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亡国の天才魔術師レルゲンの成り上がり~孤独だった俺を救ったのは、命がけで護った敵国の王女でした~【16万pv作リライト版】  作者: 雪白ましろ
第一部 絆の糸編

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33話 私の騎士

「はい、ここにいる騎士レルゲンと共に」


 集まった貴族が騒がしく話し始める。


「静粛に。あなたは王位継承権第一位です。このまま行けば次期女王となるでしょう。危険を冒してまで出向く必要は、本当にありますか?」


 ここで普段優しく、そしてよく笑うセレスティアの表情が引き締まり、女王を強い意志の瞳で見つめる。


「王国民なくして国は成り立ちません。空っぽの玉座に座れたとて、それは本当に王国と呼べるでしょうか? 私はそうは思いません。今こそ位の高い者が、自らの手で救いの手を差し伸べなくてはならないのだと、私は強く思うのです」


「……分かりました。あなたのその強い意志に、王国民の明日を託しましょう」


 女王が一度窓の外をどこか遠い眼差しで見つめてから、今度はレルゲンへと視線を戻した。


「騎士レルゲン。あなたにもこの疫病とも呼ぶべき負の連鎖を断ち切ることを命じます。よろしいですね?」


 レルゲンにとって中央王国は、自分に新たな居場所を与えてくれた恩がある。

 だが、どうしても言わねばならないことがあった。


「お言葉ですが女王陛下――私はここにおりますマリー王女殿下の専属騎士にございます。皆様からの厚いご支援を賜り、今日まで務めさせて頂いております。しかしながら、マリー様のご意思なくして、お側を離れることはできません。どうかご容赦を」


「マリー、あなたはどう思われますか?」


 優しく問い直す女王に、マリーは毅然とした態度で答えた。


「私の側を離れての極秘任務――騎士レルゲンにお命じ下さい。私はもう、護られるだけの姫ではございません。一刻も早く、この危機を解決できるのは騎士レルゲンです。どうか、ご無事で」


 意外にもセレスティアとの極秘任務を、マリーはあっさりと認めた。

 主君が許した以上、レルゲンに拒む理由はない。


「女王陛下。その任務、騎士レルゲンが拝命致します」


「わかりました。セレスティア・ウノリティア、そしてレルゲン・シュトーゲンに王国の明日を託す王命を下します」


 謁見の間での王命が下されてから、セレスティアの自室にレルゲンは呼び出された。

 出発は早い方がいいが、お互い組むのは初めてで、事前の打ち合わせが必要だからだ。


「出発はいつにしますか?」


「早ければ今夜にでも。俺の念動魔術でセレス様を空中にお連れして、川の上流へ一気に向かいます」


「わかりました。これから私の使える魔術を全て伝えます。決して他言しないで下さいね?」


「そんな最重要機密を……俺に明かして良いんですか?」


「いいのです。今回は初めての任務ですし、共に戦うのも初めてなのですから。ですが、一番の理由はあなたを信じているからです。マリーとの継承権争いになったとしても、あなたならきっと……」


