197話 スライムの再利用
「焦っているな? どうやら早く決着をつける理由があるらしい」
「諦めの悪いあなたたちに親切に教えてあげているだけよ」
「それはどうかな」
今度はヴァネッサも体内から剣を一本取り出してレルゲンを迎え撃つ。
その剣もまたヴァネッサの身体と同様に圧縮されており、その強度を活かして黒龍の剣へぶつけてきた。
すると、今度は本物の剣同士で打ち合っているような感触がレルゲンの手から伝わってくる。
――奴の身体よりも高い圧縮率で生成されているな。
剣戟の音色が室内に鳴り響く。
魔力を剣に乗せたことによる余波が壁や床に伝播していき、無数の軌跡が走る。
「ダブルキャスト・マジック――ルミナス・バーナー!」
セレスティアが後方から複合魔術を発射して援護するが、ヴァネッサはスライムの盾を今度は出さずにそのまま脇腹付近に受けた。
一本の白い炎が直撃し、ヴァネッサの圧縮している体表を溶かしながら進んだが、今度は体組織を捨てることなく修復される。
ブクブクと泡立ちながら当たった部分が徐々に冷やされてゆき、やがて何事もなかったかのように元に戻る。
「どうやら火の耐性も上がっているようだな」
「熱烈な魔力――ご馳走様?」
セレスティアの新しい複合魔術は乱発こそしなかったが、手札が一枚消える。
しかし、セレスティアは同時にあることに気づいた。ルミナス・バーナーを放った後、ヴァネッサが一瞬だけ苦痛の表情を浮かべていた気がしたのだ。
その一瞬の表情の変化は、ある予感を示していた。
――攻撃が全く通らない訳ではないのですね。
自然とセレスティアの目に力が宿る。
纏っていた雰囲気の変化に、ヴァネッサもまた気づいていた。
――攻撃が通っていないと思いながら、なぜあんなに空気がピリつくのかしら、はっ! まさか……!
「セレスを気にするのは結構だが、こちらにも集中してもらおうか」
「……そうね! 折角奥の手まで見せたんですもの!! もっと楽しみましょう」
レルゲンはヴァネッサと剣での打ち合いを経て、自分の方が手数が多く出せていることに疑問を持っていた。
最初にレルゲンの剣をあえて受けた時とは違い、ヴァネッサがあえて剣をその身に受けているとも考えられなかった。
剣での打ち合いを続けながら、ある予想を口にする。
「なるほど――圧縮して硬度は上がったが、速度はその分落ちているな?」
「そうね! 私の自慢は攻撃速度とは違う所にある。だけどいいの? そんなに私と何度も打ち合って」
「どういう意味だ」
「すぐにわかるわ」
ヴァネッサが口にした瞬間、持っていたスライムの剣が大きく曲がり、剣同士の衝突で黒龍の剣を振り抜いていたレルゲンが大きく前に引き寄せられる。
「くっ……!」
黒龍の剣はレルゲンの筋力だけではどうやっても軌道を変更することができない。
念動魔術による制御が必須になる。
今回のように不測の事態が発生した時に、全力の念動魔術による軌道変更を試みても、どうしても半歩だけ出遅れてしまう。
そこをヴァネッサは痛烈に突いてきた。
曲げられたスライムの剣がレルゲンの黒龍の剣を躱し切った瞬間、まるで鞭を振るうように曲がっていた剣の先端が剣の形状に戻る。
薙ぎ払ってくるヴァネッサの一撃をレルゲンはまともに腹部で受けた。
衝撃が身体を叩き、思わず膝をつく。
「だから私は親切に教えてあげていたのよ? そんなに剣として、私のスライムと打ち合っていていいのかってね」
得意気に語るヴァネッサだったが、よく見ると完璧に捉えたレルゲンの腹部からは出血はなかった。
眉をひそめてヴァネッサが見つめる。
レルゲンの左手の前には、小さなスライムの板が固定されていた。
「それは……!」
「そうだ。お前がセレスの攻撃を受けた時に投げ捨てたスライムの一部さ」
「そんな物で! 私の攻撃が防げるわけないわ!」
「確かに、そのままだと強度が足りない。だがお前は今――身体を圧縮しているんだろう? 俺の念動魔術でこの捨てられたスライムを圧縮してやれば、擬似的にお前の強度と同じだけの物ができるはずだ。実際は賭けだったがな」
「ふぅん? 用心深いこと」
さっきのような騙し討ちは一回限りの飛び道具に等しい。戦いの空気は、レルゲンが握っていた。
ヴァネッサがレルゲンの奇策によって意識が移ったと感じたセレスティアは、新たなダブルキャスト・マジックを放とうと、神杖に意識を集中する。
今なら距離を取っているセレスティアへ意識は向かない。全力で繰り出される複合魔術がヴァネッサへと襲いかかった。
「ダブルキャスト・マジック――ハイリッヒ・グリッター!」
聖属性と光属性の似て非なる複合魔術が集束し、解放された光はレーザーのように穿たんとする。
ルミナス・バーナーと色こそ似ているが、段違いに初速が速い。
発射されるのに長い溜めがかかる難点を除けば、火力も申し分なかった。
横目でセレスティアが放った複合魔術の危険性を察知したヴァネッサは、圧縮されたスライムの盾を五枚展開して守りの体勢に入る。
だが、準備も虚しく、まるで紙を貫くようにスライムの盾を貫通――ヴァネッサの自慢の身体を深々と貫いた。
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スピンオフ短編もあります!
「悲恋の掌握者、ディシアは自分の足で歩いていく」
第二部から登場するディシア・オルテンシアの幼少期のお話になります。




