200話 引きずり出される情報交換
「まずは僕が聞きたいことから始めようと思う。歴史古しとあれど、そこまで多彩な戦闘術は初めて見た――君の魔術はどんな理論で動いているんだい?」
「俺の魔術理論を知って、魔王にでも報告するつもりなら諦めろ」
「はっはっは! 違う違う! 僕は確かに魔王様とは親しい間柄だが、そんなことをしたら逆に楽しみを奪うなって殺されてしまうよ」
スティルはやれやれと肩をすくめた。
側に控えているハーディは目を閉じたまま。
「なら次の質問だ。君たちの中には魔界に座標を固定できる高い技術者がいると思うんだが、それはどなたかな? 是非教えてくれないだろうか?」
「それを知ってお前は何を得る」
「僕の勝手な知的好奇心さ。研究者なら理解できるはずだ。理由のない好奇心に突き動かされるのが僕の、僕たち研究者の性とでも言えるだろう。僕の見立てでは青い髪の君か、杖を持っている君のどちらかだと思っているが、どうかな?」
レルゲンは小さくため息をついて、ディシアを見る。
「あなたの言う通り、転移魔法陣を構築したのは私です。ですが、私一人だけの力ではありません」
「そうか、君がここまでの大移動を可能にしたわけだ。僕は魔力が常に流れている地脈を目印に転移魔法陣を開発したわけだが、目印を一切付けないとなると多大な誤差が生じる。だが、その誤差を逆に利用して僕らからの観測範囲外からやって来たわけだ――だけど解せないな? それにしたって計測範囲外からやって来たにしては早過ぎる。どうやってこの短期間でここまでやってこれたのかな?」
会話は終始スティルがペースを握り、レルゲンたちはそれに答えずとも、引きずり出されるように持っている情報を引き出されてしまう。
ただ会話をするのではなく、相手と対等以上の情報を引き出すために、レルゲンは交換条件を出した。
「教える前に一つ条件がある。こちらが一つ情報をくれてやる時は、そちらも一つ欲しい情報をもらう」
「僕は魔王様を裏切れないけど、ちょっとくらいなら構わないよ?」
一言の内に矛盾するスティルに、ハーディは慣れた表情で棘のある一言を飛ばす。
「今の発言、裏切りと取られても知りませんからね」
「そうかい? 僕が話す程度の情報はきっと魔王様は気にしないと思うけど。それで、さっきの質問の答えを聞かせてくれるかい?」
「後ろに浮かせている剣と同じ方法だ。後はそっちで想像してくれ」
「なるほどなるほど! ふむ、では君の知りたいことは?」
「そうだな。まずは俺たちをずっと狙っている狙撃手について詳しく教えてもらおうか」
「ふむ、いいだろう。君たちを狙っているのは魔王軍幹部のマークスだ。結果を出すためなら手段を選ばないタイプだね。使っている武器は銃と呼ばれる物だ。この銃と呼ばれる物は過去にやって来た、勇者の仲間が使っていた技術を流用したものだね。この城へ最初に入って来た時に一斉攻撃を受けたはず。アレのように連射は出来ないが、一発の威力が高くなっていると考えるといい。どうかな? 満足のいく情報だっただろうか?」
「いや、足りないな。今まで戦ってきた幹部は等しく自信のある最後の手段を持っている。その手段はマークスにもあるはずだ。それを教えてもらおう」
スティルはわざとらしく困った表情を作り、どうしようかと呟きながら、今後自身に降りかかる厄介事を天秤に掛ける。
レルゲンは狙撃手のマークスが持つ攻撃手段がまだもう一手か二手あることがわかっただけでも収穫だと考えたが、スティルは更に交換条件を持ちかけてくる。
「教えるには一つ条件がある。マークスの狙撃を躱しているのはどうやっているのか。やっぱり人間のみ許された加護だったりするのかい?」
レルゲンは少し間を置いて考え、正直に話すかどうかスティルの目を見て考える。
この研究者にはきっと嘘は通じない。そう思えるだけの雰囲気を感じ取り、正直に口を開いた。
「銃の弾道を曲げる魔術を使える。仲間にもその魔術をかけている――常時な」
正直には話す。しかし余計なことだけは話さない――そう決めていたレルゲンは、念動魔術による応用とは言わずに、あくまでも弾道変更が可能な魔術と答えた。
「随分とマークスに対して有利な術を持っているんだね。なら奥の手でも君なら無意味になってしまう気がするけど、それでも知りたいのかい?」
レルゲンが頷くと、スティルが話し始める。
「いいだろう! マークスは普段から実弾を使っているが、魔力で生成された弾丸は遠隔で操作ができる。それに加えて実弾を発射した後に……」
――ズガァン! ガァン!!
「ずいぶんとお喋りな研究者だな。人の手の内をペラペラと」
銃声が響いた方向から、無音の体捌きで影が伸びるように歩いてくる者が一人。長い銃身を肩に担ぎつつ、逆の手でそれよりも小型の銃を持ち、半透明の煙が静かに立ち上る。
即座に全員が戦闘体勢に入るべく、席を勢いよく立った。それでもスティルは身体を撃ち抜かれながらも話を続ける。
「このように実弾を撃ち込んだ後に、魔弾を隠して発射するのが……」
再びの銃声が何度も部屋に響き渡る。
――矢避けの念動魔術。
素早く魔術を発動したレルゲンは、スティルに迫る銃弾を全てあらぬ方向に曲げ、天井に無数の穴が開いた。
「おいおい……そいつはお前たちの敵だろう? なぜ護るんだ?」
「まだ聞くべきことを聞いていないからだ」
「なるほど」
マークスは実弾を再装填するのではなく、空になった銃を床に投げ捨てて懐から新しい銃を取り出し、再びレルゲンたちへ狙いを定めた。
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スピンオフ短編もあります!
「悲恋の掌握者、ディシアは自分の足で歩いていく」