「きっと?」


 ここでセレスティアが顔を逸らす。

 その先はなんと言おうとしたのだろうか。

 それこそきっと教えてくれないだろう。


 セレスティアの魔術は本当に数が多かった。

 攻撃に防御、相手を撹乱するための幻惑に隠蔽。果ては仲間に対する支援まで網羅している。

 特に攻撃魔術と支援魔術は群を抜いて種類が多い。


 頼りになる実戦的な魔術をいくつも持っており、組み合わせ次第で様々な応用ができそうだと、レルゲンは感嘆した。


「……すごいです。セレス様の魔術は」


「以上が私の持っている全魔術になります。覚えられましたか?」


「はい。セレス様はもしかして、いつか自身で出向けるようにずっと準備していましたね?」


 セレスティアは驚いて目を大きくしながら、何度も瞬きをした。


「いつか私も、マリーのように王国を飛び出して、冒険してみたいと夢に見ていたのですよ? だから、妹に先を越されたときは嫉妬してしまいました」


 笑いながら話してはいるが、頭の中での戦闘訓練はいつもしていたのだろう。

 習得した魔術を聞いてレルゲンは理解した――やはり姉妹だなと。


「今回はあまり冒険という感じではありませんが、できる限り私も補佐します」


「それでは短期的ですが、私専属の騎士になってくれるのですね? それは嬉しい申し出です」


「そこまでは言っていません」


「ふふふ、冗談ですよ」


「では、陽が落ちたときにまた」


「ええ、また後で」


 寂しそうな目をするセレスティアに別れを告げ、準備する為に自室へ戻る。するとそこにはマリーがいた。


「どうしたんだ? 一人で」


「あなたの準備を手伝おうと思って」


 感情を押し殺すように、マリーの表情からは感情を読み取ることはできない。


 マリーをこのようにしているのは、セレスティアとの任務が原因なのは、誰の目にも明らかだった。


「それはありがたいけど、準備くらいは自分でできるさ」


「それくらいしかできないもの――やらせて」


「……わかった」


 携行する水と食料。黒龍の剣は重すぎるのでレルゲンに任せ、帯同させる鉄の剣を三本。

 そして飲料タイプの回復薬をマリーが準備していく。レルゲンは機械的に手だけを動かすマリーをじっと見つめていた。


 簡易的な包帯を含めても、荷物はマリーと旅をしていた頃より少ない。


「こんなに少なくていいの?」


「そんなに長い任務にはしてられないからな」


「……そうね」


 しばらくの間沈黙が続く。

 まだマリーは自室に戻ろうとしない。

 それを見かねたレルゲンが声をかける。


「大丈夫さ。黒龍の剣もあるし、今回は隠蔽魔術を使えるセレス様もいる。上手くやれるさ」


「ええ、そうね……」


 なかなか煮え切らない様子のマリーに、レルゲンはあえて口にした。


「やっぱりセレス様と二人で行くのが納得できないのか?」


 マリーの中にある気持ち――その言葉を聞いて顔がぐしゃっとしながらも、マリーは涙だけは流さないと、レルゲンを真っ直ぐ見つめた。


「そうよ……そうよ!! あなたがセレスティアと二人だけで任務に行くことが本当に気に食わないわ!! でも! でも……! 私じゃ隠蔽魔術も使えないから、あなたの支援もできない。戦う方法だって似ている。どうしても二人だけで戦うには向かない。わかってる……ええわかってるわ!! でも……!!」


 ここで抑えていた心の悲鳴が、涙となって頬を伝った。


「あなたは私の騎士。私だけの騎士なの! それなのに……!」


 レルゲンが無言でマリーを抱きしめる。

 最初は抵抗を見せたが、それでも強引に抱きしめ続ける。抵抗は徐々になりを潜め、レルゲンの裾を強く掴んだ。


 声には出さない。

 だが、この気持ちはもう……抑えていられない。


「……大丈夫――俺は君の騎士だ。

 将来何があろうとも。それだけは安心してくれ」


「“私だけの騎士”って誓える?」


「俺は、誓いたい――そう遠くない未来、継承権二位の君が一位の座を狙うなら、セレスティアと戦うだろう。だが、俺はセレスティアに刃を振るうことは出来ない。――俺も元王族だ。姉妹兄弟でずっと仲良くしていられるとは限らないのは理解している。でも、思うんだ」


 レルゲンがマリーの肩を掴んで、言葉を探すように口を開く。


「もし継承権争いになっても、仲良くできる未来があったら、俺はその未来を掴みたい。マリーはセレスティアと戦いたいわけじゃないんだろ?」


「ええ、大切なお姉様よ」


「なら、一緒に難しい未来を掴みに行こう」


「“先に”あなたと一緒になるのは私だからね」


 ここで気持ちに整理がついたのか、マリーの表情が明るくなり、大きな釘を刺した。


「考えが飛躍しすぎじゃないか?」


「いいから」


 座っているマリーに近づくと、マリーが上を向き、目を閉じる。


 少しずつ二人の距離が縮まり、そしてマリーの額に口付けをする。

 予想と違うところだったのか、マリーが口に手を当てながら不満を漏らした。


「こっちにはしてくれないんだ」


「それはまだとっとけよ」


 マリーは恥ずかしがりながらも、笑顔で一言だけ返す。


「わかった」


 出発の時がやってきた。

 レルゲンとセレスティアが、王宮の最上階にある屋上庭園で最終準備をする。


 黒いフード付きの上着を被り、影と呼ばれる諜報部隊に近い格好に身を包む。

 傍らにはマリーと女王が見送りに来ており、女王はまだ心配そうな表情をしていた。


「ではお母様、マリー。行って参ります」


「どうかお気をつけて。騎士レルゲン、セレスをよろしくお願いします」


「この命に代えましても」


 マリーは女王とは対照的に笑顔で二人を見送る。その表情はどこか晴れやかだ。


「セレス姉様、レルゲン。任務達成を祈っています」


「ありがとう」


「ああ、行ってくる」


 陽が落ち、仄かに暗くなりつつある夜空へ、輝く星々に向かって飛び出していく。


 飛んでいく二人を見送るマリーと女王。

 レルゲンたちがあっという間に山々の地平線まで飛んでいき、そして見えなくなる。

 その影を追うように、見えなくなってからもマリーはしばらく、レルゲンを見つめ続けた。

あとがき

ここまで読んで下さりありがとうございます。

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