214話 天界から降り注ぐ、光の柱
――なんて重い一撃……!
召子の聖剣が少しずつ押され始め、地面が深く抉れていく。
絶対に果たさなくてはならない復讐の念が、聖剣と同じ大きさに変えられた小刀を振り下ろす力を後押ししていた。
「私はこんなところで……! 足踏みしているわけにはいかないのだ!!」
魔王メアリーが吠えたと同時に圧が強く放出され、召子は身体がビリビリと痺れて硬直する。
「ぐっ……!」
すかさずフェンが助けに入る。
レベルアップボーナスで動けるようになったのは召子だけではなかった。
自慢の前足で魔王メアリーの横腹へ繰り出された切り裂き攻撃は、爪が肌に接触する寸前に止められ、空中で固定される。
「グランドでもないフェンリルが、私に触れられると思わないことだ!」
目に見えない圧力がフェンを襲い、吹き飛ばされて瓦礫に強く衝突する。
両足でもがくが、身体を起こすことすら許されなかった。
「フェン君! この……!」
抉れた地面へ押し込まれそうになる召子は、一段と腰を落として踏ん張る力を上げる。
「アアァァア!!」
呻き声にも似た気合いを上げながら、少しずつ魔王メアリーの剣を押し返していく。
「まだそんな力が残っているか。だが、私は君を絶対に手に入れて服従させる! 絶対にだ!」
押し返したのも束の間、再び魔王メアリーの剣が聖剣を押し込んでいく。
――これ以上は、もう……
少しずつだが着実に押し込まれていく聖剣は、召子の固い決意を崩していく。
諦めかけて目を閉じようとした瞬間、再び聖剣が意思を持ったように押し返し始めた。
まるで、見えない手が召子の聖剣を使って押し返しているような感覚。
その力の正体は、オレンジ色の光を纏わせて聖剣を支えている一つの存在。気絶していたはずのレルゲンの右手が、召子の聖剣に向けてかざされていた。
マリーとセレスティアはその力の主を見つめる。大粒の涙が自然と溢れ出ていた。
「本当に君はしつこいな。レルゲン・シュトーゲン……!」
すると、押し返していく聖剣から白い翼が一対出現し、天使の翼を思わせる姿がメアリーの感情を強く逆撫でした。
「君まで私を裏切るというのか! 召子……!」
召子は答えない。しかし代わりにレルゲンが口を開いた。
「――治れ」
左眼から顎にかけて乾いた血の跡が残っているが、両目を閉じてから再び開くと、完全に潰されていたレルゲンの眼が機能を取り戻していた。
心念計の針は上限を振り切り、とてつもない速度で回っている。全員が重力で押さえつけられている中、クラリスの表情には焦りと驚き、そしてどこか懐かしむような感情が入り混じっていた。
「魔王メアリー、お前は……」
レルゲンが何か伝えようとした瞬間、突如として空から三本の光が降り注ぐ。
まるでレルゲンが放つ光線攻撃、またはセレスティアが放つハイリッヒ・グリッターに近いような光の柱。
光の柱が降り注ぎ、三人を同時に焼き焦がさんとする悪意に満ちた攻撃。
その最中、どこからともなく声が響いてくる。
『私達は世界の秩序を護る者。魔王と勇者、そして異分子のレルゲン・シュトーゲンにはここで退場して頂きます』
――間違いない、この声は忘れもしない……!
「天使ぃいいい……!!!!」
メアリーは苦痛に顔を歪めるどころか、血管が浮き上がるほどの激情を身体中から噴き上がらせ、青いオーラを放ち始める。
しかし、そのオーラとは裏腹に魔王メアリーの身体は崩壊を始める。少しずつ、しかし着実に塵へと還っていく。
このままでは魔王メアリーが一番早く完全な塵となるだろう。
その時、レルゲンの胸ポケットからウルカが飛び出して召子に向けて指示を飛ばした。
「その聖剣から出ている天の翼は光の柱を中和できる! メアリーを護ってあげて! あなたにしかできないの! 召子!」
「……!!」
すかさず聖剣を光の柱が降り注ぐ空に向けて伸ばすと、助言通りメアリーの崩壊速度が緩やかになる。
『純精霊、余計な真似を……!』
天からウルカに向けて、鬱陶しいという明確な負の感情が降り注いでくるが、これを完全に無視してレルゲンを見る。意識を取り戻した直後に襲ってきた攻撃は、容易に再び意識を奪おうとしてくる。
黒龍の剣を地面に突き刺して必死に意識を繋ぎ止めるが、保ててあと数秒。
行動は許されず、されど正義の光とでも言いたげな圧に身体が悲鳴を上げる。
レルゲンがマリーを見る。
言葉にはならない。
それでも、一縷の望みをかけて念じた。
――この状況を何とかできるのはマリーしかいない……! 頼む!!
レルゲンが表情で訴えかけると、ハッと我に返ったマリーが、持っている二種類の加護を思い出す。
――絶対切断の加護と、隷属の加護……!
やったことはない。だがやらなければそこで必死に耐えている愛する夫を、そして召子とメアリーを護れない。
神剣を握り直し、マリーは意識を集中させる。
「その光、全て私が断ち切ってみせる……!!」
神剣が白く力強い発光を見せ、三人に降り注ぐ光の柱へ剣を潜り込ませる。
――パリィンン!!
大きな破裂音とともに、バラバラと硝子を砕くように光の柱が音を立てて崩れ去っていく。
解放された三人は満身創痍だったが、命に別状はない。
やりきったマリーは大きく息を吐き出して安心した。
レルゲンはすかさず天界と繋がっているであろう次元の狭間を見て、セレスティアにカウンターを願う。
「セレス! 俺とウルカ、残っている魔力を全部渡す! 全力の一撃をあの次元の狭間に向けて打ち込んでくれ!」
すぐにセレスティアに魔力糸が繋がれて、途轍もない魔力が流し込まれた。
無駄にならないようにセレスティアは必死に体外へ逃げようとする魔力を留め、そして唱えた。
「天界の使者よ、受けるがいい!! ダブルキャスト・マジック――ハイリッヒ・グリッター!!」
青く染め上げられた複合魔術は、一本の光の柱のような巨大な一撃となり、次元の狭間へと吸い込まれる。
天界がどんな被害を受けているか全くわからないが、それでも、三人に残された全魔力を集約した攻撃は、天を衝きながら大きな爪痕を残した。
これ以降、正真正銘――天界とは敵対関係になる。だが、マリーとセレスティアは微塵も後悔していなかった。
しばらく経ってから、再び天界からの声が聞こえてくる。
『やってくれましたね、マリー・トレスティア、セレスティア・ウノリティア……そして、"世界の神よ"。今回は引かせていただきますが、今度またお会いすることがあればすぐにでも粛正させて頂きますので、悪しからず」
次元の狭間は完全に閉じきり、怪しく空が光るのみだった。
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スピンオフ短編もあります!
「悲恋の掌握者、ディシアは自分の足で歩いていく」




