195話 ダブルキャスト・マジック
「ダブルキャスト・マジック――ルミナス・バーナー!」
セレスティアの持っている神杖の内部に、二重の系統が混ざり合うように渦巻く。
巨大な水晶部分から、一本のラインを描くように細い青い炎が真っ直ぐ伸びてゆく。
大気を焼きながらヴァネッサへ襲いかかるが、どこか余裕の笑みを見せた。
「また魔術の攻撃ね! もう一度叩き切ってあげるわ」
先程と同じようにセレスティアの放った魔術を無効化しようと、赤い両手剣を振り下ろす。
だが、青い炎は斬られるどころかヴァネッサの持っていた剣を溶かし、腹の中心に大きな風穴を開けた。
傷口は大きく火傷を負い、ヴァネッサがくぐもった声を上げる。
「ぐっ……! これは……!!」
「そうです。今のは複合魔術です。いくら魔術を斬ることに自信があったとしても、私の魔術はもう斬らせません」
「舐めていたのは、私の方だったってわけね」
ヴァネッサに開いた大きな風穴は、しばらく傷口を焦がし続けたが、焼けこげた部位を自ら抉り取り、即時に回復を終える。
ここで、捨てられたヴァネッサの一部をレルゲンが一瞥し、一つの仮説に辿り着いた。
「なるほど、お前――スライムの類だな? その剣も身体の一部から作っているんだろう?」
「ふふっ、よくわかったわね! そう! 私はキング・スライムのヴァネッサ・ヴァロネッサ! ちなみにこの服もまた私の一部。だから、この通り治すことだって何度でもできるのよ!」
「お前の異常な再生力は、初めて戦ったときに引っかかっていた。今、ようやくわかったよ」
ヴァネッサが投げ捨てた一部は、既に水のようになっている。
「なるほど、いい観察眼ね。スライム程度と舐め腐った挑戦者を、何人もくびり殺してきたのよ? だけど、始めから相手の油断を誘う戦い方は、ただの単調な殺し合いでしかない。だから、戦うのは私と互角にやり合える可能性を持つ者のみに減らして数百年――ようやくあなたたちに巡り会えたってわけ」
嬉しそうに自分の身体を抱きしめながら、誘うようにヴァネッサが身震いした。
およそ敵を前にして、戦闘中にするとは思えない仕草に不気味さを覚えるが、レルゲンたちも気概では全く引けを取っていなかった。
「セレス、複合魔術は後何発撃てる?」
「残弾数は気にしないで下さい。基礎鍛錬は欠かしたことはありません」
レルゲンは少し笑い、自分よりもセレスティアに攻撃の要にした方がいいと考えを転換する。
「俺も援護する。スライムの延長進化なら、少なくとも熱を持つ魔術なら効果があるはずだ」
火の専門家とも言える小さな純精霊を呼び、セレスティアが放つ魔術の道を開くと決心する。
「待ってたよレル君! セレスちゃんの道を私たちで作ってあげようか!」
「ああ……!」
大量の火の上位魔術を背後に出現させ、背後に待機させる。
無数のブルーフレイム・アローズに、ヴァネッサは息を呑んだ。額から汗を垂らした瞬間、レルゲンとウルカによる怒涛の連続射出が襲いかかる。
しかしヴァネッサは動かない。
苦手としている属性の連続射出を、両手を広げて全て受け止めた。
するとヴァネッサの身体が肥大化する。効果が薄いと考えたレルゲンは、すぐに射出を止めた。
「ご馳走様! だけどもう少し撃って欲しかったわね」
「お前は火を苦手にしていないのか」
「私はキングのスライムよ? 苦手系統を克服していないはずがないじゃない。魔術師の初撃を弾いたのは、単純に吸収できる魔力が少ないのと、無駄な時間をなくすためよ」
「そうか」
レルゲンは素早く氷華に持ち替え、遠距離から氷結攻撃を放った。床を氷が這うように伸びていき、ヴァネッサを捉えようとしたが、垂直に跳ねるように飛び上がり回避される。
「その攻撃は前に見たわよ……?」
ここでレルゲンが魔力を氷華に乗せ直し、念動魔術で氷の軌道をヴァネッサのいる空中へと変える。
「あら?」
瞬時に氷の塔が伸びていき、再びヴァネッサの動きを封じる。
「今だ! セレス!」
「ダブルキャスト・マジック――ルミナス・バーナー!」
ヴァネッサは下半身を固定され、攻撃を逃れることはできない。二人の完璧なコンビネーションが追い詰める。
しかし、ヴァネッサは動かせる手を前にかざし、スライムで作った盾を前に三枚重ねて受け止めた。
セレスの複合魔術は、一枚、二枚と盾を容易く貫通するが、最後の一枚で威力が大きく減衰される。それでも、ヴァネッサの頬を焼いて裂いたが、持ち前の再生力ですぐに修復。
「厄介な術ね……!」
再び複合魔術を乱発すれば、手札を無為に失うことになる。セレスティアは複合魔術に入門したとはいえ、まだ手数はさほど多くない。
――新しい複合魔術がいる……!
セレスティアが躊躇ったのを察知したレルゲンは、すかさず黒龍の剣に持ち替えて光線攻撃を反射的に放つ。
「――シッ!!」
ヴァネッサは盾を今度は五枚展開し、青く光る光線を受け止める。
二枚目までは簡単に粉砕し、三枚目でようやく少しの間だけ耐えるが、これも破壊し五枚目を一気に呑み込んだ。
「やっぱりその技は厄介ね!」
「どうやら一度に吸収できる量を超えると傷になるようだな」
「だけど、私を全て消し飛ばすほどの威力には少し足りないわよ」
「ああ、だからこそセレスがいるんだ」
氷の拘束から解放されたヴァネッサは地面に落下し、セレスティアを鋭く睨みつけた。
「ダブルキャスト・マジック――フラッシュ・バインド」
発動と同時に、縄状の紐がヴァネッサを縛り上げた。
「スライムの私に物理的な拘束が効くわけないでしょう? こんな物、すぐに取り込んでやるわ」
取り込んで強力な体液で分解しようとした瞬間――セレスティアが片目を閉じてパチンと指を鳴らした。すると、ヴァネッサの身体を強力な電気が走り、身動きができないほど全身を痺れさせた。
「こ、こん……な、もの……!」
動きを封じられてなお、無理矢理身体を動かそうと、美しい女性の姿が大きく崩れた。
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スピンオフ短編もあります!
「悲恋の掌握者、ディシアは自分の足で歩いていく」
第二部から登場するディシア・オルテンシアの幼少期のお話になります。




