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亡国の天才魔術師レルゲンの成り上がり~孤独だった俺を救ったのは、命がけで護った敵国の王女でした~【19万pv作リライト版】  作者: 雪白ましろ
第三部 魔界突入編

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185話 杖つき少女の意思

 凄まじいプレッシャーを放つ魔王軍最高幹部の一人、ジャック・ボロスを前に、レルゲンを含めた全員がその発せられる存在感に固唾を呑んでいた。


 首をコキコキと音を鳴らし、身体の感触を確かめたジャックの目は戦いではなく、これから狩りを行う捕食者として順番に品定めする。


「……行くぜ」


「っ……!! 一旦下がれ! コイツは俺が……!!」


 レルゲンは即座に全員が狙われていると察して一旦引くようにジャックから視線を切る。だが、これが不味かった。

 一瞬でもジャックから注意が逸れた隙に、レルゲンの懐深くまで距離を詰め切り、神速の突進攻撃が完璧にレルゲンを捉えた。


「……っ!」


 とてつもない勢いで後ろにあった巨大な大木に叩き付けられたレルゲンは、内臓が大きく損傷し、口から大量の血を吐き出す。


「ぐっ……!!」


 突進をかましたジャックはレルゲンと同じだけの衝撃が全身を襲った筈だが、全く反動によるダメージが入っていない。


 これが魔王軍上位の力か……と意識が朦朧とする中でもレルゲンは何とか立ち上がろうとするが、足に力が入らずに、口から更に大量の血を吐いた。


 仲間がレルゲンに向かって駆け寄ろうとするが、ジャックはそれよりも速く瀕死のレルゲンに止めを刺そうと前かきをして睨みつけ、一気に加速する。


 ――もう誰にも止められない。

 勝ちを確信してもジャックの表情は変わることなく、レルゲンに向けて必殺の前足による切り裂き攻撃を入れた。

 ここでレルゲンは完全に絶命する――はずだった。


 瀕死のレルゲンとジャックの間に一つの影が割り込んだ。神速の突進に割って入ったのは、マリーやセレスティアでもなく、ましてや召子ですらなかった。


 レルゲンは意識が薄れかける中、確かに見た。

 杖を放り投げてジャックよりも速く間に割り込んだ、杖が無ければまともに歩くことすらできないはずの、一人の少女を。


 ――必ず護る!! 今ここで、彼を失うわけにはいかないッ!!


 そう強く念じたディシアは、自分でもよくわからないような力が、身体の内側から溢れ出るのを確かに感じた。ディシアの世界から色が、音が消える――ただ一人の大切な人を護るために。

 無我夢中で間に割って入り、両手を横に広げてレルゲンを護ろうとする。


 ジャックは自分と同等以上の速度で割って入ったディシアに驚きはしたが、自分に襲いかかって来ないとわかってから、攻撃は中断せずにそのまま振り下ろした。


 だが、ディシアは両の手を伸ばしてから不思議と身体がまたも勝手に動いた。

 ゴルガからもらった籠手の装備を、攻撃の射線にピタリ合わせて衝突させる。


 ――ガキィイイン!!


 辺りに衝撃音と火花が散り、ディシアの左腕は大きく弾かれて肩が完全に外れた。

 それでも、一撃を完全に防がれたと感じたジャックは、死にかけのレルゲンではなく先にディシアへ止めを入れようと狙いを変更した。


 その一瞬の隙間にマリーが斬りかかり、攻撃を中断させる。


 足に込められた力がもう全く入らないディシアは体勢を崩して座り込み、外れた肩を腕力で戻した。ディシアは我ながら、なぜ外れた肩が自分で戻せると感じたのかはわからなかったが、心の中で確信していたこともあり、簡単に肩は元の位置に戻った。


 ――ありがとうございます。ゴルガ様。


 素早く距離を取り直したジャックは瀕死の二人を睨んだが、マリーが力強く地面を踏みしめてジャックの前に立ち塞がった。


「セレス姉様……!!」


 二人の元へセレスティアと召子がようやく辿り着き、セレスティアが二人に回復魔術をかける。


「こちらは任せて下さい。絶対に治してみせます。だからマリー、召子、あの化け物の足止めを頼みます」


 マリーはジャックから目を離さずに頷き、召子はアビィにセレスティアの回復の補助をするように指示を出す。


「召子。セレス姉様はああ言ってるけど、あの化け物は私一人でやるわ。もし後ろに逃してしまってレルゲンとディシアが狙われたら、あなた身体を張って止めて」


「お任せください。フェン君、目を離しちゃ駄目だよ!」


「ヴァフ!」


 回復魔術によって意識がハッキリとしてきたレルゲンは無理矢理に立ち上がろうとする。


「レルゲン! まだ回復は全く終わっていません! 立ち上がろうとしないで!」


 セレスティアが悲鳴にも似た声を上げたが、それでもレルゲンは身体を無理矢理に動かそうとする。


「無茶だ……! あの化け物相手に、一人で戦うなんて!!」


 無理に叫んだことで塞ぎかけた傷口が開き、血が滲んだ。


「自分の奥さんを信じなさい! キッチリお礼してやるわ」


 マリーの表情は硬い。それでも、得意げに笑ってみせた。それを見たレルゲンは、再び腰を地に落とした。


「うちの旦那が世話になったわね、ジャック」

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