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亡国の天才魔術師レルゲンの成り上がり~孤独だった俺を救ったのは、命がけで護った敵国の王女でした~【16万pv作リライト版】  作者: 雪白ましろ
第一部 絆の糸編

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32話 インフラ攻撃

 これは症状と言っていいのか分からないが、魔力量が急激に伸びて、性格が少し荒っぽくなった子供がいるとのこと。


 これは医者ではなく、研究所で調べる必要があるのかもしれない。

 そう感じたレルゲンが、カノンに件の書類を渡す。


「むぅ……これはうちの案件かもねぇ」


 なんともやる気の出ないカノンの声は、本当に面倒くさそうだ。


「まぁ、俺もやれることはやるから」


「頼り切って悪いねぇ……ほんと助かっているよ。うちの研究員に、この症状が出ている親御さんへ話を聞きに行かせる。仕事ができたら助手君にも作業を頼むよ」


 一度日を改めてから、レルゲンはカノンから呼ばれて研究所へと向かう。

 以前よりも遥かに積み上がった書類の山がカノンに向かって倒れ、レルゲンが書類の雪崩を空中で静止させた。


 カノンの表情は、少し改善したと思っていたクマが再び色濃く浮き出ている。


「カノン、また寝てないのか?」


「やぁ、レルゲン助手……よく来てくれたってことはもうその日か……」


 口ぶりから察するに、また数日寝ないで研究に明け暮れていたのだろう。


「仮眠とってからでもいいぞ」


「優しいね。でも、まずは説明が先だ。魔力量が急激に伸びた子供についてだが、血液検査をしたところ、“ある物質”が検出された」


「ある物質?」


「――粉末レベルまで細かくされた魔石さ」


「それってこの前、王立図書館で見せてくれた、あれか?」


「そう。これは本格的に非常事態かもしれないってわけさ」


 カノンがこの前図書館で見せてくれた、特別な本と言われている書物の一つに“人間の魔物化”という禁書がある。


 内容はある実験好きなヨルダルクの科学者が、人体実験を行うために奴隷を用意し、魔石を含んだ食事を与える。

 魔石を体内に取り入れることで、強化人間を作るという実験だった。しかし、実験対象は一人として例外なく中毒症状を起こし死に至り、研究は早々に頓挫した。


 その失敗した研究に適合する人物がいるのかは疑問だが、実際に会って色々と調べてみる必要がありそうだ。


 早急にこの子供を確保する為に王国の騎士が動いた。だが、既にその子供は姿を消してしまう。単なる行方不明なのか、それとも殺されたのかもわからないまま、事態は迷宮入りしてしまう。


 この結末から、何者かが裏で意図的に王国民の生活を脅かしていることが判断される。

 中央王国は、商人達の検閲など、外から入ってくるものに対して警戒を強化する方針が決定された。


 警戒を強化しても王国民は衰弱する一方。

 飲食店は軒並み一時閉店を余儀なくされた。


 調査の方法を一から考え直すために、会議が研究所で開かれるが、中々具体策は出てこなかった。


 何らかの方法で体に粉末状の魔石が入っていることは確かで、それがどうやって気づかないうちに摂取しているのかがわからないでいた。


 魔力量が高い魔術師の影響は少ないが、逆に魔力があまり高くない騎士連中は体調を崩すものも出てきた。


 これ以上、このまま原因が分からない状況が続けば、他国からの侵攻も想定した国家の非常事態宣言の発令もあり得る。


「食べ物は検閲が強化されている……大気中の魔力濃度も地脈からの供給を考慮すれば許容範囲内。残すは……水、なんてことはないか。商人から水なんてこの街には必要ないし、売りにも来ないですし」


