、相手は接近戦を得意とする剣士のはず!
と思い、すぐさま仲間たちに陣形を整えるようにハンドサインを出した。
しかし、陣を整えるよりも早く、様々な方向から剣が野盗の首へ正確に命中していく。
「どこだ卑怯者め! 姿を表せ!」
「お前たちに見せる姿なんてない。このまま死の恐怖を味わいながら死んでいけ」
「クソが!」
悲鳴を上げる隙すらなく、襲いかかる剣が次々と野盗たちの喉を貫いた。
野盗たちは血の雨を降らせながら倒れていく。
だが、ここでリーダー格の男は逃げ出さなかった。
左右の長さが違う剣を二本鞘から音を立てて引き抜き、飛来する剣を三度弾き飛ばす。
「はっ! こんな程度で俺が殺せるかよ! 甘いんだよ兄ちゃん!!」
「ああ、そうだろうな」
敵の背後を取ったレルゲンが容赦なく首を斬り落とす。
レルゲンが返り血の付いた剣を払い、その場を立ち去ろうとすると、背後から声がかけられる。
「ありがとう、旅のお人。あんたもこの先でやる闘技大会に出るんだろう? 名前を聞かせてもらってもいいかい? 応援させておくれよ」
「いい。感謝されるために助けたわけじゃない。それよりも、今見たことは忘れてくれ。それだけが俺の願いだ」
「わかったよ。本当にありがとう。もしまた会ったら、精一杯のおもてなしをさせてもらうからね!」
言葉はもう返さず、レルゲンは闘技大会の開かれる街を目指して、再び歩みを再開した。
途中、また野盗が潜んでいないか警戒しながら進んでいったため、少しだけ予定よりも遅くなった。
先に安全を確保しないと、あの二人を助けた意味がなくなってしまう。
エントリー期日はもう少し先だが、早めに済ませなければとレルゲンは考えた。
――もう余計な手出しをするのはこれっきりにすると。
だが、街に入り手ごろな宿を見つけたところで、レルゲンは数日前に助けたはずの女性と、その子供がいる宿で寝泊まりをすることになる。
「おや? なんだあんたかい! 忘れてくれって言った割にはそっちから訪ねて来るなんてね!! 心変わりかい?」
「大きなお世話だ」
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