189話 魔王城突入
橋の上を駆けて進んでいく。
一瞬だけ、赤い閃光が明滅した。
今度はレルゲンも攻撃主と思われる場所を余裕を持って割り出す。
「そこか」
まだ正確な狙いがわからないほど遠くからの狙撃――しかし、走っている召子を先読みした位置に計算して放たれている。
着弾の寸前にレルゲンの念動魔術によって強引に軌道が変更され、またも明後日の方向に進んで行ったと狙撃手は弾から目を切った。
すると、狙撃ポイントの開口部の石でできた壁面に、大きな音を立てて弾がめり込んだ。
「ほぉ、こりゃさっき撃った弾か? 弾くだけじゃなく軌道変更も出来るのかい――怖いねぇ……!」
大雑把とはいえ位置を割り出された狙撃手は城内を素早く移動し、屋内戦へ切り替える準備を始める。狙いは勇者ただ一人。
――勇者は魔術が使えないと聞いていたが、間違いなく魔術か加護の一種……誰のものかすらわからないのは厄介だねぇ。
今までの勇者の中に、聖剣の〈スキル〉で遠距離狙撃を防ぐ術があった記録がないことから、一緒にいた仲間の誰かがカウンターを仕掛けたと、狙撃手は思考を一瞬で整理した。
狙撃手は魔王城を高速で移動し、次の狙撃ポイントまで駆ける。
追撃がまだ来ないと察したレルゲンは、他にも攻撃される可能性を考えながら、走る速度を少し落とし、最大限の警戒を張り巡らせて城へ近づく。
「多分攻撃してきた奴は移動しているはずだ。今のうちにできるだけ近づこう」
ディシアを念動魔術で浮かせたまま、レルゲンたちは進んでいき、もうじき橋に掛かっている簡素な門を抜ける。だが、門を潜った瞬間――大型の魔物が複数現れ、レルゲンたちの行く手を阻んだ。
「――動くな」
レルゲンが強烈なイメージを言葉に流し込んで発声すると、魔物たちは金縛りに遭ったように硬直した。
そのまま魔力消費をせずに魔物たちをやり過ごし、硬く閉ざされた魔王城の扉に向けて手をかざす。
「――開け」
扉の中から何重にも鍵が掛けられている仕掛けが、重低音を響かせながら一つ、また一つと鍵が外される。
中で待ち構えていた悪魔たちは、真正面からやって来た愚かな勇者一行を罠に嵌めながらじっくり料理するつもりだったが、まさか本当に真正面から鍵を開け、中に入ろうとするレルゲンたちを前に半歩だけ後退り、持っている獲物を構えた。
「ここはすぐに侵入される! 迎撃体制! 入った瞬間、奴らを蜂の巣にしろ!」
悪魔の戦闘員が魔力を高め、手に持っている小さな魔道具に魔力を注入していく。
魔法陣が術式の代わりとなり、起動した瞬間に物質が構築される。
「第一部隊、構え……!」
悪魔の隊列が魔道具を構え、扉へと構えた。
最後の内鍵が開けられ、正面の大扉が音を立てて開いていく。
同時に七つの影が姿を見せると同時に、悪魔を指揮している一人が、挙げていた右手を勢いよく下ろした。
「撃てぇええ!!!」
破裂音にも似た音が耳を叩いた瞬間に、レルゲンたちへ一斉に棘のような小さな物体が襲いかかる。
しかしレルゲンは焦った様子を見せず、ただじっと攻撃が開始されていると感じながらも、冷静に悪魔たちの位置を見渡し、捕捉を始める。
物体は強引に軌道を曲げられ、上下左右に散っていったが、次第に空中に壁を張るように、弾の速度を完全に殺して固定されていく。
「――戻れ」
レルゲンが一言だけ発すると、物体の先端が反転して発射された方向へと向きを変える。
射撃時を遥かに上回る速度で放たれた弾は、容易に壁を貫きながら魔道具を粉砕しつつ攻撃した悪魔の指を消し飛ばし、一斉に悲鳴がこだました。
奇襲作戦が失敗に終わったと判断した指揮官は撤退の合図を出し、指を失った悪魔の魔力反応が遠ざかる。
城攻めを想定していたレルゲンたちは、壁に突き刺さった物体を念動魔術で浮かせて構造を確認する。
「これは、鉄の塊か?」
「随分と早い撤退だけど、レルゲンの魔術は今の攻撃を見る限り知られていなかったようね」
召子はレルゲンが浮かせている鉄の塊を見ながら、みるみる顔を青ざめさせた。
「逆にレルゲンさんがいなかったら、私たちはここで殺されていたんじゃ……それに……」
「この武器、召子は見覚えがあるのか?」
「はい――あの武器は恐らく私の世界で一番手頃な武器として、戦争に用いられていた銃というものだと思います」
「銃か――なら、魔王軍には召子の世界の技術を持った転生・転移者か、あるいは過去の勇者側にいた転生者の技術を自分たちなりにアレンジしているかの二択だな」
よく見ると、棘のように見えていた物体は、螺旋を描くように小さな突起が施されている。
レルゲンが貫通力を上げるために回転させる螺旋剣と構造が瓜二つ。
殺傷力に特化しているとすぐに理解する。
分析するために毒分離の念動魔術をかける。
すると、やはり弾の表面に黄色い粉末が塗りこんであり、何かしらの毒が施されていた。
例え掠っただけでも動きを封じる毒が全身を回り、魔術の発動さえ難しくなる可能性がある。
それが雨のように降り注ぐのは、過去の勇者の強さを知るがゆえか――それとも、ジャックを退けたことで自分たちへの警戒度を引き上げたのか。その真意はわからない。
それでも、開戦した直後から全力で殺しの手段を取っていると嫌でも脳裏に叩きつけられた。
「相手の準備が整うよりも早く進もう」
穴だらけになった入り口の大広間を抜けて奥へと進む。壁から壁に音が伝播しながら近づいてくる物体が一つ、即座に構え直すレルゲンたちに、一発の弾丸が飛来した。
――何度やっても同じだ。
またも召子の眉間へ正確に狙われた狙撃は、軌道を大きく変更されて近くの窓を突き破り、外へと飛んでいく。
『今のでも駄目かい? 中々やるねぇ――これは骨が折れそうだ』
声だけが響いてくるため、狙撃手の位置の割り出しは不可能。しかし、飛んできた方向は近くの階段よりも更に上の階層からというのは、音の軌跡より逆算できた。
レルゲンが大きな声を出して狙撃手に向けて言い放つ。
「小心者よ、姿を見せたらどうだ……!」
『いやいや、遠慮するよ。近づかれたらそっちの勝ちは揺るぎない。でもそれは近づけたらの話。いつ、どこから攻撃が飛んで来るかわからない状況で、神経をすり減らしてくれると助かるねぇ』
そう言い残し、遠くから声を響かせた狙撃手は、気配を完全に消して行方を暗ませた。
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