 一人の研究員が独り言のように可能性を潰していくが、やはり具体策は出てこない。


「疫病対策で薬も出していますが、時期が合いません。内部に協力者がいるということも考えづらいかと」


 再び研究員たちが唸りながら考え込む。

 飲食物ではない場合、他に可能性があるものは思いつかない。

 混入手段がわからないというのが現状だった。


 他にも気になる報告が上がっていないか調べていると、ある一つの報告書がレルゲンの目に止まった。

 鍛冶屋街で作成する武具の性能がどの店も何故か上がっているというものだ。


「カノン、この報告が気になる。一度現地を見に行ってもいいか?」


「あぁ、これね。ふむ……時期も報告が出始めたときと重なる。何かあるかもだ、気になるなら行っておいで」



 レルゲンとマリーが街を歩いて鍛冶屋街を目指す。つい先日マリーと街を歩いたときとは様子が全く違った。

 道ゆく人々はまばらで、出店はどこもやっていない。閉めている店の方が多かった。

 活気で溢れていた街は、どこか遠くへ行ってしまったかのようだ。


 閑散とした通りを抜けて鍛冶屋街へ入ると、今まで寒く感じる街並みと比べて、暖かく感じる。

 鍛冶職人は日夜、腕を磨くべく槌を振るい続けていた。一日も無駄にできない焦燥感のようなものがあるのだろうか。


「ドライドさん、いるか?」


 少し待つと、奥から屈強な肉体の持ち主が現れる。


「よぉ、レルゲンの旦那。今日はどうした? マリー嬢ちゃんまでいるじゃねぇか? また武器の発注かい?」


「まずはお礼を。この首飾り、とても気に入っているわ。ありがとう――でも、今日は発注ではないの」


「いいってことよ、いつもうちを利用してくれているんだ。あれくらいは色つけさせてもらうぜ。でも発注じゃねぇってんなら、今日はどんな用向きだい?」


「この報告書についてなんだが」


 レルゲンはドライドが出した報告書を手に、ここへきた理由を説明する。


「……なるほどな。中を案内するには構わないが、あまり役に立てないと思うぞ」


「大丈夫だ。今日はお礼に来たようなものだから」


「そうかい、じゃあこの前みたいに順番に見せていくぜ」


「よろしく頼む」


 順に見ていったが、気になる工程はない。

 普段通りの作業工程だ。

 だというのに、何故か魔剣を作成するはずのない剣が魔力を微量ながら放っている。


 レルゲンはこの工房に入ってから――否、この鍛冶屋街の通りに着いてから、魔力感知を展開していた。魔力感知に引っかからない程度の魔剣。

 それは、もう魔剣ではなく――


「こりゃダメだ、“粗悪品”だな」


 そう。ドライドの言う通り、性能自体は上がっている。だが、純粋な剣でも魔剣でもない。

 いわゆるどちらでもない半端な品と言える。


 粗悪品を王宮に卸す訳にもいかないと、ドライドが試作品すら出さなかったのがこの剣なのだ。


 レルゲンがこの粗悪品から発せられる、微量な魔力を感知できるまで感覚を鋭くする。

 すると、魔力の層が幾重にも折り重なり、少しずつ剣が粗悪品へ変化する工程を辿っている――そんな感覚を肌で感じ取った。


 レルゲンが再度ドライドに尋ねる。


「この剣ができるまでに、毎回やる工程って何かあるか?」


「毎回やる工程ねぇ……? 鉄や素材をまず棒状に整形するだろ? そんで窯で熱してから叩いて伸ばす。その後は冷やしてまた熱して叩く。この繰り返しだな。毎回やるってのとは少し違うが、何度もやるってんなら熱する、叩く、冷やすだな」


 マリーが呟きながら復唱する。


「窯で熱して、槌で叩いて、水で冷やす」


 ここで一人の研究員が、水は商人からも買わないという言葉を思い出す。


 水、みず……みず!!


 マリーが閃いたように「あっ」と呟く。


「レルゲン。私の料理から毒を取り除いたみたいに、「細かい魔石」を取り出す事ってできるかしら?」


「できる……はずだ」


「試してみて欲しいことがあるの」


「わかった。どれにその魔石があるんだ?」


「冷やしている時に使う『水』よ」


「ドライド、案内してくれ」


「あいよ。ここに溜めてある水を使って剣を冷やしているぜ」


「よし」


 意識を水に集中し、物質分離の念動魔術をかける。今回分離するのは水と魔石。


 水面が波立ち、溜めていた全ての水が持ち上がる。すると水から目に見えないほど細かい粒子のような粉が立ち上り、一点に集中して固められていく。


 王宮にある浴場と同じくらいの水量から抽出されたのは、砂粒程度の小さな魔石。

 だが、この街を救う大きな成果だ。


 ――謁見の間にて。

 主力貴族と騎士団、そしてセレスティアに普段は研究所にこもってなかなか姿を見せないカノンですら、今回の会合には集まっている。


 全員が揃った所で女王が状況を確認する。


「つまり、この報告書を読むと鍛冶屋街に供給されている水は“この街を流れている川”であり、王国民の誰しもが口にしている生活用水に、目に見えない粒子状の魔石が混入させられていたということですね? マリー、そして騎士レルゲン」


 マリーが一歩前に出て女王に追加調査の結果を報告する。


「はい。この街に入ってくる川をしばらく上流まで調査員を派遣して水を持ち帰らせ、騎士レルゲンの魔術により確認いたしました。分離の瞬間は私も立ち合い、間違いないと進言します」


「わかりました。マリー、そして騎士レルゲンも大義でした」


「勿体なきお言葉」


 ここで、セレスティアの支援貴族の一人であるドットハム卿が発言を求める。


「恐れながら申し上げます。王国民の体調は悪くなる一方です。ここは大規模調査団を川の上流に派遣し、原因を一刻も早く除去するべきです」


 だが、ここで異を唱えたのは、支援されているはずのセレスティア本人だった。


「お待ちになって下さい、ドットハム卿。このセレスティア、貴殿のお気持ちは痛いほど理解できます。しかしながら今、国が弱っている中で騎士団の大部分がここを空けてしまった場合、王国民は誰が護るのでしょうか?」


「しかしそれでは……」


 セレスティアが女王であるダクストベリクに向きを変え、力強く意見する。


「女王陛下、ここは少数精鋭で原因を除去し、王国の守護は騎士団に任せるべきだと進言致します」


 女王が目を閉じて考える。

 数秒の間、謁見の間が静まり返り、再び女王が口を開いた。


「セレスティア。あなたが現地に行くと、そう言うのですね?」

読んで下さってありがとうございます!

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ぜひ皆さんで作品を盛り上げて下さいね!

よろしくお願いしますー!

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