198話 何を当たり前のことを言っているんだ?
「さっきとは比べ物にならない威力ね……!」
穴の空いた横腹を抑えながら、ヴァネッサはセレスティアを睨んで賞賛を贈る。
――これでもまだ致命傷にはなりませんか……! もっとスケールの大きな魔術行使が必要……!
最近はレルゲンやマリー、召子の補佐が増えてきたセレスティアは、自分の攻撃が有効になる敵と戦う回数が徐々に減ってきていた。
それは近接を得意としている三人の安定感が、磨きをかけて良くなっているため。
むしろ回復などの補助に魔力を多く回せて、いいこと尽くめに見えるがそうではない。
何事も成長するには、それ相応の修羅場が必要になる。
セレスティアは理解していた。
魔界に来てダブルキャスト・マジックが可能になり、確かに成長したのは間違いないが、それでも後一歩か二歩、まだ成長できる余地が残っていると。
ここで初めて無意識のうちにダブルキャスト・マジックを発動した時のことを思い出す。
フィルメルクのダンジョンで出会った十二層ボス――スケリトル・ファラルと戦った時に無我夢中で放った、水を氷に性質変化させてからの聖属性の付与による攻撃。
今にして思えばあれこそがダブルキャスト・マジックの足掛かりになったのは間違いない。
スケリトル・ファラルに有効打を与えた時も、大出力の氷で攻撃をしていたことを思い出す。
何かを閃いたセレスティアは、すぐにレルゲンへ伝える。
「レルゲン! 私に考えがあります!」
すぐにレルゲンがセレスティアの下まで移動して魔力糸による思念伝達で会話する。
『何か思いついたのか?』
『はい。前にダンジョンでスケリトル・ファラルを仕留める時に発動した魔術がもしかしたら有効になるかもしれません』
『……! 氷の聖属性攻撃か――わかった。こっちで奴の動きを何とか止める。発動できるようになったらこの糸を通して合図してくれ』
『足止めは頼みます!』
『任せろ』
レルゲンが再びヴァネッサに向けて駆け出し、黒龍の剣とスライムの剣で打ち合いが始まった。
「作戦会議は終わったのかしら?」
「さぁな」
「いいのよ隠さなくても。私を倒せるかもしれない策が思いついたんでしょう? でもそんな簡単に行くかしらね? 私はただキング・スライムになって幹部の座に召し上げられた訳じゃない。それこそ日頃から応用できることを探しに探して、魔王様が復活するのを待っていたんだから!」
レルゲンは独白とも取れるヴァネッサの言葉を聞き、疑問を口にする。
「……何を当たり前のことを言っているんだ?」
打ち合いの状態から一歩だけレルゲンに押し込まれる。ヴァネッサは押し返そうと重心が前にかかった。
レルゲンは剣を打ち合う角度を変え、ヴァネッサの軌道を前のめりに引き寄せ、前に倒れ込ませる。
ヴァネッサはすぐに起き上がろうとするが、レルゲンが浮遊剣にしていた氷華に魔力を込めて、遠隔操作で地面を凍らせて這いつくばらせて固定する。
『今だ、セレス!』
「待っていました!」
セレスティアが神杖に全開で魔力を通し、ヴァネッサの頭上に巨大な聖属性の白い光を纏った氷を出現させる。
「ダブルキャスト・マジック――ハイリッヒ・フォルン!」
素早くレルゲンがその場から念動魔術で後ろに飛び距離を取る。
巨大な質量を纏った氷塊は、床が衝撃に耐えられるはずはなく、そのまま大きな穴を開けて地上に向けて落ちる。
地震のような衝撃が魔王城全体に響き渡り、大きな土煙を上げて頑丈に建てられているはずの床を次々と破壊していく。
押し潰されたヴァネッサは、もう生きているのか圧死しているのかすら分からない。
床が完全に崩れ落ちた瞬間、レルゲンが全員を念動魔術で空中に固定し、階段付近まで移動して降ろす。
「セレス姉様。流石にやりすぎじゃ……」
マリーがぽっかり空いた穴を覗き込みながらセレスティアに向けて言葉を掛けたが、晴れやかな顔でマリーに微笑む。
「これくらいやらないと、幹部はきっと倒せませんから」
「そうだな。ヴァネッサの生命力はずば抜けて高い。これくらい派手にやらないときっと何度やっても再生してくると思う」
戦っていた二人がそう感じているなら間違いないと、マリーも半ば呆れながら納得する。
構造から察するに、頂上階まであと少し。
これから戦う相手が何人いようが、大詰めに差し掛かってきていることは確かだった。
◇◇◇◇
魔王軍の研究者であるスティルは、複数の魔力が階段を登ってくる気配を感じ取っていた。
「来たか……! 僕の、僕だけの騎士君……!! ところで助手はどうしてここにいるんだい?」
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スピンオフ短編もあります!
「悲恋の掌握者、ディシアは自分の足で歩いていく」
第二部から登場するディシア・オルテンシアの幼少期のお話になります。




