192話 形勢逆転の一手
マリーは余裕たっぷりのフィルネルを見て、呆れた様子で肩をすくめた。
「それはちょっと私たちのことを舐めすぎなんじゃないかしら?」
「その通りだ――認識を改めて、ここからは本気でやらせてもらうとするかね」
一気に魔力が膨れ上がり充実していくフィルネルは、ショートソードへ滑らかに魔力を流し込んでいく。
――目で見て判断しているようでは正確な位置が掴めない。でも、ジャックとやった時のようにすれば……!
マリーは一度深呼吸をしてゆっくりと目を閉じる。同時に神剣から放たれる白い光が一層強くなり、魔力と覚悟を込めていく。
静寂が辺りを包み、視界をわざと閉じたマリーを見たフィルネルは疑問に思うが、すぐに一つの答えに辿り着く。
――あのお嬢さん、狙ってかはわからないが、五感の中で一番効果の高い手段を選択しているな。
目を閉じたままのマリーに向けて、フィルネルは油断することなく走り込み、ショートソードを振り抜いた。
体重が十分に乗せられた攻撃は、ショートソードとは思えないほど重い一撃となり、マリーの首筋めがけて放たれた。
「――シッ!」
だが、首筋に刃先が届く寸前、マリーの神剣が吸い寄せられるように軌道上へ滑り込み、完璧に防いでみせる。
「へぇ……?」
踏み込んだ時の足が地面を蹴った衝撃や、ショートソードが風を切る――音を頼りに攻撃を防がれたのかと考えたフィルネルは、すぐに攻撃方法を変える。
空中に音もなく浮かび上がり、空を両足で叩いて瞬間的に速度を上げ、マリーの背後を取る。
背後からの一撃はマリーの背中を斬らんと狙い澄まされたものだったが、神剣を背後に構えて再び完璧な防御を披露される。
「音ではないのか……!」
「今度はこちらから行くわよ」
すかさず距離を取るために後方へ大きく跳んだが、着地点には既にマリーが先回りしていた。
――速い……!
フィルネルは上体を無理矢理捻り、下で待ち構えているマリーに向けて上段からの一撃で応戦しようとする。
しかしマリーはフィルネルに攻撃する素振りだけ見せてフェイントをかけ、更に位置を移動して撹乱を始めた。
隙を晒したフィルネルに神剣で斬り込む。
今度は、確かな手応えがあった。
「……っ!!」
肩で荒い呼吸をして、斬られた背中を急いで修復しようと意識を集中しながらも、フィルネルは時間稼ぎのために言葉をかけた。
「はぁ……はぁ……ずいぶんと面白いやり方をするじゃないか」
「このまま一気に終わらせてもらうわ」
「こんな面白い戦い、そんなにすぐに終わらせるのは勿体ないとは思わないかい?」
「全く思わないわ――楽しむために戦っているわけじゃないもの」
マリーは最後の一撃とばかりにフィルネルに肉薄していったが、背後から狙われていると感じ、すかさず振り返って神剣を振る。
「なっ……!」
しかし、そこにはフィルネルの姿はなく、混乱したマリーは目を開いて確認する。
マリーの様子を見て確信した様子のフィルネルは、笑みを見せながら治療を終えた。
「やっぱりだ。お嬢さんは俺の殺気に反応して位置を割り出しているな。わざわざ余計な反応をしないように目を閉じる徹底ぶりには脱帽だが、種が割れればあとは簡単さ……! 今みたいに俺の気を固めた魔術を飛ばせば、もうその回避方法は使い物になるどころか足を引っ張るぜ」
それでもマリーは一度成功した戦い方に拘った。だが、フィルネルの幻惑を超えた魔力の幻影とも言える魔術に翻弄されていき、傷が少しずつ増えていく。
形勢が逆転した状況に、マリーは内心で焦りを感じていた。
――対応策が思いつかない……! 魔力を感知しないようにできれば、こんな奴大したことないのに……!!
「くっ……!」
「終わりだぜ、お嬢さん」
最後の攻撃とばかりにマリーに迫る剣は、必殺の一撃となって命を刈り取ろうとしていた。
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スピンオフ短編もあります!
「悲恋の掌握者、ディシアは自分の足で歩いていく」
第二部から登場するディシア・オルテンシアの幼少期のお話になります。




