23話 脂汗の滲む尋問
「……っ!! お前は新しい第三王女の!」
「そうだ。なぜ俺が来たか、もうわかるな」
フィットが逃げるように隠し扉へ向かうが、動き始めた瞬間に、念動魔術でその場に縫い止められる。
「お前は俺の主を殺そうとした奴だ。今すぐに殺してやっても良いが、奇妙な事を言っていたな。――マリーを殺せないと、“誰が困る”んだ?」
「そんなこと言えるわけがないだろう! くそ! なぜ身体が動かないのだ!!」
「そうか、言えないか」
念動魔術でフィットの左手の小指を捻じ曲げる。苦悶の表情と共にフィットの額から脂汗が吹き出た。
レルゲンがフィットの耳元まで近づき、小さく囁く。
「大丈夫だフィット。お前の指はあと九本ある。ゆっくりいこうじゃないか」
「この悪魔め! もしも言ったら私は殺される! 言えないのだ……頼む、もうこれ以上は!」
続いて左手の薬指がありえない方向に捻られ、再び悲鳴が部屋を包む。
「言っておくが、このクズを助けるつもりなら問答無用で拘束させてもらう」
レルゲンが悲鳴を上げ続けるフィットの髪の毛を掴み、静かに囁く。
「もし今話すと言うなら、お前の身の安全は保証しよう。話さないなら次は中指だ」
レルゲンが使用人の方へ向き、回復薬は常備しているか問う。
「飲料タイプがございます」
「主人思いのいい部下を持っているじゃないか。これであと三十八回は尋ねられる」
ここでフィットの心が完全に折れた。
観念したようにフィットが口を開き、レルゲンは驚愕と共に少しの笑みを見せる。
宮殿をフィットとともに後にする。
言いつけ通り、メイドは宮殿近くの影に身を潜めていた。
フィットは念動魔術で女王へ引き渡すために浮かせている。
一度マリーの自室まで二人を連れて戻った。
バルコニーの窓を軽く叩くと、
そこには毒抜きされた料理を食べ終えたマリーが迎え入れた。
「結構早かったじゃない。で、二人共とも連れてきたのね」
「ああ、俺はこいつから直接聞いたが、女王には本人から説明させる」
「よく正直に話したわね」
マリーがフィットに詰め寄るが、魔力糸を瞬時にフィットへ繋ぎ、話せばもう一本折る、と念話で告げる。
すると、フィットはただ下を見つめるだけだった。
「マリーも来るだろ?」
「ええ、いくわ」
謁見の間で女王に説明するときに、傍らにはセレスティアの姿もあった。
セレスティアに手を振って挨拶されたので、レルゲンは立ち止まり頭を下げて挨拶を返す。
「事情は理解しました。すぐにでも処断を行いたいところですが、“背後にいる黒幕”も気になります。フィット伯爵は勾留。メイドのあなたには無期限の暇を与えます。それで構いませんか? マリー」
マリーが無言で頷く。
「薬学研究所には第二王女のカノン・トスレティアがいます。彼女にはまだレルゲン殿は会った事がありませんでしたね。セレス、案内をお願いできますか?」
「承りました。女王陛下」
ここでマリーが待ったをかける。
「お言葉ですがお母様。案内でしたら私がレルゲンを連れて行きます」
優しく諭すように女王が告げる。
「いいえ、マリー。あなたにはハクロウを護衛につけ、安全な部屋で待機してもらいます。わかってくれますね」
「……承知致しました」
マリーは不満げに唇を尖らせるが、女王の命令ではなくお願いを飲み込んだ。
話がまとまったところで、セレスティアがレルゲンの下へ向かう。
「ではレルゲン、参りましょう」
「承知致しました。女王陛下、マリーをよろしくお願いします」
「はい、任されました」
薬学研究所――もとい魔術研究所に向かう途中に、レルゲンは物質分離の念動魔術が役に立ったことをセレスティアに伝えた。
すると、セレスティアが堪えるように笑った。
「昨晩遅くまで対策を話し合ってよかったですね」
一部の貴族がこの会話を聞いたら、きっと白目を剥くだろう。
「全くです」
レルゲンも笑って返すが、心から笑えているわけではなかった。
頭を切り替え、気になっていたことを尋ねる。
「セレス様、フィットとはどのような人物なのでしょうか?」
「フィット伯爵は、第二王女であるカノンの『支援貴族』になります」
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