201話 呪いの弾丸
マークスが新たに取り出した銃は、投げ捨てた物よりも更に小型。
先端が針のように尖った鋭利な外観は、小さなレイピアを思わせる。
「お前さんは俺の武器の弾道を変えられるようだが、コイツならどうだい?」
引き金に指をかけ、撃鉄が起こされる。
その見た目とは不釣り合いなほど大きな発砲音は、真っ直ぐスティルへと向けられた。
何度やっても軌道を変えるつもりだったレルゲンは、再び強固に念動魔術を発動させてスティルの身を護ろうとする。だが、今度は先程よりも曲げられる角度がやや緩やかになった。
スティルの肩を掠めながら地面に突き刺さった銃弾には、細い糸のような物が発射口から伸びていた。
すぐに異変に気づき、レルゲンは魔力糸を疑ったが、魔力によるものではなく実体を伴った何かしらの線がピンと張られている。
攻撃を仕掛けた方も、受けた方も――予想外の結果。
お互いに驚いた表情を相手に向け合い、距離を取る。
「今のでもダメかい――参ったねどうも」
マークスは発射口から伸びている線を切断し、小型銃を持っている手で頬をかいた。
「あんた、さっきの攻撃は細く長い杭をその銃から撃ったな?」
「初めの一発でもう見破るのかい。銃は前に見たことがあるのかな」
「さぁな――次は長い杭をへし折るくらいの魔術強度で掛けさせてもらう」
「なるほど、そんなことも出来るのか。せめてそこに寝転がっている裏切り者だけは始末させてもらいたいねぇ――たとえ最後の奥の手を使ったとしても」
まだ手札を隠し持っていることを公言しても、マークスには魔王に害する可能性のある研究者だけは討ち取るという覚悟があった。
標的が勇者である召子からスティルへと移り、最後の一撃を放たんと無詠唱で隠蔽魔術を発動して姿を暗ませる。
「セレス……!」
セレスティアがディスペルを発動するべく片目で熱感知をするが、マークスが高速で部屋中を駆けているため狙いが定められずにいた。
「敵は隠蔽魔術を発動しながら高速で動いています! ディスペルの狙いを付けられません……!」
レルゲンが咄嗟にスティルの目の前に移動し、マークスの足音だけを頼りに意識を集中する。
――これだけ高速で動いているにも関わらず、ここまで足音を消せるのか。
目を閉じ、集中して気配を探ると、あざけるようにマークスの声が至る所から聞こえる。
「これから撃つのは呪いの弾丸――どうしてそんなことを教えるのか疑問だろうが、こいつは魔術越しでも触れた時点で効果を発揮する。解呪方法を伝えることで更に呪いの威力は上がる。
方法は一つ、呪者の俺を殺すこと。それを踏まえて本当にそいつを護るのがベストかどうか、考える時間は与えないよ。お前さんも勇者と同様に危険戦力だ。これで共倒れしてくれるなら願ったりだよ」
声が止み、一瞬の静寂が訪れる。
レルゲンはスティルに掛けている矢避けの念動魔術を解除し、その場から歩いて離れる。
レルゲンを責める者はいない。当事者のスティルさえも、間違った選択とは思っていない。
もう誰もマークスを止めることはできないと感じていた。ただ一人を除いて。
マークスの最後の奥の手が放たれる。
銃声はしない――弾が風を切る音もしない。
しかし、その代わりに絶対に呪い殺すというジャックとはまた違った必殺の思念が込められていた。
マリーが敏感に反応し、無意識にレルゲンを見つめる。
「――戻れ」
放たれた言葉は念動魔術によるもの。
だが、魔術によって呪いに触れているわけではない。矢避けの念動魔術は、遠距離からの飛来物から身を守る、薄い膜を纏っている状態に近い。しかし今回は、その膜に接触してから発動させる念動魔術ではなかった。
両者で決定的に違うのは攻撃に触れるのか――触れないのか。
言葉による非接触の念動魔術は、マークスの呪いの弾丸を完全にコントロールし、狙撃主の元へと軌道を変更する。
「……魔術では、ないのかッ!!」
自身に戻ってくる呪いの一撃から逃れようと、マークスは額に大粒の汗を浮かべながら部屋中を疾駆したが、レルゲンの一言で心が折れかけた。
「その弾は"どこまでも"お前を追い続ける」
「……っ!! まさか、それは魔王様やクラリスと同じ……!!」
「なんでもいいさ。弾より速く動いて逃げ続けるんだな」
部屋から飛び出し、なおも弾から逃げるマークスは、本当の意味で死の呪いを実物のものとした。当たれば間違いなく傷の深さにかかわらず死に至る。
気配を完全に消したマークスは去り、レルゲンは横たわっていたスティルに声をかける。
「この代償は大きいぞ。命の恩人にお前は何を差し出せる」
スティルは満面の笑みを浮かべ、本心から感謝の言葉を返した。
「ありがとう僕の騎士君。やはり君は僕の研究に相応しい人材だよ。だからお礼に、僕の傑作をぜひ見てもらいたいんだ。ここにいる全員に」
「……どういう意味だ」
スティルは指をパチンと鳴らすと、部屋の端からいくつも銃に似た何かを出現させ、先端からレーザーのような物を照射する。
床にレーザーの光が辺り、真円に近い何かを描き始めた。
――これは、魔法陣か……!!
ディシアを除く全員の足元に、光で出来た魔法陣が一瞬で描かれた。
危険と判断しすぐに飛び退いたが、足元には移動先に追尾する魔法陣が待ち構えている。
まるで愛玩動物を眺める様な目つきで、スティルは両手を頬に擦り寄せながら声高く宣言する。
「――絶対に逃さないよ」
部屋を飛び出そうと入り口に目をやったが、そこには既に完成した転移魔法陣が鎮座している。
「やってくれたな、研究者」
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スピンオフ短編もあります!
「悲恋の掌握者、ディシアは自分の足で歩いていく」




